国交省の統計データ書き換え なぜ起きた?
国土交通省が国の統計の中でも特に重要な「基幹統計」のデータを書き換えていた問題。明るみになってからおよそ1か月がたち、弁護士などの第三者による検証委員会が14日、報告書を公表しました。重要な統計データの不適切な取り扱いはなぜ起きたのでしょうか?そして見えてきたこととは?
問題が起きたのはどのような統計データですか?
全国の建設業者が公共機関や民間から受注した工事の金額などを示す「建設工事受注動態統計」です。
国土交通省が毎月公表していて、国の統計の中でも特に重要な「基幹統計」に位置づけられています。
公的な統計は国が政策を企画立案するための根拠になる重要な情報なんです。
具体的にどのような問題が起きたのですか?
この統計をめぐって国土交通省が、データを書き換えたり、二重計上したりするなどの不適切な処理を続けてきたことが去年12月に明らかになったんです。
そもそも調査はどのように行われているんですか。
まずは、この統計の調査方法を簡単に説明しますね。
事業者はまず紙の調査票に1か月分の受注額などのデータを書き込みます。
そして翌月の提出期限の日までに都道府県に提出し、都道府県を通じて国土交通省がデータを集める仕組みになっています。
問題は、提出が遅れた調査票のデータの扱いをめぐって起きました。
どういうことですか?
1つは『データの書き換え』です。
検証委員会による報告書では書き換えの始まった時期ははっきりしないものの、統計が今の形になった2000年度より前から行われたとしています。
どのように書き換えていたんですか?
締め切りに遅れた場合や、数か月分がまとめて提出された場合、その分を提出された月に合算した形で調査票を書き換えるよう、国土交通省が都道府県の担当者に指示していたということです。
たとえば、1月分と2月分が一緒に提出された場合、1月の実績はゼロとし、その分を2月に上乗せして合算した数値に書き換えていたわけです。
毎月の統計が不正確になってしまいますね。
そうですね。さらに、この書き換えが『二重計上』という問題にもつながりました。
二重計上とは?
国土交通省は2013年度にデータの新たな処理方法を導入ました。
新たな方法では、期限までに提出がなかった事業者の実績をゼロとはせず、推計の受注額を計上することにしました。
ところが、処理方法が変更されて以降も、都道府県へのデータ書き換えの指示を撤回しなかったことから、新たに入力されるようになった推計値と、従来行っていた書き換えで合算したデータとが二重で計上されていたのです。
受注額が実際よりも多くなっていたということですね。
そうですね。ただこの点について報告書では、当時の担当者の証言などからは、統計の結果をより大きく見せようという意図があったとは認められないなどとしています。
ただ、統計の信頼性が損なわれるのは明らかですよね。
そうですよね。また3年前、「毎月勤労統計」をめぐる厚生労働省の不適切な処理を受けて、政府が一斉点検を行った際、国土交通省の当時の担当係長が書き換えを報告するか直属の上司に相談したものの、報告しなくて良いと言われたことも明らかになっています。
報告書では「事なかれ主義の現れ」などと指摘しました。
データの書き換えはいつまで行われていたのですか?
最終的には、おととし1月以降、都道府県にデータの書き換えをやめるよう指示しました。
ただ結局、前の年度と統計が比較ができなくなることを理由に、去年3月分まで職員自らデータを合算し、二重計上を続けていたということです。
どうして長年に渡って不適切な扱いが続いたのでしょうか?
当然の疑問ですよね。これについて報告書では、「以前から行われている手順に従って黙々と業務をこなすことに疑問を持たず、その結果、不適切な処理が永年無批判に継続して行われることとなったと考えられる」と指摘しています。
そして問題を公表しなかったことについては「『隠ぺい工作』とまでいうかどうかはともかく、幹部職員が責任追及を回避したいといった意識があったと考えざるを得ない」と厳しく批判しています。
こうした問題をふたたび起こさないためにどうすべきなのでしょうか?
検証委員会の報告書はいくつかの再発防止策を提言しています。
報告書では担当部署で、慢性的に業務が過剰な状態にあり、こうした中で、一部の職員に業務が集中するという状況が生じていたと指摘しています。
そのうえで、人事政策において統計業務が軽視されていたと見受けられるとして、業務の重要性を認識した上で十分な数の人材を適切に配置することを求めています。
人数を増やすべきだと?
十分な数の職員を配置するということもありますが、それだけではありません。
報告書では、今回の問題の背景には、職員が統計についての十分な知識をもっていなかったことがあるとも考えられると指摘しています。
このため、職員が統計に関する十分な知識を学ぶ機会を設けるべきだとしているほか、統計の専門家に疑問や問題を気軽に相談できる体制を構築することなども提言しています。
一方で、問題に気づいた時に声を上げるのは、勇気がいりますよね。
そうですね。この点について報告書では、業務を行っている職員が問題を発見した場合、その人に不利益になるという構造になっているとも指摘しています。
むしろ人事上プラスに評価されるようにして、問題の発見や解決を奨励する風土を作ることも必要だとしています。
不適切な事柄が明るみに出た時に、個人の責任で片付けるのでなく、組織の構造的な問題としてとらえることで、根本的な改善につながることもあります。
国土交通省をめぐる一連の問題からは、他の官公庁や企業をはじめとする多くの組織にとっても学ぶべき教訓があるように思いました。
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