自分の体を信じてあげたい

皆川夏穂

新体操

リオデジャネイロオリンピック代表の皆川夏穂。身長1m71cm、長い手足と柔軟性を持ち合わせ、豊かな表現力を加えた演技は、「日本一エレガントな演技」と評価されてきた。
団体が注目されがちな新体操にあって、日本のエースとして世界と渡り合い、2017年の世界選手権の種目別「フープ」では、日本勢として42年ぶりの個人種目での銅メダルをもたらした。

「世界3位の評価を自信に、東京オリンピックに向けて技の精度を磨きたい」

中学を卒業してから強豪のロシアにわたり、演技を磨く日々。団体の代表、「フェアリージャパン」の選手とともに、多くを犠牲にして、膨大な時間をみずからの技と体力を上げることに費やしてきた。
東京オリンピックが延期になったことさえも、プラスに捉えてきた。

「“今より強くなる時間を1年もらえた”と思って、来年の東京オリンピックを1番いい状態でむかえられるように」

しかし、そんな思いと裏腹に皆川の体は悲鳴を上げていた。2020年12月、オリンピックの代表選考を見据えて、痛みの大きかった右足を手術した。治療とリハビリを続けながら代表選考会を目指す中、以前から痛みのあった左足の親指も悪化していった。歩くことさえつらかった。
それでも、小さい頃からの夢、日本を支えてきたプライドを背負って、練習を続けた。

ギリギリの状態で臨んだ2日間の代表選考会。4種目を2日連続で実施するハードな試合だ。
1日目の最初の種目は「ボール」。上空に投げたボールをキャッチできず、いきなり大きな減点となった。思いが空回りして、ふだんはしないようなミスが出た。

「久しぶりの試合で、自分がどういう感情になるか、想定できてなかった」

その後も、細かいミスが続き、1日目は納得のいく演技ができなかった。痛めている足を気にするあまり、演技が小さくなっていると感じていた。試合後、絞り出すように話した。

「体のことが気になって、感情まで考えられなかった。冷静にやるという気持ちが持てなかった」

そして、やわらかな表情で自分に言い聞かせるように話した。

「残り1日しかない。自分の体を信じてあげたい。最大限信じて、何があっても最後までやりぬきたい」

翌日の皆川。最後の演技は、「リボン」。
ここまでの得点でオリンピック出場は厳しい情勢だった。スタンドでは、ともに汗を流し続けた「フェアリージャパン」の選手たちが祈るように見つめていた。

「これが今できる自分のベスト。オリンピック代表にはなれなかったけれど、この5年間はムダではなかったと思う。もしもチャンスがあるなら、しっかり休んでもう1回、演技を見せたい」

東京オリンピックはかなわなかったが、まだ、心残りがある。

新体操