【詳しく】製薬会社の行政処分相次ぐ メーカーに何が?(更新)

【詳しく】製薬会社の行政処分相次ぐ メーカーに何が?(更新)
「その薬、実は不足していまして…」

全国の薬局や医療機関ではかつてない医薬品の供給不足が続いています。

発端はジェネリック医薬品メーカーで製造上の不正が発覚したことで、この1年余りの間に各地のメーカーが業務停止命令の処分を相次いで受ける異例の事態となっています。

何が起きているのか、まとめました。
(2月公開の記事に最新情報を加筆・更新)

そもそもの発端は?

一連の問題の発端となったのは、おととし2020年12月に発覚した福井県のジェネリック=後発医薬品メーカー「小林化工」が製造した水虫などの真菌症の治療薬に睡眠導入剤の成分が混入した不祥事でした。
服用後に意識を失うなどの健康被害が出た人は240人以上に上り、中には車の運転中に事故を起こしてけがをするなど深刻なケースもありました。

去年2月、小林化工は福井県から過去最長となる116日間の業務停止命令と業務改善命令の処分を受けました。

その後も製造・販売の再開には至らず、事実上、経営の再建を断念し、ことし3月末に工場などを別のジェネリック大手が設立した新会社に譲渡しました。

調査でわかった問題とは?

小林化工については、国が承認していない工程での製造を行っていた実態も明らかになりました。

睡眠導入剤の混入は「原料を継ぎ足す作業」を行うために別の薬の容器と取り違えたことで起きましたが、そもそもこの作業自体、国が承認していないものでした。
同じように多くの医薬品で国が承認していない工程での製造や品質試験を行わずに結果をねつ造するなどの違反が行われていたうえ、県の査察に備えて「二重帳簿」を作成するなど不正の発覚を防ぐための組織的な隠蔽まで行っていました。

当時の社長は処分後の会見で、そうした違法行為を15年以上前から認識しながら黙認していたことを明らかにしています。

ジェネリック大手も

小林化工の処分のひと月余り後の去年3月には、国内ジェネリック大手3社のうちの1つ「日医工」が富山県から業務停止命令を受けました。
「日医工」は品質試験で不適合となった錠剤を砕いて再び加工したり、出荷前の一部の試験を行わないなど、やはり国が承認した工程とは異なる製造を10年以上前から続けていたとして処分されました。

その後「日医工」は行政処分の対象となった工場の製造や出荷の行程に問題が無いかの確認に時間がかかっているとして本格的な出荷の再開には至っておらず、今も全国的に続いている医薬品の供給不足の大きな要因にもなっています。

また、会社の業績も大きく悪化し、5月13日には国の制度の「事業再生ADR」の手続きを申請し、取り引き銀行の支援も得ながら経営再建を目指すことを発表しました。

処分を受けたメーカーは?

小林化工と日医工への処分の後も、各地の製薬メーカーに行政処分が相次いで出されています。この1年余りの間に業務停止命令の処分を受けたメーカーと業務停止の期間(最大)です。※日付は発表日
業務停止命令を受けたメーカー
▼2021年
2月 9日 小林化工(福井) 116日間
3月 3日 日医工(富山)32日間
3月26日 岡見化学工業(京都) 12日間
8月12日 久光製薬(佐賀) 8日間
9月14日 北日本製薬(富山) 28日間
10月11日 長生堂製薬(徳島) 31日間
11月12日 松田薬品工業(愛媛) 65日間
12月24日 日新製薬(滋賀) 75日間
▼2022年
3月28日 共和薬品工業(大阪)33日間
(厚労省・都道府県への取材に基づく)
処分は「小林化工」のようなジェネリック医薬品メーカーだけでなく、「北日本製薬」など一般医薬品のメーカーも受けています。また、健康被害は「小林化工」以外のメーカーでは確認されていません。

一方で、国の承認を得ていない原料を使ったり、一部の品質試験や必要な設備の補修を行わないなどの違反行為が発覚しました。

このうち、去年12月に「小林化工」に次いで長い75日間の業務停止命令が出された「日新製薬」(滋賀)は、滋養強壮剤や子ども用のかぜ薬などの医薬品について、有効成分の量を最も少ないケースで本来入れるべき量の1%にまで減らしていたほか、承認されていない添加物を加えて製造していたとして滋賀県から処分を受けました。

「くすりの富山」でも大きな衝撃

業務停止命令を受けた8社のうち2社があるのが「くすりの富山」として全国に知られる富山県です。医薬品メーカー約80社と100を超える製造所があり、人口1人あたりの医薬品生産金額は全国1位(2019年)です。

去年3月、「日医工」(富山)が県から業務停止命令を受けると県内の製薬業界に大きな衝撃が走りました。

県内ではその後も県の無通告査察をきっかけに、承認を受けていない添加剤を使用するなどの違反が判明して去年9月に「北日本製薬」に業務停止命令が出されたほか、ことし1月には富山市に工場があるメーカーに業務改善命令が出されています。

いずれのメーカーも違反の一部は10年以上前から行われていたということです。

さらに行政処分は出ていないものの、去年10月と11月には承認書と異なる手順で薬を製造していたとして、県内のメーカー2社が相次いで製品の自主回収を始める事態となりました。
富山県はこうした事態に危機感を示す一方で「ほとんどの企業は法令に従って適切に製造しており、一部の事例があたかも県内の製薬企業すべてにあてはまるかのような誤ったイメージが広がることは非常に残念」(富山県くすり政策課)としています。

再発防止と品質管理の向上に向けて薬剤師の資格を持つ調査員を新年度から3人増員して、10人体制で監視・指導を行うなど体制を強化しています。

なぜ処分が相次いでいるの?

理由の1つは、行政による査察や各社の自主点検など不正をチェックする取り組みが強化されたためです。

以前は都道府県による製薬メーカーへの査察=立ち入り調査の多くは、事前に日程などを通告したうえで行われていました。

小林化工に処分が出された際の会見で当時の福井県の担当者は「基本的には事前通告して調査を行ってきたが、ねつ造された書類で欺かれた。信じてきたがこれからは疑いの目で見ていく」と話していました。
こうした事態を受けて厚生労働省は去年2月、事前通告せずに行う「無通告査察」を増やすよう都道府県に求めました。

いわば「性善説」に立った査察から「不正を行っているかもしれない」との前提に立った「抜き打ち」の査察中心に切り替えて強化を図ったのです。

去年7月には全国一斉の無通告査察も行われ、松田薬品工業(愛媛)の違反が発覚しました。

また、業界団体も各メーカーの自主的な点検を呼びかけ、長生堂製薬(徳島)と共和薬品工業(大阪)は社内調査によって国の承認を受けていない製造工程が明らかになったほか、日新製薬(滋賀)の違反は県に寄せられた匿名の情報が県の立ち入り調査のきっかけになりました。
(岡見化学工業(京都)と久光製薬(佐賀)は2020年に行った社内調査で発覚)

ほかのメーカーは大丈夫?

ことし3月24日、ジェネリック=後発医薬品メーカーでつくる「日本ジェネリック製薬協会」は、小林化工や日医工の問題以降、進めてきた会員企業の自主点検の結果を発表しました。

発表によると、加盟する38社の8割を超える31社で、国の承認書に記載のない製造手順などが見つかったとしています。品目数では点検の対象全体の15%にあたる1157品目に上りました。

点検は外部の専門家のもとで行われ、有効性や安全性について新たに大きな問題が明らかになったものはなかったとしています。今後、国や都道府県の判断に従って承認内容の変更手続きを進めるということです。

業界ではどんな対応?

一方、協会では不正が見つかった事案の検証も進めてきました。去年10月に発表した検証結果では「小林化工」や「日医工」の問題が起きた要因の1つとして「不健全な企業文化」があったとして次のように指摘しています。

「上位者の指示は絶対であって下からの問題提起が許されない風土」

「経営者は従業員を管理の対象としか考えておらず、育成の対象と考えていなかった」

こうした点については、製造上の問題が発覚したメーカー関係者からもNHKの取材班の投稿フォームに寄せられています。
メーカー関係者A
品質を管理する部門の人材が足りないのに『数を作れ』という指示ばかりで適切な製造の知識がない。風通しも悪く現場が問題を報告しても黙殺されてしまう。
メーカー関係者B
中小メーカーで設備投資ができず、給与が安くて人材が定着しない。現場のモチベーションが低く、承認された手順を飛ばしたりミスや事故が起きてもうやむやで終わらせてしまうことがあった。
日本ジェネリック製薬協会の澤井光郎会長は「承認書と違う作り方による不正薬品によって今の供給不足も起こしてしまった。ジェネリック医薬品に対する不信感を解消しなければ、ジェネリックが真に医療に貢献することはできない。不退転の決意で対策に取り組んでいく」と表明しています。

協会では
▼経営層の意識改革のための研修を定期的に行う
▼内部通報の窓口を充実させる
▼主な製造所に対する外部監査を年1回程度行う
といった対策を強化していく方針です。

今後どうすれば?

製薬業界団体の品質委員会の委員長を務めた熊本保健科学大学の蛭田修特命教授に話を聞きました。
蛭田特命教授は自身もメーカーOBで、行政による無通告査察や匿名の投書など「外部の力」によって長年の不正が発覚したメーカーの割合が高いことに着目しました。
蛭田特命教授
患者が直接服用する薬を作るものとして、安全性が認められた手順を守って製造するのは当たり前のことなのに、想像以上に違反が多いうえ自主的に申し出たメーカーが少ないことに落胆しています。

「問われる経営者のモラル」

そのうえで蛭田特命教授は、全国のメーカーには6年前にも「うみを出すチャンス」があったと指摘しています。

それは、熊本市の製薬メーカー「化血研」が国の承認と異なる方法で血液製剤などを製造し組織的に隠蔽していた問題で、2016年に当時としては過去最長の110日間の業務停止命令を受けた時のことです。

その時も厚生労働省がメーカー各社に自己点検を求め、7割余りのメーカーから軽微な手続き上の遅れなどが報告された一方で、今回相次いで発覚している「10年以上前から」とされる不正は申告されませんでした。

こうしたことから蛭田特命教授は、今回の事態を受けてメーカーや業界自身の立て直しが徹底して行われ「うみを出しきれるかどうか」が今後の信頼回復へ向けた鍵を握ると指摘しています。
蛭田特命教授
血液製剤の製造問題で「不適切な製造は会社の存続に関わるリスクだ」と学んだはずなのにまだ隠していたというのは、経営者のモラルの問題が大きいと思います。

今回、悪質な不正が相次いで発覚したジェネリックメーカーは、国の改定でどんどん薬の価格が下げられているので、経営的に厳しい側面は確かにあると思います。ただし適切な製造は多くの会社で実践できていることで、経営とも両立できるはずです。企業の組織文化を根本から見直し、経営者が先頭に立って不正を許さない意識を現場に浸透させていかなければいけないと思います。

「クローズアップ現代」でも放送予定

「いつもの薬がない!?ジェネリック急拡大の影でなにが」
(NHK総合)5月16日(月)午後7:30~
(NHKBS1)5月17日(火)午後5:30~

取材班への情報提供のお願い

取材班では製薬メーカーの製造現場の問題について引き続き取材していきます。特に現場の実情を知る方は以下の投稿フォーム(リンク/バナー)から情報をお寄せください。
(医薬品不足取材班 ネットワーク報道部 村堀等 富山放送局 橋本真爾)
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