珠洲市三崎町の前田進さん(74)は、今月1日、新年のあいさつで近所の友人の住宅を訪れていました。
そして、地震で倒壊した住宅の下敷きになりました。
長男の洋一さん(44)は住宅に進さんが閉じ込められている可能性が高いと考え、大声で進さんに呼びかけましたが返事はありません。
倒れた住宅から捜し出して救出しようと思ったやさき、津波警報が鳴りました。
建物倒れ父が…「現実受け入れられない」【被災地の声 20日】
「生きていてほしい」
でも父がいた建物は完全に倒れ、津波警報のため、自分はその場を離れなくてはならない。
長男の洋一さんは、目の前の現実を受け入れられませんでした。
今回の地震で、多くの人が大切な家族を亡くしました。
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珠洲市三崎町 友人宅訪れていた父が
苦しすぎますね。呼びかけてる最中に津波警報が鳴って、その場から離れなくちゃならんという現実もありましたし、何もできない歯がゆさ、無力感ですよ。ああいう思いはもう二度としたくないですよ。
「親身になって目線を合わせて」
進さんは、洋一さんにとって家族思いで頼りがいのある父親だったといいます。
厳しいところもありますけど、人の話をしっかりと聞いてくれる、ものすごく優しくて男気があって熱い男でした。優しさのほうが大きかったですよ。やっぱりいろいろつまづく時ってあるでしょう。そういう場面になったときに親身になって目線をあわせて話してくれました。息子の目線からいっても頼りがいのある人でした。思い出はたくさんありすぎてひとつでは語れないですね。
漁師だった進さんは、自分の船に長男の洋一さんと次男の孝さんの名前から「洋孝丸」と名付けていました。
われわれ息子2人の文字をひと文字ずつつけてくれたのはうれしいですし、それだけ思ってくれてるんだなということも感じました。
「一番悔しいのは本人ですから」
去年病気を患い、それでも漁師としての仕事がしたいと前を向いていたと話し、悔しさをにじませました。
でも一番悔しい思いをしたのは本人ですから、私らよりも。病院の先生に泣きながらお願いしてましたよ。「また釣りがしたいから治してくれ」って。そこから病気になったことを受け入れてやっと前向きに生きとるなと思い、その後も頑張って生活してて、さあ新しい正月を迎えましょうかという時にこのような形で亡くなってしまって、ものすごく悔しかったと思いますよ。この地震で亡くなられた方たくさんいますので、みんな悔しいと思います。
釣って帰ってきたときなんて、顔がいきてましたわ。(遺影を示しながら)こんな顔ですわ。この顔見てください。いい顔しとるでしょ。
形見を身につけ「一緒に時間が」
洋一さんは進さんの形見である腕時計を身につけ、父親を少しでも近くに感じたいと自宅の遺骨のある部屋で寝ているということです。
ふだん海に行くときにつけてたやつです。それがたまたま部屋に残ってたんでそれをつけさせてもらってますわ。形として残るものだし大事にしようかなと。自分自身もこれをつけられる時はつけようかなと。そうすれば一緒に時間が進んでいくみたいな、そういう気持ちですね。
ひとつのことばでは言えないですよ。「ありがとう」「お疲れさま」「助けられなくてごめん」「つらかったね」とか、いろんなことばが出ます。
珠洲市宝立町 夫と義母が下敷きに
珠洲市宝立町鵜飼の廣田寿子さん(63)は同居する夫の均さん(65)と義理の母親の咲子さん(93)とともに倒壊した自宅の下敷きになりました。
寿子さんは近所の住民に救助されて無事でしたが、2人は亡くなりました。
はじめの揺れを受けて均さんが咲子さんの様子を見に行ったところでより強い揺れに襲われました。
翌2日に見つかった際、均さんが咲子さんを抱きかかえるような状態だったということです。
「夫が私を助けてくれたのでは」
長く珠洲市でクリーニング店を営んでいた均さんは真面目な性格で、消防団にも入るなど地域のための活動にも積極的に参加していたということです。
母親の咲子さんは短歌や大正琴をたしなむなど多趣味で、2人は仲のよい親子だったということです。
寿子さんは今週、ようやく2人の葬儀を済ませることができました。
一度落ち着いて今後のことを考えたいと、しばらくは愛知県にいる息子のもとなどに身を寄せることにしています。
廣田寿子さん
見つかった時の2人が穏やかな顔だったのでそれだけが救いですが、本当に無念で、残念でなりません。毎日家の様子を見にくるたびに当時の光景が思い出されてつらくなります。2人が亡くなったことにはまだ納得できない思いです。
夫が私を逃して助けてくれたのではないかとも思っています。生きていくしかないので、生きて一歩でも前に進んでいけたらと思っています。そして珠洲に戻ってこようと思っています。
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