2023年10月27日
パレスチナ イスラエル 中東

最新 イスラエル地上侵攻はいつ?人質解放は?ハマスの狙いは?

イスラエルとイスラム組織ハマスの大規模な衝突。双方の死者はガザ地区で7000人超、イスラエル側で1400人にのぼっているといわれています。(10月26日時点)

一方で、人質をめぐって一部で解放の動きも出ています。ハマス側の狙いは?

そして、今後、地上侵攻は行われるのか?そのタイミングは?

いま知りたいことを中東和平問題に詳しい防衛大学校の立山良司名誉教授に聞きました。

(「ニュース7」ディレクター 重久直哉 / 国際部 小島明)

防衛大学校 立山良司名誉教授

以下、立山名誉教授の話 ※10月22日取材

そもそもハマスはなぜ人質を捕らえた?

ハマスとしては相当数の人質をとれば、イスラエル人でも外国人であっても、2つの目的があったと思います。1つは当初あれだけの規模の攻撃をやっているわけですから、イスラエルから非常に激しい報復攻撃があるのは分かっているわけです。その報復攻撃を少しでも遅らせる、あるいは和らげるという目的です。

音楽イベントの参加者を拘束するパレスチナ側の戦闘員

もう1つはいずれ武力衝突が収まり、停戦に向けて動き出すわけですから、その際の停戦条件をよくしたいと考えたといえます。例えばガザに対する封鎖を少しでも和らげる、緩和させるといったような条件、あるいはイスラエルから受けているガザ地区への水や電気の配給を今回の軍事衝突前より増やすとか、そういったいくつかの条件達成ができるという考えがあったと思います。

水を運ぶガザ地区の子どもたち(2023年10月)

人質を捕らえたのはハマスだけではない?

ハマス側の発表では200人以上を人質にとっていると言っていますけど、そのほかに50人ぐらいが、ハマス側の表現を使えばほかの抵抗組織によって拘束されていると言われています。ハマスとは別に「イスラム聖戦」も自分たちは30人くらいの人質を拘束していると主張しています。

「イスラム聖戦」の軍事パレード(パレスチナ ガザ地区 2023年10月)

あるいはもっと小さな組織も人質をとっているかもしれません。そうなれば、ハマスとの交渉だけですまないことになりますし、ガザの中でもハマスの命令を聞かない組織もそれなりにあるわけですから、交渉はおそらくかなり複雑化していると思います。ですから逆に言えば、色んなチャンネル通じて、色んな働きかけを、いろんな相手にしていくことも必要だと思います。

一方で、マイナス面もあって、いろんなチャンネルを使えば交渉の全体像が見えなくなって、より複雑化してしまうというリスクもあります。

人質に外国籍も 各国による圧力を狙った?

狙ったというよりは、結果としていろいろな国の人質がいたということだろうと思います。そのなかにはアメリカ、ヨーロッパのほか、多いのがタイ人です。

アメリカ政府、タイ政府など人質を取られている国の政府が関係しているわけで、どの国も自国民の安全を確保したいために、イスラエル政府に対して報復攻撃をできるだけ和らげるように、とくに地上戦への突入をできるだけ回避するように働きかけをしていると思います。

ガザ地区との境界付近に配備されたイスラエル軍(イスラエル アシュケロン近郊 2023年10月18日)

それはハマスにとっては報復攻撃の被害を、多少なりとも減少させることにつながるかもしれず、その期待は持っていると思います。

ただし、これだけたくさんの国の人を誘拐し、人質として取るのは完全に国際法違反ですし、人道的にも許されないことです。いろいろな国からハマスやイスラム戦線に対して非難がいっそう高まると思いますね。

一方で、イスラエル側にとって地上侵攻を始める上で一つの制約にはなると思いますね。自国民の安全な解放をどこの政府も目指すでしょうから、その実現のためにイスラエル政府に圧力をかけるというか、働きかけることは続くわけです。イスラエル政府としてもそういう働きかけを完全に無視して行動するというのは、外交上、今後のことを考えても難しいと思います。

人質はどのように拘束されている?

かなりちらばっていると思います。特にイスラエル軍の空爆が激しいですから、1か所に200数十人も置いておけるような場所はおそらくないと思いますね。トンネルの中にいるのかもしれませんけど、トンネルの中であっても相当少人数でいろんな所に拘束をしていると想像します。

ガザ地区内のトンネルを移動する戦闘員(2014年)

イスラエル側も攻撃の際には神経を使っていると思います。ただ、いくら精密誘導の兵器を使っても必ず間違いは起こりますし、巻き添えのような形で被害が出るケースも考えられます。人質の命もかなり危険な状態にさらされていると思います。

仮に人質に被害が出たらハマス、イスラエル側双方の痛手になるでしょう。空爆で死んだのか検証できないなか、ハマス側はそう主張するでしょうし、イスラエル側は別の主張をするでしょう。戦闘行為が続いている時に第3者、例えば赤十字国際委員会が入って、何が起きたのかを検証することは不可能なわけです。何が起きたかは正確なところは分からないまま、さまざまな情報戦が展開されると思います。

人質解放の動き 狙いは?地上侵攻への影響は?

ハマスとイスラエルの間にどんな交渉があったのか、実態はどうだったのか分かりませんが、ハマス側としては人質の解放に積極的な姿勢を見せて時間稼ぎをする、つまり地上戦への突入を少しでも遅らせようという考えはあるだろうと思います。

ハマスの軍事部門 カッサム旅団(2015年)

ただし、イスラエルによる地上侵攻を最終的に止めるのはなかなか難しいと思います。

いまイスラエルは予備役を36万人動員していると発表しています。この36万人は一般のイスラエル市民なわけです。例えばふだんはバスの運転手や学校の先生だったり、医者だったり。ですから、おそらくいまの街の経済的、社会的機能は大幅にダウンしているはずです。

今後、もしこの動員が長期化すれば、イスラエルの社会や経済は長期的に打撃を受けるわけです。このため、イスラエルとしては36万人という動員態勢を長くとり続けることはできないわけです。

犠牲者の墓に献花をするイスラエルの市民ら(2023年10月)

いつかは解除しないといけない、可能ならできるだけ早く解除したいという考えをもっていると思います。このためは地上侵攻を遅らせれば遅らせるほど、イスラエルは難しくなっていきますし、最前線の兵士たちの士気も待てば待つほど衰えてくるということもあると思います。

ハマスとしてはそういうことを狙って時間稼ぎをして遅らせようとしているのではないかと思います。

地上侵攻が始まると、人質の解放交渉どうなる?

いったん地上侵攻が始まれば、しばらくの間は相当激しい戦闘が続くと思います。そうすると交渉というのが難しくなります。

おそらく戦闘が拡大する中で人質をどうやって、どこに拘束しておくか、または移動させるかは非常に難しくなるので、一定期間、人質問題は取り上げられないと思います。

イスラエル政府のネタニヤフ首相や国防大臣、イスラエル軍トップは「ハマスを抹殺する、壊滅する」、あるいは「少なくともハマスの軍事基盤を破壊する」と言っているわけです。

イスラエル ネタニヤフ首相

もし達成するのであれば、やはり地上部隊を突入させて、ガザを一定程度、地理的にも時間的にも占領状態に置かなければいけないと思います。これだけの人質が同じ場所にいると思えませんし、様々なところにいるでしょう。

かつハマス以外の組織も人質をとっているということであれば、それぞれの組織の対応は戦闘行為の中で違ってくると思います。そういう意味で、イスラエル軍のトップは非常に難しい判断を迫られると思います。

本格的な地上侵攻はいつ?

そう遠くない、数日なんじゃないかと思いますけど、まったく分かりません。

これだけの大規模な動員を長期間続けるのは難しいでしょうし、最前線の兵士の士気はおそらく頂点にあると思うので、それをずっと士気のレベルを長い間保つのは難しいと思います。つまり、戦闘の開始はそう遠い話ではないと思います。

ただそれがいつとなるかとなると、私には分かりません。ガラント国防大臣が3つのステージを説明しています。

ガラント国防大臣

第1ステージは現在、行われているような空爆などでハマスの軍事的インフラに決定的なダメージを与えるものです。その中には地上部隊の投入も含まれます。そして第2ステージは、ハマスの軍事インフラをたたいたあと、残っている小規模な抵抗勢力を一つ一つ無力化していくものです。そして第3ステージ、私はありえないと思っているんですが、インフラの供給などガザ地区との関係を一切絶つということを説明しています。

ですから少なくとも今は第1段階、ハマスの軍事インフラを徹底的にたたいて壊滅状態にすることをやっているんだと思います。

ガザ地区と関係を断絶する可能性は?

おそらくイスラエル側が希望的に思っていることは、ガザに入ってハマスの軍事的、社会的な基盤をたたいて2度と立ち上がれないようにして、「ポケット」と呼ばれる小さな抵抗勢力を全部たたく。それが終わったらイスラエル軍は全て撤退して、塀の向こうとは縁を切って、水も電力も出さず、自分たちと関係のない世界にするということだと思うんです。

イスラエルは2000年代初めに南レバノンを占領していたんですけど、すべて撤退して、その後は関係を持たないという姿勢を取ったんです。そういうことをまたやろうと考えているんだろうと想像はできます。

ただ、レバノンの場合は主権国家ですから、イスラエル軍の撤退後に残っている住民はレバノン国民で、理論的にはレバノン政府の保護下にあるわけです。実際にレバノン政府が生活を保障しているわけです。でもガザの場合は、イスラエル軍が撤退した後、誰が200数十万人のガザの住民の生活を保障するのかというと誰もいないわけです。

パレスチナ ガザ地区(2023年10月)

解釈が異なっていますが、イスラエルは以前からパレスチナを「もう占領していない」と主張している一方、国連は「まだ占領下にある」と言っています。

もし占領下にあるとすれば、占領国が占領地の住民を保護する義務が国際法的にはあるわけですから、イスラエルが考えるようなガザ地区と関係を絶つことは法的にも難しい主張です。もう一ついえば、いずれまたハマスのような勢力が出てきて、いくら壁で取り囲んでもロケット弾が飛んで来るわけです。

ガザ地区から発射されるロケット弾(2023年10月)

そうするとイスラエルにとってのガザ問題が遅かれ早かれ再び浮上してくるわけで、ガザ問題を完全に解決しないかぎり、その関係は切れないと思います。

地上侵攻を止める方法はない?

難しいと思います。アメリカのバイデン大統領があれだけイスラエルに対して追加の弾薬とかを送り、かつイスラエルに対する援助をウクライナの援助と含めて議会に要求すると言っていますよね。

アメリカ バイデン大統領

そういう姿勢を見れば、イスラエルがハマスを徹底的にたたくことをアメリカとしては支持していて、軍事侵攻についてもバイデン大統領の発言は「占領は好ましくない」といっただけで、軍事侵攻を止めるとは言っていないわけですね。

一定程度、ガザ地区に入ってハマスの軍事的なインフラをたたいたあと撤退することを想定して、それは許される範囲とバイデン大統領は考えている可能性はあります。アメリカがそう思っているとすれば、他の国が「止めろ」と言ってもなかなか止めることはできないのではないでしょうか。

ただ、ハマス側の幹部や戦闘員を相当数殺害し、ロケットや武器弾薬、武器製造工場を徹底的にたたいたとしても、時間かければまた出てきますよね。手製の武器をたくさん作るわけですから。

ガザの住民は220万人はほとんどは外に出られないまま苦しんでいるわけですから、その怒りは当然イスラエルに向くと思います。地上侵攻でハマス側をたたいたとして1年か2年はガザから攻撃がない日々が続くかもしれませんが、その状態はそう長くは続かないと思いますね。

(10月22日 ニュース7で放送)

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