NEW2021年03月10日

コロナ禍でも景気は上向きなの?

「景気判断を上方修正します」…こう聞いて、「そりゃそうだ」と納得しますか? それとも「いやいや、今は景気が悪いでしょう」と感じますか? 実は最近、政府が発表したいくつかの経済指標を見てみると、景気判断を上向きに修正する動きが目立っているんです。新型コロナの影響で経営環境が一段と悪化している企業もあるのに、なぜ? 日本の景気は今、いったいどちらの方向に進んでいるの? 経済部の峯田知幸記者に聞いてみます。

景気判断の上方修正が相次いでいるって本当ですか?

峯田記者

そうなんです。政府が、最近、公表した主な経済指標などの判断がこちら。

上方修正が相次いでいる最大の理由は「製造業の業績回復」です。

新型コロナの感染拡大を抑え込んだとしている中国向けの輸出が好調で、自動車や家電製品、半導体などの需要が高まっているんです。こうした製品は国内でも需要が高まっていて、生産設備を増強する投資まで増えているんです。

去年の3月ごろは世界各国でロックダウンが行われ、モノの移動が大幅に制限されていました。当時と比べれば企業の経営環境は大幅に改善しているといえそうです。

SMBC日興証券が2月半ばまでにまとめた東証1部上場の2021年3月期決算企業の純利益の見通しによると、製造業693社のうち302社が上方修正し、下方修正した44社を大きく上回っているんです。

でも、判断を下方修正している指標もありますが?

峯田記者

1月に緊急事態宣言が出たことで、「外食」「観光」「航空・鉄道などの交通」は深刻な状況に陥っています。

調査会社「東京商工リサーチ」が公表した3月9日時点の倒産件数1173社の内訳を見てみます。

▽飲食業…………206社
▽アパレル関連…106社
▽ホテル・旅館… 68社

感染拡大当初は多くの産業に影響が及んでいましたが、最近は経営環境が厳しい業種とそうでない業種に二極化し、厳しい業種への影響が一段と増しています。

消費者としても、外食や旅行が難しくなり、お金の使いみちが変わりました。

峯田記者

そうですね。それは総務省の「家計調査」によく表れています。

去年1年間に前の年と比べて支出が減った項目がこちら。

▽国内外のパック旅行 −70.4%
▽遊園地の入場料   −67.7%
▽鉄道運賃      −60.9%
▽外出先での飲酒代  −53.9%
▽口紅        −36.2%

口紅が減っているのは、外出が減ったり在宅勤務が広がったりしているからですね。

一方、支出が増えた項目はこちら。

▽ゲームソフトなど    +47.7%
▽テレビ         +27.0%
▽加湿器や空気清浄機など +23.0%

いわゆる“巣ごもり需要”に関連する支出が増えています。

業績が好調な業種と深刻な業種の“二極化”で、景気全体の姿をつかむのは難しいのかもしれませんね。

峯田記者

経済の分析が専門のエコノミストでも、「難しい」と答える人が多いんです。

総じてみると持ち直しの動きが見られるのは事実ですし、日経平均株価が一時、30年ぶりに3万円を回復するなど、先行きとしても景気は改善していくだろうという見方は多くなっています。ただ、感染が収束した訳ではありませんから、「下振れ」のリスクもあって判断は難しいですね。

政府もその難しさをにじませています。政府としての景気認識を示す「月例経済報告」では、2月に全体の判断を10か月ぶりに下方修正しました。ただ内訳をみるとむしろ上方修正した項目のほうが多かったんです。

景気が本当の成長軌道に戻るまで、当面、支援も必要になりそうですね。

峯田記者

自粛の影響を強く受ける企業などへの支援は引き続き欠かせません。ただ、国の財政による支援はいつまでも続けられないので、業績が上向き始めた企業には経済のけん引役を期待したいところです。

自動車部品を製造するある中小企業の社長は「世界に目を向けると、多くの企業がポストコロナに向けてスピード感を持って動き出している。今乗り遅れれば日本にとって致命傷になる」という思いから、脱炭素に関連する新しい事業を本格的に始めたと話していました。

一方で、ある飲食店の経営者は「元気な企業にはどんどん稼いでもらい、自粛から解放されたら、そのお金で食事をしに来てもらって経営を後押ししてほしい」と本音を語っていました。

景気の「気」は気分の「気」とも言われますが、受け止め方は立場によって違います。日本がワンチームになって難局を乗り切り、コロナ収束後の新たな時代に強い日本経済をつくりあげてほしいと思います。