“宣言”解除~期待と不安と

2021年9月30日

「この1年半ですべて失った」
「100%のサービスをする自信がなく、不安でいっぱいです」

緊急事態宣言が9月30日の期限をもって解除されます。
各地では、営業再開への準備などが進められ期待が高まる一方で、不安の声も。
さらに医療現場では今後の第6波への備えも始まっています。

東京 飲食店 急ピッチで準備

10月1日の緊急事態宣言の解除で酒類の提供がおよそ2か月半ぶりに再開されるのに向け、都内の飲食店では急ピッチで準備が進められています。

東京 新橋で海鮮料理を提供する居酒屋「根室食堂」は、これまで都の要請を受けて酒類の提供を自粛し、ほとんど昼間のみの営業を続けてきました。

10月1日から酒類の提供が可能となるのに合わせて、9月30日午後、店主の男性が大量のジョッキを洗ったり日本酒の一升瓶を熱かんをつくる機械にセットしたりして、客を迎える準備を急ピッチで進めていました。

人手確保も

ただ、この店では、長引くコロナ禍でかつて16人いた従業員が次々に退職し、現在は2人しか残っていないということです。

このため以前は50品ほど準備していた料理を少ない人手でも提供できるよう15品ほどに減らし、そのメニューを書き替えていました。

また、人手の確保のため9月30日も準備のかたわら従業員の面接を行って女性1人を採用し、早速、10月1日から働いてもらうことにしました。

店主の平山徳治さんは「酒が提供できるのはとてもありがたいが、スタッフが足りずに100%のサービスをする自信がなく、不安でいっぱいです。店を始めて15年で築き上げたものをこの1年半ですべて失い、骨と皮の状態になり初めて肉づけに入る段階です。せめて人を採用・育成して当たり前のサービスを提供できる体力をつける時間の猶予が欲しかったです。これからが本当の戦場です」と話していました。

大阪の飲食店でも準備進む

大阪府では、緊急事態宣言が9月30日の期限をもって解除されるのに伴って10月1日から府の認証を受けている飲食店に限って、酒類の提供が午後8時半まで認められます。

2か月間休業している大阪 ミナミの日本料理店は、10月2日から営業を再開する予定で、酒類を提供できるよう準備を進めています。

9月29日は料理人らが接客はカウンター越しに距離を取りながら行うなど感染対策の注意点を確認していました。

日本料理店の上野翔平さんは「認証によってお客さんに安心して来てもらえると思います」と話していました。

認証審査終わらず再開めどが立たない店も

一方、大阪 松原市の立ち飲み居酒屋は、2021年7月に認証を申請し、府の立ち会い調査では基準を満たしたと判断されましたが、その後、審査が進まず、2か月たったいまも認証を受けることができていません。

営業再開のめどは立っていないということです。

店主の北川剛士さんは「同じ対策をしているのに営業できる店とそうでない店があるのはおかしいので、迅速に認証を進めてほしい」と話していました。

大阪府によりますと、1万余りの店舗が認証の審査中だということで、担当者は「申請が多く想定より審査に時間がかかっており、認証を急いでいる」と話しています。

静岡 酒の小売店 仕入れ再開

静岡県は8月20日に緊急事態宣言の対象地域に追加されましたが、9月30日の期限をもって解除され、県は飲食店などへの休業や営業時間の短縮、酒類の提供自粛の要請は行わないことにしています。

静岡市内にある酒の小売店では、生ビール用のたるなど事業者向けの商品の販売がほとんどなくなり、仕入れを停止していましたが、宣言の解除を前に今週から仕入れを再開しました。

小売店には、9月29日から営業再開に向けて準備を進める飲食店の来店が増えていて、ビールを仕入れにきた市内で中華料理店を営む男性は「1か月半以上も休業しました。解除が決まったので早くお客さんの顔がみたいです」と話していました。

静岡市ではまん延防止等重点措置の期間を含め、8月8日から50日以上にわたり飲食店などへの酒類の提供停止の要請が続き、この小売店でも例年の同じ時期に比べ売り上げが2割ほど減少したいうことです。

河野航平店長は「売り上げの減少で本当に苦しい時期が続いたので宣言の解除に期待しています。まだ不安もありますが、早くもとの日常に戻ってほしいです」と話していました。

北海道 動物園 再開準備

北海道旭川市の旭山動物園は、今回の緊急事態宣言を受けて8月27日から臨時休園していますが、宣言の解除に伴い、10月1日から営業を再開します。

これを前に9月30日、飼育員たちが展示スペースの点検や掃除をするなどして、準備を進めていました。

旭山動物園では2021年、2度の緊急事態宣言に伴い、合わせて2か月余り、臨時休園となっていて、来園者は例年の4分の1程度にとどまっているということです。

10月1日からの営業再開後も、当面は原則として、来園者が密集や密接するイベントを中止するなど、感染防止対策を徹底することにしています。

松尾英将主査は「動物たちも、営業再開を心待ちにしていると思います。感染防止対策を徹底しながら、来園者を迎えていきたい」と話していました。

東京 第6波に向けて備えも

新型コロナウイルスの第5波で、感染した妊婦に対応できる入院先が見つからないケースが課題となり、東京 墨田区は、第6波に向けて専用病床を確保し備えようとしています。

第5波による感染の急拡大で、千葉県で感染した妊婦の入院先が見つからず、自宅で出産した赤ちゃんが亡くなるなど、感染した妊婦への対応が課題となりました。

このため、東京 墨田区は、区内にある賛育会病院に感染した妊婦や子どもを受け入れる専用病床を7床確保し、都が入院調整を行っても受け入れ先が見つからない場合などに、対応してもらうことになりました。

この病院は、これまで新型コロナの対応にあたる「重点医療機関」ではありませんでしたが、第5波では受け入れ要請が相次ぎ、感染した妊婦が合わせて21人入院し、いつ赤ちゃんが産まれてもおかしくないケースもあったということです。

病院は今後も妊婦を優先的に受け入れるとともに、コロナ治療を終えたあと、育児に不安がある場合にも産後ケアを行うなど、第6波に向けた備えを進めることにしています。

産婦人科の山田美恵部長は「妊娠中にコロナに感染したらどうなるのかと不安を感じる人は多いし、妊婦はコロナではなくても、搬送が困難なケースがみられる。第6波でさらに感染が拡大すれば、なかなか受け入れ先が見つからないことが起こってくると思うので、感染して困っている多くの妊婦に対応したい」と話しています。

「不安すぎて泣ける」コロナ感染の妊婦は

都内に住む30代の女性は、新型コロナウイルスの感染が急拡大していた先月(8月)、出産予定日を9日すぎていつ赤ちゃんが産まれてもおかしくない時期に感染が分かりました。

出産に向けて、かかりつけの病院でPCR検査を受けた際に感染が分かったということです。

病院からは「陽性になった妊婦の出産は対応が難しい」と説明があり、受け入れ先が探されましたが、病床がひっ迫する中で病院が決まるまでおよそ6時間かかったということです。

その間、女性は無事に出産できるか不安で、家族に「搬送先見つからない」「不安すぎて泣ける」などと、LINEのメッセージを送って気持ちを落ち着かせようとしたといいます。

そして、自宅から離れた墨田区内の病院で受け入れが可能となり、午前1時ごろに搬送され、帝王切開で赤ちゃんを出産しました。

しかし、感染防止のため、すぐに別々の病室に分けられ、赤ちゃんには触れることができず、女性は当初、軽かった症状が悪化し、一時、酸素の投与が必要な状態になったということです。

女性は「搬送先が決まるまでは、赤ちゃんに対して『こんなことになって申し訳ない』という気持ちと、『安全に外に出してあげたい』という気持ちでした。出産後はしゃべるのも息苦しく、つらい状況でしたが、看護師さんたちが『コロナにかかったのはあなたのせいじゃない』と言ってくれたのが救いになりました」と振り返りました。

そのうえで「まさか自分が感染するとは思っていなかったが、感染して本当につらかったので、妊婦のかたは感染のリスクを避けて過ごしてほしい」と話していました。

専門家 “宣言”解除されても対策徹底・ワクチン接種を

都内の感染状況と医療提供体制を分析・評価する都のモニタリング会議が9月30日都庁で開かれ、専門家は、感染状況について、最も高い警戒レベルから一段、引き下げ、2番目のレベルにしました。

警戒レベルは4段階あり、第3波の前だった2020年11月19日に最も高いレベルに引き上げられ、先週まで維持されていました。2番目になるのはおよそ10か月ぶりです。

レベルを引き下げた理由について、専門家は「新規陽性者数の増加比は6週間連続して低下を続けている」などと説明しています。

また、新規陽性者数の7日間平均は9月29日時点で296人となり、第4波と5波の間の最小値だった2021年6月15日の367人を下回る水準まで減少したと指摘しました。

ただ、専門家は「感染拡大のリスクが高くなる冬に備え、新規陽性者数を徹底的に減らしておく必要がある」などとして、緊急事態宣言が解除されても感染防止対策を徹底し、ワクチン接種を進めるよう呼びかけました。