1番になるためには、どんなつらいことも耐えていける

池崎大輔

車いすラグビー

1度は世界の頂点に立った。でも、まだ”先”がある-。
車いすラグビー、日本代表のエース、池崎大輔(42)。2018年の世界選手権で日本の初優勝に大きく貢献し最優秀選手にも選ばれた男は、2021年の東京パラリンピックは特別だと考えていた。

「パラリンピックは誰もが知っている大会。自国でチャンスが回ってきたので何としても金メダルを取って真のチャンピオンになりたい」

東京パラリンピックが1年延期されたことで、複雑な思いもあった。だがいちばん大切なところは揺らいでいない。車いすラグビーへの真摯な思いがあるからだ。

「正直、1年間モチベーションを保てるかというと国際大会もないし、試合もないので上がり下がりはある。ただ、費やした時間と思いは口で説明できないところがある。ここで投げ出すわけにはいかない。自分の心はぶれない」

東京パラリンピックを制するうえで、最大のライバルとなるのがオーストラリアだ。2大会連続で金メダルを獲得し世界ランキングは現在1位。車いすラグビー界のトップに君臨し続けてきた。 日本は、2018年の世界選手権では勝ったが、2019年の国際大会では1点差で苦杯をなめさせられている。 池崎が特に意識するのは、エースのライリー・バット。世界ナンバーワンプレーヤーの呼び声高い相手だ。

「世界ナンバーワンと言われて、自分よりも評価が高いのは嫌じゃないですか。勝ちたいと思う」

ライリー・バットを倒して、頂点に立つために何が必要か。たどり着いた答えはあくまでシンプルだった。それは車いす操作の能力を引き上げるための、スピードとパワーの向上。しかし、手足の筋力が低下していく、進行性の難病で池崎は握力が弱く重い器具を使ったトレーニングはできない。たどりついたのが「加圧トレーニング」だった。

腕や足の付け根の血管を圧迫して、筋肉を疲れやすくすることで軽い負荷でも効果的に筋力を強化できるという。血管を圧迫して全力で車いすをこぎ続けるなど、およそ10種類のメニューを1日2時間。軽い負荷といえども、これまで体験したことのない過酷極まるトレーニングだった。それでも決して弱音は吐かなかった。

「『もうだめだ』というところで出る力が、今の僕には必要。1番になるためには、どんなつらいことも耐えていける。金メダルを取れなかったことを、想像するだけで悔しい」

およそ5か月間に及ぶトレーニング。ストイックに取り組んだ結果は、体の端々に表れた。上腕は5センチ太くなるなど、これまでにない成長を実感しているという。

「20代、30代の時より今がいちばん体ができている。筋力だけでなく体力もついている。車いすを操る体は今までにない軽やかさというか、新しい自分に出会い始めたという感覚がある」

手にした自信が、2021年への思いをより強くしている。

「覚悟をもって真剣に、今までのアスリート人生でいちばん向き合っている。自分たちの姿を来年の東京で見て欲しい。そこでの結果を見て欲しい」

トレーニングは終わっていない。日本のエースは、まだまだ追い込んで苦しんでいる。延期の1年を生かすことこそが”真のチャンピオン”への道につながると信じて。

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