厚生労働省の新型コロナ専門家会合
新型コロナ “第8波”は来る? 来るならいつ?
専門家の分析は

2022年10月18日

ようやく新型コロナの「第7波」がようやく収まってきたかというタイミングで、もう「第8波が来る」という話が出てきています。

本当に「第8波」は来るのか、来るとしたらいつ、どの程度の規模になるのか。そして、どう備えればよいのか。

感染者数の下げ止まりが見られつつあるいま、専門家に取材しました。

専門家 “第8波”に危機感

「専門家の間では、コロナに関してはかなり危機感がある」(10月12日 厚生労働省専門家会合 脇田隆字座長)

「日本でもこの冬、かなり大きなコロナの感染拡大が起きるおそれがあるという認識を共有している。これにインフルエンザの流行が重なれば医療体制にさらに深刻な負荷がかかるおそれがある」(10月13日 新型コロナ対策分科会 尾身茂会長)

このところ、新型コロナの次の感染拡大「第8波」への危機感をあらわにする発言が専門家から相次いでいます。

10月12日の厚生労働省の専門家会合では、第8波についての議論が行われました。

会合のあと脇田隆字座長は海外では感染者数や入院者数がこれまでの感染の波と同じ程度か、さらに大きくなってきていると指摘。

そのうえで「日本でも間違いなく感染が起こるのではないか、強い行動制限がなかなかしにくい状況で、医療ひっ迫が起きたときに、どういった対策ができるのか、いまから考えるべきだという議論があった」と述べました。

10月13日には分科会の尾身会長も「医療の専門家からは新型コロナ単独で第7波を大きく上回るような感染拡大が起きる可能性があるという危機感が示された。ヨーロッパではワクチン接種率が高く、自然感染した人の割合も日本よりはるかに多いのに、コロナの感染が拡大している。社会経済活動が活発化していることなどを考えると、多くの専門家は日本でもこの冬、かなり大きなコロナの感染拡大が起きるおそれがあるという認識を共有している。これにインフルエンザの流行が重なれば医療体制にさらに深刻な負荷がかかるおそれがある」と述べました。

免疫持つ人多いはずが…欧州で拡大

尾身会長ら専門家が「第8波」への危機感を抱く背景にあるのが、世界全体の新規感染者数は減少傾向が続いている一方、すでに多くの人が感染し、免疫を持つ人が多いはずのヨーロッパで感染者数や入院者数が増えていることです。

イギリス・オックスフォード大学の研究者などが運営するサイト「アワ・ワールド・イン・データ」によりますと、ドイツでは人口100万あたりの新規感染者数が2022年3月下旬に3000人、その後7月中旬にも1100人に上った後、9月上旬には350人ほどに減っていましたが、10月上旬以降は再び1000人を超えています。

京都大学の西浦博教授が厚生労働省の専門家会合に提出した資料によりますと、ドイツでは、入院患者の数が9月下旬から急増していて、2021年、デルタ株の感染が広がった時期や、オミクロン株の「BA.1」が広がった2022年春のピークを超えかねないとしています。

フランスでは、2022年1月下旬に人口100万あたり5400人という極めて大きな感染拡大を経験したあと、5月下旬と7月上旬におよそ2000人になることはありましたが、9月上旬には240人ほどにまで減りました。

それが増加に転じ、10月中旬には840人ほどとなっています。

ヨーロッパ各国では、コロナ対策として行われてきたさまざまな規制が緩和されています。

日本でも10月11日から水際対策が大幅に緩和されて、入国者数の上限がなくなり、全国旅行支援もスタートして人と人との接触が増える中で、専門家は、これらの国と同様に増えるのではないかと懸念しているのです。

国内の感染者数 “下げ止まり”

国内では感染者数の下げ止まりの兆候が見え始めています。

オミクロン株の「BA.5」による第7波では、8月下旬にピークを迎えたあと、ほぼ2か月にわたり、感染者数の減少が続いてきました。

全国の1週間平均の感染者数は、8月24日のおよそ22万7000人から10月11日にはおよそ2万6000人にまで減少しました。

ところが、このところは、横ばいから増加傾向で、10月17日にはおよそ3万1600人となっています。

新型コロナウイルス対策にあたる政府の分科会のメンバーで東邦大学の舘田一博 教授は「多くの地域では下げ止まりの兆候が見られる。北海道や東北などでは、気温が下がって換気しにくくなったことで、感染が広がりやすくなっている可能性もある。また、全国旅行支援が始まり、水際対策が緩和された中で、人と人との接触の機会が増え、感染者数が増えてくるリスクが高まっていて、下げ止まりから増加するのか、注意して見ていかなければならない」と話しています。

“第8波” いつ?規模は?

次の感染拡大「第8波」はいつ来るのか。

京都大学の西浦教授は、ヨーロッパのデータをみると、日本国内でもそう遠くない時期に「第8波」が訪れるとしています。

(西浦教授)
「第8波は目の前にあることが、ヨーロッパのデータから分かるし、その規模はかなり大きなものになりそうだ。緩和を進めたり、マスクを着用しなくてもいいといったメッセージが発信されたりして、危機感のない状況だ」

名古屋工業大学の平田晃正教授は、AI=人工知能を使った予測では年末から年明けに増加し始める可能性があるとしています。

平田教授は、ワクチンの接種で獲得した免疫と感染したことで獲得した免疫の両方の効果などをもとに、今後の感染者数をAIで予測しました。

▽人出が新型コロナが広がる前の状態にほぼ戻ったと想定したうえで、会食の開催状況やマスクの着用といった人々の行動がいまと同じように感染対策を徹底した状態が続くと想定すると、この先も、感染者数に大きな増加は見られないという予測になったということです。

▽年末年始にかけて、忘年会など人々の行動が活発になった場合、来年(2023年)1月中旬から下旬にかけて東京都での1日の新規感染者数は1週間平均で1万300人程度に達すると予測されました。

▽また、年末年始以外でも行動が緩んだと想定すると、12月半ばから感染者数が増え始め、1月中旬から下旬にかけて1万4000人余りに達するという予測になったということです。

平田教授は「ワクチン接種が進み、さらに『第7波』では多くの人が感染したことで、多くの人が一定の免疫を維持していると考えられる。このため、今後も節度を持った行動が続くようであれば、次の感染の波は比較的抑えられる可能性がある。一方で、仮に私たちがマスクを外したり、節度を持たない会食などが増えてきたりすると、感染者数が増加するおそれがある。今回の年末年始は、私たちの行動次第で感染が広がることも抑えられることもあるといえる」と話しています。

ただ、今回の予測では、新たな変異ウイルスが発生する可能性は考慮していないということです。

“第8波”もオミクロン株?

次の感染拡大が起きるとしたら、どんな変異ウイルスが主流になるのでしょうか?

京都大学の西浦教授は9月21日の厚生労働省の専門家会合で、海外の研究をもとに、オミクロン株の変異が起きるスピードは異常に早いと報告しました。

そして「大きく変異した変異ウイルスが発生する可能性は常にあるが、次の流行の波はオミクロン株の派生型によって起こるだろうことが予測される」とコメントしています。

感染が再拡大しているドイツやフランスでは、10月上旬の段階で「BA.5」が90%ほどを占めています。

日本でも「第7波」の主流となり、ドイツやフランスでも数か月にわたってほとんどを占めていますが、再び感染の拡大を引き起こしています。

海外の感染状況に詳しい東京医科大学の濱田篤郎特任教授は「第8波」を引き起こす可能性がある変異ウイルスは主に2つあると言います。

1つは「第7波」を引き起こしたのと同じ、「BA.5」による感染拡大です。

(濱田特任教授)
「ヨーロッパでは『BA.5』の流行が再燃し、残り火が広がり始めている。日本では『第7波』での『BA.5』の流行が収まりきらないうちに季節が寒くなって流行が再燃し、『第8波』になることが予想される」

そしてもう1つは、海外から新たな変異ウイルスが流入し感染が拡大するケースです。

濱田特任教授は、懸念される変異ウイルスの1つとして、シンガポールなどで「XBB」と呼ばれるタイプのウイルスが広がってきていると指摘しました。

「XBB」はオミクロン株のうちの複数のタイプのウイルスが組み合わさったもので、シンガポールの保健省のデータでは、9月の時点で6%だったのが、10月9日までの1週間では54%を占めるようになったということです。

この変異ウイルスの影響もあり、シンガポールでは人口100万あたりの感染者数が9月上旬にはおよそ340人だったのが、10月中旬には1500人を超えるに至っています。

(濱田特任教授)
「日本にもオミクロン株の別のタイプの1つが入ってくると、これまでの『BA.5』よりも拡大することが可能性としてはある」

さらに、ほかの変異ウイルスも検出されてきています。

アメリカでは、CDC=疾病対策センターによると、10月15日の時点で▽オミクロン株の「BA.5」が引き続き最も多く67.9%を占めているものの、▽「BA.4」から派生した「BA.4.6」が12.2%、▽「BQ.1.1」と「BQ.1」がそれぞれ5.7%、▽「BA.2.75.2」が1.4%、「BA.2.75」が1.3%などと、いずれもオミクロン株の一種ですが変異ウイルスの種類が増えてきています。

このうち、「BQ.1」系統のウイルスは「BA.5」がさらに変異を重ねたウイルスです。

また、「BA.2.75.2」はアメリカやインド、ヨーロッパ各国などで検出されていて、「BA.2」が変異を重ねた「BA.2.75」にさらに3つの変異が加わっています。

これらの変異ウイルスの性質はまだはっきりしていませんが、人の血液を使って分析すると、「BA.5」よりも免疫の働きが下がるという報告が出されています。

濱田特任教授によりますと、これらの変異ウイルスは「BA.5」と比べて、感染した場合の重症度が大きく変わるとは考えにくいものの、感染力が高まることや、欧米などで広がるのとほぼ同時に日本国内でも広がるおそれがあることに注意が必要だとしています。

(濱田特任教授)
「今出てきている変異ウイルスはオミクロン株の中で変化しているものなので、重症度が大きく高まることはあまりないと考えられる。感染力が高くなる、免疫を逃避する能力が高くなることは予想されるが、ドラスチックな大きな変化というものは現在の状況からみると起きないのではないか。過去2年間は、ヨーロッパやアメリカで冬の流行が広がってしばらくしてから、変異ウイルスが日本に入ってくる状況が見られたが、今は水際対策が緩和されているので、欧米での流行が起きたあとに間を置かずに日本で流行が広がってしまうということも考えておかなければいけない」

とるべき対策は変わらない

時期や規模についての意見は異なるものの、専門家は口をそろえて「第8波」への備えが必要だと指摘します。

さらに、この冬にかけては、インフルエンザとの同時流行が起きるおそれも指摘されています。

ただ、私たちがとるべき対策は大きく変わりません。

▽発熱などの症状がある場合は学校や仕事には行かず、ほかの人との接触を極力避ける。休養が重要。
▽手指の消毒、屋内で人と近い距離で会話する場面などではマスクを着用する。
▽飲食店などでは換気を徹底する。

そして、濱田特任教授は、どの変異ウイルスが広がるにせよ、ワクチン接種が改めて大事だと話しています。

(濱田特任教授)
大事な点は、今始まっているオミクロン株ワクチンを打つことだ。オミクロン株だけではなくて新型コロナ全般への免疫も増すので、ぜひこのワクチン接種を受けてほしい」