【詳しく】ビッグモーター兼重社長 記者会見で辞任表明

中古車販売会社「ビッグモーター」の兼重宏行(かねしげ ひろゆき)社長は、保険金の不正請求問題で25日に初めて記者会見を開きました。

兼重社長は謝罪したうえで、一連の問題の責任をとって26日付けで社長を辞任することを明らかにしました。また、息子の兼重宏一副社長の辞任も発表しました。

後任の社長には、和泉伸二専務取締役が就任するとしています。

会見の詳細を時系列でお伝えします。

「深くおわび申し上げる」7月26日付けで辞任表明

兼重社長は「このたび、損害保険に対する保険金請求について、板金部門の不正な請求が明らかになった。信頼を頂いたお客様、損害保険会社、取引先様、ステークホルダーに多大なるご迷惑とご心配をおかけし、深くおわび申し上げる。本当に申し訳ございませんでした」と述べました。

そのうえで、「企業風土を一新するためには、新社長のもとで経営を行うのが皆さまの信頼を取り戻す近道と判断し、7月26日付けで辞任することと致します」と述べました。

後任の社長には、和泉伸二専務取締役が就任するとしています。

「ざんきに耐えません」

兼重社長は「不適切な保険金請求を行っていたお客様に対しましては、損害保険会社様と連携しながら、すみやかに返金も含め対応をすすめてまいります」と述べました。

その上で「このような事態を招いてしまったことをトップに立つものとして重く受け止めており、ざんきに耐えません」と述べました。

社長就任の和泉専務「強すぎるリーダーシップに頼り切っていた」

新社長に就任する和泉専務取締役は「この度の不正請求、被害にあわれたお客様におわび申し上げる。過去にも利用してくださった客に対しても、商品やサービスに心配をおかけし、深くおわび申し上げる。これまで弊社は創業者の兼重のリーダーシップのもと、今や業界を代表する企業になった。その反面、あまりにも強すぎるリーダーシップに頼り切っていた面も否めない。社員が正しい仕事を出来るよう、ガバナンスを徹底してまいります」と述べました。

そのうえで「迷惑をおかけした保険会社、取り引き企業すべてのステークホルダーに改革をやり抜くと言うことを約束したい」と涙を流しながら述べました。

「不正請求問題は板金塗装部門単独」

兼重社長は「今回の板金塗装部門の不正請求問題は板金塗装部門単独で、ほかの経営陣は知らなかった。それは事実です」と述べました。

「報告書を見て、がく然とした」

兼重社長は「報告書を見て、こんなことまでやるのかとがく然とした。車を傷つけるなどあり得ない。これは一線を越えている。ゴルフボールを靴下に入れて振り回して損傷範囲を広げて水増し請求する。本当に許せません。ゴルフボールで傷つける、ゴルフを愛する人に対する冒とくですよ」と述べました。

「今後、経営に関与することは一切ない」

兼重社長は「わたくしも息子の宏一も、今後、経営に関与することは一切ない」と述べました。

「保険会社からの出向者の関与ないと思う」

兼重社長は「保険会社からの出向者はコンプライアンスや板金部門の教育、技術指導やサービス部門の監査、そういった人材として受け入れているので、一部、今回の不正に関与しているのではないかと言われているが、それは一切ないと思う」と述べました。

「新たな経営陣で、お客様の信頼を得る」

兼重社長は「どうすればお客様の信頼を取り戻せるか考えていた。新たな経営陣でお客様の信頼を得る、お客様のために一生懸命、事業を継続してやってくれれば、お客様もご理解いただけるのではないかと思っている」と述べました。

降格人事「社員教育の一環」

兼重社長は降格人事が頻発していたことについて、「創業当初から人事に関しては抜擢人事で、この人ならできるだろうという抜擢人事だった。そして仕事をやってもらって、まだ十分な力がない場合はすぐに降格させる。ちょっと一歩さがって、また全体を見てもらって、それで人間は成長する。すぐ敗者復活、その繰り返しで、これは1つの社員教育の一環と思ってやっていました」と述べました。

その上で「今回、頻繁にと言われていますけど、復活した人間も同じぐらいおります。ちょっといきすぎがあったのかもわかりませんけども、悪意を持ってやるということは一切ない」と述べました。

特別調査委員会がまとめた調査報告書

損害保険会社との関係「不正の温床とは全く関係ない」

兼重社長は損害保険会社との関係について、「不正の温床とは全く関係ない。我々も頑張って売り上げを上げているので、それに見合う仕事を下さい、それだけです」と述べました。

「私も損害保険会社も不正は知らなかった」

兼重社長は「損害保険会社の出向者は生産の現場まで入っていない。今回、不正があったのは生産現場で分からないところでやっている。私も損害保険会社も、不正は知らなかった」と述べました。

「不合理な目標を現場に求め、プレッシャーかけていた」

兼重社長は「なぜ事件が起きたのかを反省するなかで、内部統制やガバナンスについて、これがいまの会社の規模に全くあっていない。板金部門は内部統制が全くないような状態だ。私の経営手法として、出来るだけスピード感を持ってやろうと出来るだけフラットな組織で意思決定がすぐできるように、担当者の責任者に任せてきたが、報告書もあがってこなかった。目標の設定は正しいことをやっていれば、いい結果が出ていたと思う。それが誰がみても不合理な目標を現場に求め、プレッシャーをかけていた。現場の人間に申し訳ない」と述べました。

「刑事罰で罪を償わないといけない」

兼重社長は「ゴルフボールを振り回して事故の範囲を広げて水増し請求した。傷を作ったことは器物損壊罪にあたると報告書にも書いてあった。当然これは犯罪だから、刑事罰で罪を償わないといけない」と述べました。

一方、こうした不正について「今調査を9000台やっているが今のところ1台も事実が見つからない。ただ、調査報告書の聞き取り調査でやったと書いているので事実だと思う。それを一生懸命見つけているので、新経営陣の体制で見つけ次第、厳正に対処してほしい」と述べました。

「個々の工場長が指示してやったんじゃないか」

兼重社長は今回の不正について、「調査報告書にあるように、組織的ということはないと思います。個々の工場長が指示してやったんじゃないかなと。組織的と思われてもしかたないが、決してそんなことはありません」と述べました。

その上で、改めて報道陣から経営層の関与の有無を問われたのに対して、「全くないです。不合理なノルマを課して、プレッシャーをかけても全くやっていない人間もおるわけですから。それはないです」と否定しました。

「取引先など これからヒアリングをしていく」

兼重社長は「これだけの問題を起こしたので、取引先様など、これからヒアリングをしていく。今回メディアの力に驚き、影響力が半端じゃないとすごく感じた。すごい影響力あるが、売り上げはゼロにはならず、一定の収益は確保できている」と述べました。

新社長就任の和泉専務「販売台数、買取台数はおよそ半減」

新社長に就任する和泉専務は「今回の事案についての報道が先週末くらいから多くなり、販売台数、買取台数に関しては、およそ半減しているのが事実だ」と述べました。

副社長就任の石橋取締役「そもそもの問題が企業風土」

副社長に就任する石橋取締役営業本部部長は、「今回は板金部門の不正ということでやっていたが、そもそもの問題が企業風土なので、他部門に関しても同様の案件がでるのではと考えている。すべての部門の不正に関する想定できる調査を進めていく考えだ」と述べました。

辞任後の責任の取り方「潔く、お受けします」

今後、新たな不正が見つかった場合のみずからの責任の取り方について報道陣から問われたのに対し、兼重社長は「辞任しても責任をとれと、責任の取り方もいろいろあると思いますけども、そういう申出があれば、潔く、お受けします」と述べました。

社長就任の和泉専務「街路樹の雑草に除草剤を」

社長に就任する和泉専務取締役は、店舗前の街路樹が枯れる事例があったという指摘に対し、「環境整備点検の一環として全店舗でお客様の入る出入り口、歩道を含めて前後10メートルにわたって雑草やゴミなどがあれば毎朝、取り除いている。その中の一環で街路樹の中に生えている雑草に対して、本来は手で抜けばよいが、ちょっと甘い認識で除草剤をまいてしまって、それが緑地帯の植木や街路樹に影響を与えてしまったことはあると思う。10年くらい前の話だと思うが、今はそういった指導はしていない」と述べ、事実関係を調査する考えを示しました。

不正について「天地神明に誓って知らなかった」

兼重社長は、不正について経営陣が本当に把握していなかったのかと改めて問われたのに対し、「天地神明に誓って『知らなかった』と言えます」と述べました。

副社長就任の石橋取締役「案件ごとに対応していく」

副社長に就任する石橋光国取締役は今後の顧客対応について、「等級に関しては保険会社を通じて協議していく。不正な修理は当然認めさせていただきながら、再修理または返金という形になる。単純に請求した金額との差額を返金させてもらっているが、等級に関する差額に関しては把握できていないため、損害保険会社と協議していく。不正事案の内容によっては返金で済むもの、再修理で済むもの、どちらかに分かれる、もしくはどちらも得られるというものも出てくると思うので、案件ごとに対応していく」と述べました。

「私の職務怠慢だと深く反省」

兼重社長は「創業して50年。半世紀やっていて、最初のころは一生懸命やっていたんでしょうけども、板金部門は売り上げ全体からみると2、3%で、ついつい私が目がいくのは営業部門だった。本当に職務怠慢。数字しか、利益しか、見てもそれくらいしか見ていなかった。現場でどういうことが行われているのかを、まったく把握しようとしていなかった。これは本当に私の職務怠慢だと深く反省しております」と述べました。

株主関係「問題であれば改善」

ビッグモーターは、創業家の資産などを管理し兼重社長がトップを務めるビッグアセットという会社がすべての株式を保有しています。

この関係の見直しについて兼重社長は、「急にこういう事態になったのでまだそこまでは考えていない。ただ、経営に影響力を与えるような行動をとるつもりはない。新経営陣に思う存分やってもらう。その結果として利益が出れば株主として非常にうれしいことなので、そういう関係がベストでないかといまは思っているが、今後それが問題であれば改善していきたい」と述べました。

管理本部部長 不正請求の再調査「第三者 含めた編成も検討」

陣内管理本部部長は、保険金の不正請求の再調査について「現時点では事実調査を進めている。その上で第三者も含めた編成も検討している。全件調査についてはまだ不正の期間も特定できていない。そのためまずは目の前のお客様対応ということで、自主点検という形で調査を進めているが速度、正確性を上げるためにも、第三者を入れた誠実な対応をしたいと検討をしているところだ」と述べました。

また、今の調査の状況について「直近1年間で保険の取り扱いがあったのはおよそ3万台ある。公表している調査済み件数は8427件、直近7月23日時点では8577件で1週間で150台しか進んでいないのが現実だ。速度を上げていくため組織作りが大切で、保険会社との調整を早く行って対処したい」と述べました。

「板金塗装部門 内部統制はまったく機能していなかった」

兼重社長は「営業部門とサービス部門、板金部門の連携というのはコミュニケーションが一切とれていない、独立した会社が運営しているような運用をとっていた。営業部門と板金部門が、なにか関係あるかというとまったく違うことをやっているわけですから、知りたいとも思っていないでしょうし、そんな情報は必要ない。板金塗装部門に関しては、内部統制はまったく機能していなかった。新社長のもとで、内部統制・ガバナンスをしっかり再構築していく。いまの規模に合うような組織をつくって、お客さんのために頑張ってほしい」と述べました。

また、新社長に就任する和泉伸二専務取締役は「創業者が経営から退いて、まさしくわれわれが全員力を合わせて経営していくことになるわけですけども、そのためには当然、部門の垣根を越えた情報共有と、同じ理念を共有することが一番大切だと思っていますので、早急にそうした組織作りに着手してまいります」と述べました。

息子の宏一副社長のパワハラ認識は「ありませんでした」

兼重社長は、息子の兼重宏一副社長がパワーハラスメントを行っていたという認識があるかと問われ、「私はそういう認識はありませんでした」と述べました。

この質問に対して和泉専務取締役は、「今回の不正が発生した板金部門が併設されている拠点には、副社長をはじめ、役員が臨店しているという報告があったと思います。ただ、私は、板金工場を含んだ拠点にはこの5年間、一度も臨店したことがございませんでした。現場で、副社長がパワハラと取られる行為を行っていたというのは、私自身は知りませんでした」と述べました。

刑事告発「そこまでする必要もないなと考え直した」

兼重社長は「刑事告発の話をしたが、責任は私にあるということで、そのあたりは厳正に対処させてもらうが、そこまでする必要もないなと考え直した」と述べました。

兼重宏行社長とは

およそ50年前に「ビッグモーター」を創業した兼重宏行社長は一代で業界最大手の中古車販売会社を築き上げました。

店舗数や売り上げの拡大を重視した経営で急速に事業を拡大させ、店舗数500店舗、売り上げ1兆円を掲げ全国に続々と新店舗をオープンさせてきました。

会社のホームページ上でも「私たちは、車を必要とされる多くのお客様の期待に『強烈な努力』で応え、これからも前進して参ります」などと記しています。

「ビッグモーター」とは

中古車販売会社の「ビッグモーター」は、兼重社長が1976年に出身地の山口県岩国市で創業した「兼重オートセンター」が前身の会社となっています。

会社のホームページなどによりますと1980年に現在の社名の「ビッグモーター」となり、2000年ごろにかけて山口県内をはじめ西日本を中心に店舗を増やしてきました。

現在では全国で300店舗以上を展開し、グループ全体の売り上げが7000億円を超えるとして業界最大手をうたっています。

2015年には本社を東京・港区の六本木ヒルズに移転していました。

その一方で、一連の問題が発覚したあとは、会社のガバナンスの不透明さを指摘する見方も出ています。

ビッグモーターは上場会社ではないことから、財務や経営に関する情報の公開が義務づけられていませんが、会社法上の「大会社」にあたるため取締役会設置会社として3か月に1回以上取締役会を開催することなどが義務づけられています。

しかし、今回の問題に関する外部の調査委員会がまとめた報告書では、会社法上の要件を満たす取締役会は開催されていなかったとされていて、業界のトップ企業でありながらガバナンスが不十分だった実態に社会的な責任が厳しく問われています。

店舗拡大の背景は

店舗網を拡大した背景には、ビッグモーターが収益力を高めるために行ったビジネス上の戦略もあります。

一般的な中古車販売業では、買い取り専門店が買い取った車をオークションに出品し、それを販売店が落札してお客に販売する形式となっています。

しかし、ビッグモーターは、このオークションを介さないことで手数料などのコストを抑える戦略を進めてきました。

ただ、この戦略を進めるためには、車の売り手と買い手のいわば需給を一致させる大量の車種の取り扱いが必要となります。

店舗網の拡大はその手段として行われたものとみられます。

中古車市場に詳しい専門家は、中古車業界の大手各社も同様の戦略をとっていて、独自の店舗網を展開してスケールメリットを最大化することが業界で競争力を確保するために不可欠だったと指摘しています。

元工場長「何も知らないはずはない」

兼重社長が会見で経営陣は不正を知らなかったなどと説明したことについて、工場長を務めた元社員の男性はNHKの取材に対し、「副社長ら幹部が月に1回は各工場を回り、目標や利益の達成状況を報告させていた。何も知らないはずはないのに、自分は知らなかったの一点張りで、社長を慕っていた社員も多かったと思うが、罪をなすりつけるような様子が腹立たしかった」と語りました。

社長が辞任を表明したことについては、「今の社長の影響を受けた幹部にトップが交代するだけで、ほとぼりが冷めれば同じようなことが繰り返されるのではないか」と話していました。

下請けの男性「日本の車社会を揺るがす大惨事」

ビッグモーターの店舗の下請けをしていた関東地方の洗車業の男性は、ことし5月、ビッグモーター側から仕事の単価を3分の1に下げるよう要求され、拒否したところ、ほとんどの取り引きを打ち切られたと証言しています。

兼重社長が会見で謝罪したことについて、「自分たちの利益だけを優先し、技術が買いたたかれてきたと感じています。私たち下請けに対しても誠意がある対応が出来るか見てからでないと、信用はできない」と話しました。

今回、ビッグモーターが起こした不正について、「日本の車社会を揺るがす大惨事で、ユーザーや業界に対してどう責任をとっていくのか、次期社長にも考えて欲しい」と話していました。

官房長官「国土交通省 26日午後にヒアリング」

松野官房長官は臨時閣議のあとの記者会見で、経営上の判断に関わることへのコメントは控えるとした上で「国土交通省は26日午後にヒアリングを実施し、金融庁は保険代理店として保険募集を行うビッグモーターと保険販売を委託している損害保険会社に事実関係の確認を行っている。引き続き関係各省で適切に対応していく」と述べました。

経済同友会 新浪代表幹事「経営そのものに大きな問題」

経済同友会の新浪代表幹事は25日の記者会見で「どういうことが具体的に行われたのか、国交省の調査でクリアになってくると思うが、経営そのものに大きな問題があったことは間違いない。多くの経営者が遺憾に感じていると思う」と述べました。

そのうえで経営陣が不正請求について知らなかったと説明したことについて、「本来であれば悪いことこそトップに上がるのが組織としてあるべき姿だ」と述べて経営陣と現場に距離があったのではないかという見方を示しました。