タイタニック潜水艇 酸素尽きるおそれ 懸命の捜索続く

大西洋で沈没したタイタニック号を見るために海中に潜ったあと連絡が途絶えた潜水艇は、中の酸素がなくなるとみられる日本時間22日の夜、現地の朝を迎えています。

アメリカやカナダの沿岸警備隊などによる懸命の捜索が続いています。

111年前に氷山に衝突して沈没した豪華客船タイタニック号を海底まで見に行く観光用の潜水艇は、18日午前、海中に潜ったあと連絡がとれなくなり、アメリカやカナダの沿岸警備隊などが懸命の捜索を続けています。

21日には前日に続いて海の中で音のようなものが感知され、音を感知した海域の周辺に遠隔で操縦できる無人の探査機などを投入して捜索を続けているということです。

ただ、イギリスの公共放送BBCは、アメリカ軍の原子力潜水艦の元司令官の話として、感知した音について「音は潜水艇からのものではなくただ自然によるものだろう」と述べています。

その上で最初に音が感知されたエリアに多くの探査機が近づいたことでさらに音を感知しているだけではないかという見方を示しました。

5人が乗った潜水艇には、緊急用の酸素など96時間、生命を維持できる装置が備わっているということですが、アメリカの沿岸警備隊の20日の記者会見での情報によれば中の酸素がなくなるのは日本時間22日の夜、現地の朝となっています。

BBCは深海に詳しい専門家の話として、「潜水艇の位置を特定し、海面に引き上げるには、何時間もかかる」という見方を伝えていて、捜索は厳しい状況となっています。

無人探査機を載せたフランス船 現場周辺の海域に到着

ロイター通信は、日本時間の22日午後6時前、無人の探査機を載せたフランスの船が、捜索に加わるため現場周辺の海域に到着したと伝えました。

この無人探査機を運用するフランス海洋開発研究所によりますと、この探査機は遠隔操作が可能で、深さ6000メートルの深海に潜ることができるということです。

またロイター通信は、もし連絡が途絶えた潜水艇に何かが絡まって浮上ができなくなっている場合は、このフランスの無人探査機が海中のケーブルを切断するなどの対応ができると伝えています。

潜水艇乗客の友人「どうか無事に帰ってきて」

テリー・バーツさん

潜水艇に乗った、イギリス人の実業家で冒険家としても知られるハミッシュ・ハーディングさんの友人で、NASA=アメリカ航空宇宙局の元宇宙飛行士のテリー・バーツさんがNHKのインタビューに応じました。

ハーディングさんは潜水艇に乗る前、バーツさんに「きょう、天候がよければタイタニック号を目指して潜水する」というテキストメッセージを送ってきたということです。

バーツさんはハーディングさんの安否について「酸素が供給できる時間はあと少ししかなく、不安でいっぱいだ。5人の乗組員が全員、無事であってほしい」と述べました。

そのうえで「どうか無事に帰ってきてほしい。次の冒険の計画を一緒に立てたいです」と述べハーディングさんの無事を祈りました。

またハーディングさんの人柄について「明るく社交的で、砂漠や海、山など、冒険をすることに何よりも情熱を注ぐ人です」と述べました。

米国の専門家「ゆっくり呼吸すれば救助可能な時間を延ばせる」

アメリカの有力紙、ニューヨーク・タイムズは21日、呼吸器に詳しいスタンフォード大学のデビッド・コーンフィールド博士の話を伝えています。

それによりますとコーンフィールド博士は乗組員が冷静さを保ち、呼吸の深さや回数を減らすことができれば救助までの時間を稼ぐことができ、「例えば10パーセント分の時間を増やすように、ゆっくりと呼吸すれば、救助可能な時間を9時間延ばすことができるだろう」と指摘しています。

一方、記事では呼吸によって出る二酸化炭素の濃度が生存時間に影響し、その濃度が高くなると乗組員が眠くなり、意識を失って死亡する可能性が高くなると伝えています。

日本の専門家「感知された音を手がかりに捜索するしかない」

名古屋大学 道林克禎教授

タイタニック号を見るため海中に潜ったあと連絡が途絶えた潜水艇の捜索について、潜水艇を使った深海調査に詳しく日本人としては初めて水深9801メートルの深海に到達したことのある名古屋大学の道林克禎教授は、「海底の地形探査でも水深4000メートルでは、5メートルほどの地形の変化でも把握することは難しく、同じくらいの大きさの潜水艇を何の手がかりもなく位置を特定することは非常に難しいと感じる。そのため、捜索中に感知された音を手がかりに、その方向に向かって捜索するしかないはずだ」と指摘しています。

また潜水艇には、緊急用の酸素など96時間、生命を維持できる装置が備わっているということですが、その酸素が日本時間の今夜にもなくなるのではないかという見方もあります。

これについて道林教授は「『96時間』は、アメリカの安全基準に基づく酸素の量ではないかと考えられ、乗員の消費量次第で、多少は前後するはずだ。温存するため、ゆっくりと激しく呼吸しないことを努めているのではないか」と話していました。

そして、潜水艇が発見された場合の救助について「船が自力で浮上できる場合でも、深海4000メートルから海上まで浮き上がるには、2時間はかかる。そうでない場合はロープを海底まで下ろし、無人探査機を使って潜水艇にくくりつけて引き上げる作業が必要で、さらに、潜水艇が海底で障害物に引っかかっている場合は、そこから移動させる作業も必要となる。慎重を期する作業となり、すぐに引き上げられるものではない」と話していました。