子どものワクチン接種
打ったほうがいい? 打たなくてもいい?

2022年4月22日

5歳から11歳の子どもへの新型コロナウイルスのワクチン接種が始まってから2か月余りがたちました。
ワクチンを2回打った子どもはおよそ6%、16人に1人ほど。
子どもはコロナに感染しても重症にはなりにくいですが、今も子どもの感染は相次いでいて、さらに、もうすぐ大型連休で出かけることも多くなるため、感染が心配にもなります。
ワクチンを打ったほうがいいか、打たなくてもいいか。
今、広がっているオミクロン株では、ワクチンで子どもの感染を防ぐ効果が31%と低くなっていますが、重症になるのを防ぐ効果は68%という研究の結果も出てきました。
どれだけ効くのか、副反応はどれだけあるのか。
子どもと保護者が一緒に考えられるよう、新しいデータも含めてまとめました。(4月22日現在)

子どものワクチンってどんなもの?

5歳から11歳の子どもに打つコロナのワクチンは、アメリカの薬の会社、ファイザーが作ったワクチンで、3週間あけて2回打ちます。

子どものワクチンの中には、体で働く成分が大人のワクチンの3分の1の量、含まれています。

ワクチンが効くのは、外から入ってきたウイルスや細菌と戦ってやっつける「免疫」と呼ばれるしくみが働くためです。

くわしく言うと、コロナのワクチンには、ウイルスの表面にある「スパイクたんぱく質」というトゲトゲの部分の設計図となる「メッセンジャーRNA」という物質が入っています。

ワクチンを注射すると、この設計図をもとに「スパイクたんぱく質」が作られます。

「スパイクたんぱく質」はウイルスの部品なので、これを目印にしてウイルスを攻撃する武器となる「抗体」という物質が作られ、本当に新型コロナウイルスが体の中に入ってきたときに戦えるようになるのです。

ワクチンを打っていなくて感染したときには、「免疫」は新型コロナウイルスの形に合った「抗体」を作って戦おうとします。

でも、十分な量の「抗体」を作るのが間に合わなかったり、敵が多すぎて期待したほど戦えなかったりします。

このため、せきやだるくなるなどといった症状が出たり、場合によっては重症になったりします。

ワクチンを打つと、新型コロナと戦うときの「抗体」をあらかじめ作っておけるようになります。

本当にウイルスがやってきたときに戦えるように準備することで、感染したり、症状が出たり、重症になったりするのを抑えることができるようになります。

どれくらいの子どもがワクチンを打っているの?

日本では、5歳から11歳までの子どもへのコロナのワクチンの接種は、2022年2月から始まりました。

2022年4月22日の時点で、ワクチンを1回打った5歳から11歳の子どもは85万人余り。

5歳から11歳の子どもは全国でおよそ741万人いるので、11.5%、9人に1人ほどです。

2回ワクチンを打った人は46万人近くいて、6.1%です。

16人に1人、1つのクラスでいうと1人か2人です。(首相官邸ウェブサイトより)

海外では、日本よりも早く、子どもへのワクチンが始まった国があります。

2回ワクチンを打った人は、例えば、アメリカでは4月20日の時点で28.3%で10人に3人、カナダでは4月10日の時点で40.7%と10人に4人となっています。

打ったほうがいいの? 打たなくてもいいの?

事情は人それぞれ、家族によっても考え方は違います。

それでは、どんなことを考えて、ワクチンを打つか打たないか決めたらいいのでしょうか。

大切なのは「ワクチンを打つことで起きるであろうよいこと=利益」と、「ワクチンを打つことで起きるかもしれない悪いこと=リスク」を比べて、どちらが大きいか考えてみるということです。

ワクチンを打つ利益には、例えば、自分自身がコロナに感染して重症になることを防げること、周りの人に感染を広げないこと、学校などで安心して過ごすことができる、といったことがあります。

ワクチンを打つことで起きるかもしれないリスクは、打ったあとに望まない体の反応、副反応が起きることがあります。(アメリカ・CDC=疾病対策センターの資料より)

さらに、今でも子どもの間で感染が多く起きていること、日本では感染しても重症になる子どもは少ないこと、それに、日本でも世界でも多くなっているオミクロン株と呼ばれるウイルスには、ワクチンで感染を防ぐ効果が下がっていることも考えるポイントになると、専門家は話しています。

子どももコロナのワクチンは無料で受けられますが、はしかや、みずぼうそう、日本脳炎などのワクチンのように、子どもが受けるよう保護者が努めなければいけないものではありません。

ワクチンの利益とリスクを比べて打つかどうか、家庭でも一緒によく考えて、打ったほうがいいか、打たなくてもいいか、考えることが大切です。

よく考えるために新しいものも含めて、詳しいデータを示します。

どれくらいの子どもが感染しているの?

4月19日までの1週間で、新型コロナウイルスに感染した人は、赤ちゃんから大人まで合わせて全国で31万4370人いました。

このうち、10歳未満の子どもは4万7659人で15.2%。

感染した人のうちの6人から7人に1人ほどとなっています。

年代ごとに人数を比べると、実は10歳未満の子どもが最も多くなっています。(厚生労働省データより)

子どもは感染するとどうなるの?

コロナの感染が始まってからの2年余りで、10歳未満の子どもは95万9662人が感染しました。

このうち亡くなった人は4人です。

また、4月19日までの1週間で重症になっている子どもの数は4人でした。

コロナに感染しても、子どもは軽症の人がほとんどです。

ただ、軽症といっても、高い熱が出たり、はいたり、のどの奥がはれて呼吸が苦しくなったりすることもあります。

小児科の医師などのグループ(日本小児科学会)は、もともと心臓や肺などに病気がある子どもでは重症になるリスクが上がるとしています。

また、症状が出なくても、治ったあとに、せきや息苦しさなどの後遺症が続くこともあります。

ワクチンの効果は? 何を防ぐことができるの?

ファイザーは2021年に、実際に5歳から11歳の子どもたちにワクチンを打って調べています。

2回打って7日以上たったあとでは、コロナで症状が出るのを防ぐ効果は90.7%でした。

ただ、今感染が広がっているオミクロン株というタイプの新型コロナウイルスは、ワクチンが効きにくいことが分かっています。

アメリカの研究者は3月11日、「ワクチンを打った5歳から11歳の子どもたち1364人を調べたところ、コロナの感染を防ぐ効果は31%だった」と発表しました。(アメリカCDCが週報に発表)

そのあと、3月30日にアメリカの研究者が発表した論文では、5歳から11歳の子どもがワクチンを打つと、オミクロン株でも重症になるのを防ぐ効果は68%に上ることがわかったとしています。

重症になった子どものほとんどはワクチンを打っていなかったとしています。(アメリカCDCなどが医学雑誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に発表)

ワクチンを打っても感染を完全に防ぐことは難しいですが、入院するような重い症状になることを防ぐ効果はあります。

ワクチンを打ったあとの副反応は?

ワクチンを打ったあとで副反応が出ることがあります。

体の「免疫」がウイルスがどのようなものか覚えるときに、熱が出たり、ワクチンを打った部分が痛くなったりします。

具体的にどのような副反応が出るのでしょうか。

ファイザーが調べたところ、注射を打った部分の痛みが出たのは、1回目の注射で74%、10人に7人ほどでした。

2回目の注射で71%、こちらも10人に7人ほどでした。

体がだるく感じた人は、1回目の注射で34%、10人に3人ほど。

2回目の注射で39%、10人に4人くらいでした。

38度以上の熱が出たのは、1回目の注射で3%、100人に3人ほどでした。

2回目の注射で7%、100人に7人ほどでした。(ファイザーが医学雑誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に発表した論文より)

5歳から11歳では大人に比べると、副反応が出る割合は低いということです。

ワクチンを打った場所が痛くなったり、腕を上げにくくなったりする症状は、ほとんどの人で出ますが、1日から2日ほどで治まるということです。

重い副反応が出ることはない?

まれに、ワクチンを打ったあとに心臓の筋肉が腫れたりして動きにくくなる「心筋炎」になる人がいることが分かっています。

日本では、4月1日の時点で、5歳から11歳におよそ53万4000回、ワクチンを打ちましたが、このうち「心筋炎」の症状が出た子どもは1人でした。(厚生労働省の副反応検討部会より)

アメリカでは、日本よりも先に子どもたちにワクチンを打っているので、副反応も多く調べています。

5歳から11歳で「心筋炎」になった人は、男の子では、1回目の注射では100万回当たり0回、2回目の注射では4.3回でした。

女の子では、1回目の注射ではデータが少なすぎてよく分かりませんでしたが、2回目の注射では100万回当たり2回でした。

いずれも軽症で、回復したということです。

また、アメリカからの報告では、ワクチンを打った後に亡くなった子どもは2人いましたが、2人とも、もともと病気があり、ワクチンを打つ前から健康状態が悪かったということです。

ワクチンを打つことによって亡くなったということを示すデータはないとしています。(CDCの説明資料より)

コロナのワクチンは新しいから怖いの?

コロナのワクチンは「メッセンジャーRNA」を使っている、世界で初めての新しい技術のワクチンです。

「メッセンジャーRNA」は病気を治すのに使おうと、30年以上、研究されてきています。

「メッセンジャーRNA」はすぐに壊れる物質で、ワクチンを打ってから、数日で分解されてなくなってしまいます。

厚生労働省も体の中に残って、悪い影響が出ることはないとしています。

また、何十年もたったあとに、ワクチンが原因で病気になることは考えにくいとされています。

専門家はどう見ているの?

ワクチンを打ったほうがいいのか、打たなくてもいいのか、専門家はどう考えているのでしょうか。

小児科の医師で、北里大学でワクチンの研究をしている中山哲夫 特任教授に聞きました。

「重いぜんそくで病院に通っているなど、もともと病気がある場合は、ワクチンを打ったほうがいいと思います。そうではない場合は、自分の生活スタイルや、家族のことを考えて判断してみてください。習い事やクラブ活動、スポーツをして、いろいろな人が集まる場面が多い子どもは、自分を守るために、ワクチンを打ったほうがいいかもしれません。おじいさんやおばあさんと暮らしている場合、子どもがワクチンを打つことで、おじいさんやおばあさんを守ることができます。子どもはコロナ以外にもいろいろなワクチンを打っていて、そのおかげで今、健康な生活を送ることができています。例えば、はしかに感染しても重い症状、脳炎になる人は1000人に1人しかいません。それでもみんなワクチンを打っていて、はしかにはめったに感染しないようになっています。コロナのワクチンも、ほかのワクチンと同じように考えてみたらいいと思います。そのために、ワクチンと感染症のことをよく知ってもらいたいです」。