アメリカで景気後退のサイン? 金利の逆転現象って何?
14日のニューヨーク株式市場では、ダウ平均株価がことし最大の800ドルを超える値下がりとなりました。これを受けて15日の東京株式市場は全面安となり、日経平均株価は一時470円以上の値下がりに。お盆休み中のマーケットの混乱に驚かれた方も多いと思いますが、そのきっかけとなったのが、アメリカで景気後退のサインとも言われる「ある現象」が発生したことなんです。一体何が起きているの?金融担当の櫻井亮記者、教えて!
櫻井記者
はい。それは長期金利と期間が短い金利の水準が逆転する珍しい現象です。市場関係者の間では「逆イールド」とも呼ばれています。長期金利というのは、金融機関が長い期間、お金を貸し出すときに適用される金利のことで、代表的な指標とされているのが10年ものの国債の利回りです。この長期金利が、期間が短い金利より低くなってしまったというのが今回起きたことなんです。
これがなぜ珍しいのか、例をあげて考えてみます。お金を貸す立場からみて、2年後に返してもらう約束と10年後に返してもらう約束、どちらがリスクが高いと思いますか?
それは期間が長い10年のほうですよね。将来何があるか分からないですし、返済が滞るリスクも高くなりますね。
櫻井記者
そのとおりです。ですから通常は期間が長いほど、リスク分を上乗せして金利が高くなります。住宅ローンも同じ仕組みです。
しかし、国債を取り引きしているアメリカの債券市場では、14日、このセオリーに反する異例のことが起きました。早朝の取り引きで期間10年の金利(満期までの期間が10年の国債利回り)が1.626%まで下がり、1.629%をつけていた期間2年の金利(満期までの期間が2年の国債利回り)を一時的に下回ったんです。
これはリーマンショックの前の年の2007年6月以来、12年ぶりのことで、「逆イールド」は、このあとも断続的に起きたほか翌15日のアジアの債券市場でも発生しました。
なぜこんなことが起きたのですか?
櫻井記者
投資家の間でこの先の景気が厳しくなるという見方が広がったからだと言われています。それがなぜ長期金利の低下につながったのか。長期金利がどういう要因で動くのかを考えるとわかりやすいと思います。
長期金利は、企業が金融機関から借りる長期資金の需給によって決まるとされていますがこの先、景気が悪くなるという見方が広がると、長期的な資金の需要は減り、金利は下がると市場関係者は考えるようになります。14日のアメリカの債券市場で何が起きたのか、三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩シニアストラテジストに聞きました。
「米中貿易摩擦の長期化への懸念に加えて中国やドイツの経済指標が相次いで悪化したことで、この先、景気が後退局面に入るのではないかという不安が一気に高まった。景気の先行きが不透明になると安全な資産とされる国債が買われやすくなるが国債の価格が将来上がるとみて今のうちに国債を買っておこうという動きが加速した。中でも10年ものの国債に買い注文が殺到して利回りが低下し、一時的に長期金利が短期の金利を下回るという事態になった」。
金利の逆転現象が起きた背景はわかりましたが、これがどうして景気後退の前触れと言われるのですか?
櫻井記者
アメリカでは金利の逆転現象が起きると、数年後には景気が後退局面に入るという『経験則』があると言われているからなんです。市川シニアストラテジストによりますと、1990年以降、アメリカでは3度の景気後退局面がありましたが、いずれも2年ほど前に金利が逆転する「逆イールド」が起きているということです。
1998年5月に期間10年の金利と期間2年の金利が逆転すると、その2年10か月後の2001年3月にアメリカの景気は後退局面に入りました。ITバブルの崩壊です。さらに、2005年の12月にも逆イールドが発生し、2年後の2007年12月から景気は後退局面に。このよくとしの9月にはリーマンショックが起きています。
このように市場には、「逆イールド」と「景気後退」は関係しているという見方があり、今回、同じように期間10年の金利と2年の金利が逆転したため、投資家たちの心理が急速に冷え込んでしまったんです。
アメリカの景気は本当に悪くなりそうなんですか?
櫻井記者
市場にはさまざまな見方がありますが、最大の懸念材料は何といってもアメリカと中国の貿易摩擦です。問題が長期化すれば世界経済全体の足を引っ張るのではないかと市場は身構えています。
こうした中、アメリカの中央銀行にあたるFRB・連邦準備制度理事会は7月31日、およそ10年半ぶりに利下げに踏み切りました。景気が減速するのを防ぐための措置だとしています。市場には、アメリカのこうした事前の対応が功を奏して景気後退にはつながらないだろうという見方があります。日銀の関係者も「逆イールドはあくまで経験則であり、景気後退に陥るという理屈があるわけではない。世界経済はことしから来年にかけて成長を続けるという見方に変わりはない」と話しています。
このように「景気後退のサイン」があらわれても、アメリカ経済の先行きにはさまざまな見方があります。それだけ先を見通すことが簡単ではない状況になっているのかもしれません。
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