私たちのまち 今こうなっています
「ススキノを嫌いにならないで…」

2020年11月30日

新型コロナウイルスの“第3波”にいち早く見舞われた北海道。なかでもクラスター=感染者の集団が相次いで発生しているのが、札幌市中心部のススキノです。

ススキノと言えば、老若男女を満足させる、食と娯楽がそろった全国有数の繁華街。しかし長引く感染拡大で「すり減っていくかのようにじわじわと衰退している」といいます。

このまちを愛し、活動を続けてきたライブバーの経営者たちが語る“ふるさと”の厳しい現実と、それを乗り越えようと取り組む姿を取材しました。

「SUSUKINO BEAT」に込めた思い

“君と踊りたい 君と歌いたい”
“君の笑顔に 背中押されて”
いま、ススキノの関係者のあいだで話題となっている歌があります。

タイトルは「SUSUKINO BEAT」。

ススキノのライブバーで活動してきたミュージシャンなど、13人がコラボして作り上げたオリジナルの歌です。ことし7月に感染防止の対策を行ったうえで制作されました。

その1人のNORIさんは歌に込めた思いを語ってくれました。
「聞いた人が、ススキノへの“愛”を思い出すきっかけになってほしいんです」。

NORIさんは、このまちで半世紀近く続く老舗ライブバー「ナイトイン21世紀」で36年間歌い続けているボーカリストです。

これまでバブルの崩壊やリーマンショックなど大きな荒波を経験してきましたが、今回はそれらを上回る未曽有の危機だと話します。

NORIさん
「私たちは今、『いらっしゃいませ』というひと言が言えないくらい、お客様が減っている状態です。耐え忍んではいますが、一つ一つの店に元気がなくなっていて、ススキノの街全体もじわじわと疲弊しているように感じています。この状態が続いたらどうしたらいいんだろうと混乱しています」

じわり“疲弊”するススキノ

ススキノの現状を、NORIさんは街を実際に歩きながら教えてくれました。

ススキノで半世紀近く営業してきた人気の居酒屋は4月に閉店。

昭和に一世をふうびしたあのマンモスキャバレーの支配人が経営する人気のバーも、3店から1店に縮小。

さらに、プロミュージシャンを輩出してきたライブハウスも店をたたむなど、多くの“老舗”が看板を下ろしていました。

NORIさん
「さみしいですね…でもなんとか乗り切らないとね」

シャッターを閉めたなじみの店の前を通るたびにため息をつくNORIさん。実際、ススキノ地区にあるおよそ3800の飲食店のうち、すでに300店舗が廃業したとの統計もあります。

そして、NORIさんの仲間が経営するライブバーや飲食店を次々と訪ねて話を聞いていくと、驚きの事実がわかりました。

ススキノのとある地域に入ると、客のあいだでは「三途の川を渡った」と言われるというのです。

国道36号線の“南”では…

ススキノとひと言でいいますが、札幌市中心部の繁華街のどこからどこまでをススキノと言うのかは、実は、はっきりしていません。統一の見解がないからです。

そんななか、国道36号線より南のススキノと、それより北のススキノとは「別世界になっている」と、NORIさんはいいます。

NORIさん
「私のお店は36号線から南側にありますが、ここは危険区域なんだそうです。どうしてそう言われるようになったのかは、正直、分かりません。私たちは1日にお客さんが数人ということもあるのに、北側の飲食店はすごく混んでいるとも聞きました」

きっかけは札幌市が今月7日から行った感染対策の強化でした。

市はススキノでクラスターが相次いで発生していることを受けて、接待を伴う飲食店やバーなどには営業を午後10時まで、居酒屋などの飲食店には酒の提供を午後10時までに終えるよう要請しました。

その対象地域を市は厳密に区切っていて、このうち北の境界線は国道36号線より500メートルほど北のところに設定しています。

ところが客は、ススキノでいちばん象徴的な建物などがある国道36号線を北の境界と受け止めているようで、さらにそれより南は“危険地帯”だと思い込んでいるのです。

NORIさんの仲間で、「SUSUKINO BEAT」にも同じくボーカルで参加しているライブバーのオーナーも、国道36号線の南側に店を構えていて、戸惑いを隠しませんでした。

ライブバーのオーナー
「ススキノでクラスターが相次いだのは事実です。ただ、“夜の街=悪”と印象づけられていて、接待の伴う店でも、最大の対策をして頑張っているところはたくさんあるのに、すべてまとめて“36号線より南側の店が危ない”というイメージがついてしまっています。お客様本人が本当にそこを危険だと感じているのか、それともそこに行くと世間の目が厳しいと感じているかはわかりませんが、一概に危険と受け止められていることがススキノの仲間としては悲しいなと感じます」

“新しい夜明けのメロディー生まれてくるまで”

いつしか“危険地帯”とみられるようになってしまったという、ススキノ。

「SUSUKINO BEAT」は、その厳しい現実を伝えたうえで、聞いてくれた人にススキノへの“愛”を思い出すきっかけになってほしいと話します。

“すべてのビートを叶えることは出来ないけれど”
“新しい夜明けのメロディー生まれてくるまで”

歌詞の中からNORIさんが選んでくれた2つのフレーズ。

昔のように歌や飲食を自由に提供できなくなっているススキノのいまを語っています。

そのうえで、感染対策を徹底した新たなススキノの姿を見いださなければならないという決意を表しています。

あえてモノクロで制作された映像とともに、今の暗く落ち込んだ現状をストレートに歌っています。

NORIさん
「歌詞は決して明るくない。今を受け入れて、とにかく受け入れて、頑張っていくという内容だから。でも今、ススキノは非常に大変だという現状を知ってもらったうえで、でもそういえば、『ススキノでソウルフードを食べたり音楽を聞いたりして、ずいぶん元気をもらったことがあったな』『笑顔いっぱいで、忘年会もやったな』って、思い出してもらえたら、この楽曲を作って提供した意味があると思うんです」

この記事を書いている11月26日、北海道はさらに対策を強化しました。営業時間の短縮などの要請期間が延長されたのです。

“ススキノを嫌いにならないで”。

今、すぐに来てほしいとは言えないけれど、“ススキノで待っています”。

『SUSUKINO BEAT』に込められた思いが、多くの人に届いてほしいと思います。

札幌局 記者

飯嶋 千尋
(いいじま・ちひろ)