タイタニック潜水艇 音のようなもの感知 態勢拡大し捜索

大西洋で沈没したタイタニック号を見るため海中に潜ったあと連絡が途絶えた潜水艇について、捜索を行っているアメリカの沿岸警備隊は、前日に続いて21日も海中で音のようなものを感知したと明らかにしました。何の音なのかは分からないとしながらも、態勢を拡大して捜索を続けています。

111年前、氷山に衝突して沈没した豪華客船タイタニック号を海底まで見に行く観光用の潜水艇は、18日午前、海中に潜ったあと連絡がとれなくなり、アメリカやカナダの沿岸警備隊などが捜索を続けています。

20日には、海の中で音のようなものが感知され、周辺海域での捜索が進められていました。

これについてアメリカの沿岸警備隊の担当者は21日の会見で「前日に続ききょうも海中でノイズを感知した」と明らかにしました。

これまでのところ何の音か分かっておらず、発生源も特定できていないということですが、沿岸警備隊の担当者は「ノイズが何かは分からないが、最も重要なポイントだ。発生源を探している。現時点で、われわれにできることはそれだけだ」と述べ、音を感知した海域の周辺に航空機や船をさらに投入して捜索を続けているということです。

また会見に同席した海洋研究所の専門家は「海は非常に複雑な場所で、音の発生源を識別するのは困難だ」と述べ、民間の企業などとも連携し、音の分析を進めていると明らかにしました。

潜水艇には、緊急用の酸素など96時間、生命を維持できる装置が備わっているということですが、この日の会見で沿岸警備隊の担当者は、残りの酸素の量などについては言及を避け、捜索と救助に全力をあげていると強調しました。

“潜水艇運営会社 元社員が安全上の懸念指摘”米メディア

捜索を行っているアメリカ東部ボストンの沿岸警備隊の担当者は、20日午後に記者会見を開き、潜水艇の中にある生命を維持できる空気は日本時間の21日の午前2時時点で残りおよそ40時間分だと明らかにしました。

日本時間の22日の午後6時頃には空気がなくなるとみられ、カナダ軍などとともに捜索を急いでいます。

こうした中、アメリカの複数のメディアはこの潜水艇について、潜水艇を運営する会社の元社員が5年前、安全上の懸念があると指摘していたと伝えました。

裁判で提出された資料の中でこの元社員は、潜水艇の前方にあるのぞき窓について、水深4000メートルまで乗客を運ぶことを想定していたにもかかわらず、水深1300メートルまでの水圧に耐えられる強度しかなかったとしています。

そのうえで、この潜水艇が目視では分からない微細な損傷を調べる「非破壊検査」が行われていないことに、特に懸念を示していました。

さらに、ニューヨーク・タイムズによりますと、同じく5年前、海洋学者など30人以上が、「潜水艇の開発の過程に一致した懸念がある」と警告していたということです。

20日午後 沿岸警備隊の担当者が会見

捜索を行っているアメリカ東部ボストンの沿岸警備隊の担当者は、20日午後に記者会見を開きました。

それによりますと24時間態勢で捜索を行っているものの、まだ発見できていないということです。

この潜水艇には緊急用の酸素など96時間、生命を維持できる装置が備わっているということですが、担当者は「呼吸をするために必要な空気は残りおよそ40時間分だ」と述べました。

捜索は、アメリカとカナダの軍や沿岸警備隊などが、航空機や、カメラやロボットアームを備えた遠隔操作型潜水艇などを使って広範囲で行っています。

タイタニック号は現在、沿岸部から遠く離れた、水深およそ4000メートルの海底に沈んでいて、沿岸警備隊は地理的にも技術的にも複雑な捜索活動だと説明しています。

フランス政府 水中ロボットを現場に派遣

フランス政府は20日、捜索を行うため、深海で作業を行う性能を備えた水中ロボットを積んだ船を現場に派遣したと発表しました。

潜水艇には、タイタニック号について研究しているフランス人の専門家、ポールアンリ・ナルジョレさん(76)が乗っているということです。

船は、日本時間の22日の午前3時ごろに、潜水艇が消息を絶った海域に到着する見込みだとしています。

フランス政府は「時間との戦いになっている」として、すでに捜索を開始しているアメリカ側と連携して捜索を急ぎたいとしています。

潜水艇に乗っている5人とは?

行方が分からなくなっている潜水艇には操縦士を含め5人が乗っていました。

▽イギリス人の実業家で冒険家のハミッシュ・ハーディングさん
▽アメリカの潜水艇運営会社のCEO(操縦士)
▽フランス人でタイタニック号研究者のポールアンリ・ナルジョレさん
▽パキスタン有数の財閥一族の親子2人

このうちの1人、ハミッシュ・ハーディングさんが役員を務めている会社は、潜水が行われた当日の18日SNSに「けさ4時に探検が始まった。潜水艇は無事に出発し、ハミッシュは現在、潜水中です」とのメッセージを投稿し、当時の周辺海域を写したとみられる写真も掲載しています。

また、ハーディングさんのものとみられるSNSには、今回のツアーに参加するなどといった内容も投稿されていました。

さらに欧米メディアによりますと、潜水艇には▽潜水艇を運営しているアメリカの会社オーシャンゲート・エクスペディションズのCEOも操縦士として乗っていたほか

▽タイタニック号について研究しているフランス人の専門家、ポールアンリ・ナルジョレさんが乗っていたということです。

このほか、潜水艇には▽パキスタンで有数の財閥一族の親子2人も乗っていて、家族は「現在、潜水艇との連絡は途絶えていて、得られる情報は限られている」と声明を出しているということです。

過去に別のツアーに参加の日本人 “何とか生き延びて”

2005年に海底に沈むタイタニック号を見に行くツアーに参加したことがある日本人の女性がNHKのインタビューに応じ、無事を祈りました。

大学の非常勤講師の後藤昌代さん(62)は2005年、今回とは別の会社が行っていたツアーにおよそ800万円を支払って参加しました。

ツアーでは今回、消息が分からなくなっている潜水艇とは異なる2艇の潜水艇が用意され、そのうち1艇に操縦士と後藤さんを含む乗客2人が乗り込んだということです。

そして、1時間45分から2時間かけてらせんを描くように水深3800メートルまで潜航し、タイタニック号の船首前の海底に到着したということです。

その後、5時間ほどかけて船体の上や横を回遊しながら、船長室などを見て回りましたが、配線などの障害物にひっかかるおそれもあり、潜水艇が近づけない場所もあったということです。

海中では潜水艇が揺れることはほとんどなかったものの、水深100メートルを超えると外は真っ暗になり、操縦士に命を預けるしかないという思いだったと言います。

ツアーでは、トラブルがあった場合には、もう1艇の潜水艇が対応することになっていて、通信機器をあらかじめ海底に沈めて通信を確保していたといいます。

後藤さんは、今の時点では今回の潜水艇に何が起きたのか想像もできないとしたうえで「水や食料はあると思いますが、電気系統に不具合があるなら寒さも心配です。自分もその場にいるようでつらいです。何とか生き延びてもらいたい」と無事を祈っていました。

専門家「捜索は難しいがわずかな光も」

タイタニック号を海底まで見に行く観光用の潜水艇の消息が分からなくなっていることについて、潜水艇を使った深海調査に詳しく日本人としては初めて水深9801メートルの深海に到達したことのある名古屋大学の道林克禎教授は「潜水艇は、水深200メートルから300メートルに達すると光が届かなくなるため、海上の船に対して音波を発信することで位置を伝えているが、今回、その装置に不具合が起き、行方が分からなくなったと考えられる。現場の海底は、大きな起伏はない場所だが、4000メートルの水深に対し潜水艇はかなり小さく捜索は難しい」と話しています。

また、行方が分からなくなった潜水艇について、「私たちが海底調査で使う潜水艇では『浮力材』がついていて、緊急時にはこれを使うと同時にいろんな部品を切り離すことで、自力で海面に浮き上がることができるが、この潜水艇は映像を見るかぎり、浮力材が少なく、船の形状も深海の水圧に耐えるための構造になっていて、浮力は小さそうな印象を受けた」と指摘しました。

そして、潜水艇の捜索で新たに海中から音が感知されたと伝えられたことについて、「乗員の生存が期待され、潜水艇の場所の特定につながる手がかりにもなる。発見や救出が期待できるわずかな光が見えてきている」と話しています。

潜水艇に乗ったという米テレビ局記者の話

ロイター通信は、消息がわからなくなった潜水艇に去年、乗ったというアメリカのCBSテレビのデビッド・ポーグ記者のインタビューを配信しました。

それによりますと、ポーグ記者は、潜水艇の印象について「ホームページに最新鋭だと書かれていたが、ゲーム用のコントローラーで操縦し、使い古しのパイプをおもりとして積んでいるとは知らなかった。現地で見ると気分が落ち込み、少し心配になった」と話しています。

また、潜水艇を運営している会社のCEOから、コスト削減などのため部品の多くに既製品を使ったものの、人が乗り込む部分は深海の水圧に耐えられるようにみずからNASA=アメリカ航空宇宙局などとともに設計したと説明を受けたということです。

そのうえでCEOは「ライトは消えるかもしれないし、プロペラは止まるかもしれないが、それでも生きていられる」と話していたということです。

また、CEOは「安全性は相対的なものだ。人生において完璧な安全性を望むなら、寝床から出てはならない」とも話していたとしています。

ただ、ポーグ記者は天候の影響で最終的にタイタニック号を海底まで見に行くことはできなかったということです。