2022年7月11日
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追跡!ロシアの“よう兵”たち 暗躍するアフリカで何が

金で雇われ、戦場に送り込まれるよう兵。ウクライナでは、ロシアのそうした“よう兵”たちが市民の殺害など残虐な行為に関わったと指摘されている。雇っているロシアの民間軍事会社「ワグネル」は、ロシア大統領府は否定しているものの、プーチン大統領とも関係が深いとされ、これまで中東のシリアなどでも動きが伝えられてきた。

今、「ワグネル」が進出を加速させていると見られるアフリカで、その実態を追った。
(ヨハネスブルク支局長 別府正一郎)

「公然の秘密」

「ワグネルの存在は、公然の秘密だ」。

声を潜めてこう耳打ちしたのは、西アフリカのマリの首都バマコで話を聞いた人たちだった。

マリと言えば、10年前から、北部を拠点に、アルカイダなどのイスラム過激派が台頭し、国軍と激しい戦闘を続けている国だ。旧宗主国のフランスも軍事介入して、マリ軍を支えてきた。しかし、そのマリで「ワグネル」と契約が交わされ、ロシアの“よう兵”たちが送り込まれているという。

マリの首都 バマコ

そのいわば秘密を暴露したのが、フランスだ。2021年12月、ヨーロッパなどほかの15か国と共同で声明を発表し、「これまでも派遣された国で拷問や処刑などの人権侵害を繰り返している『ワグネル』が、ロシア政府の支援を受けてマリに送りこまれた。マリ当局が外国のよう兵と契約した」として非難したのだ。

これに対し、マリ当局は直ちに声明を出し「マリ軍の訓練のためのロシアの軍事顧問団はいる」と認めたものの、「民間軍事会社は雇っていない」と否定した。

ロシア国旗がはためく

マリでは2020年、軍部がクーデターを起こし軍が実権を握っている。

2022年4月にはフランスのラジオ局やテレビ局の放送が禁じられるなど、外国メディアに対しても制限が強まる中、私たちは6月、首都バマコに入った。

町の様子を見るために車で大通りを走っていると、マリの国旗を売っている場所があったが、その中に、ロシアの国旗もはためいているのが見えた。

マリでは、今、急速に“フランス離れ”と同時に“ロシアへの接近”が起きているようだ。軍事クーデターをきっかけに、軍主導の暫定政府とフランスとの関係は悪化し、フランス政府は2022年2月から部隊の撤収を進めている。

そうした中で、バマコでは、ロシアの国旗を掲げながら、ロシアの介入を求める集会がたびたび開かれるようになっている。

ロシアをたたえる実業家

ロシアの介入を求める集会を主催する シディ・トラオレさん

そうした集会を主催している実業家のシディ・トラオレさん。

ビジネスの傍ら、政治活動も積極的に行っていて、2021年、仲間と「ロシアを求める運動」と名付けたグループを結成し、ロシアをたたえる声を広めるための活動をしているという。

トラオレさん
「フランスの軍事介入は失敗した。わが国をイスラム過激派から解放するために来たが、失敗だった。残念ながら、マリは弱く、強い国に支援を求めるしかない。だからロシアに頼んでいる」

「ワグネル」について聞くと、「マリ政府が存在を否定している以上、いないとしか言えない」と当局の主張をなぞった上で、「いずれにしろ、ロシアとの協力は双方に利益をもたらす」と強調した。

ムーラで何が起きたのか

しかし、フランスなどが「ワグネル」の存在への懸念を示す中、その懸念が的中したような事態が起きている。3月下旬、マリ軍は、イスラム過激派の拠点となっている中部ムーラで大規模な掃討作戦を行い、過激派の戦闘員200人あまりを殺害したと発表した。

その一方で、この掃討作戦には「ワグネル」の武装メンバーも参加し、無差別な攻撃によって、数百人の市民が巻き添えになって犠牲になった疑いが出ている。

取材を進める中で、当時、ムーラにいたという男性に話を聞くことが出来た。男性は、外国の記者のインタビューに応じたことが分かれば、過激派からもマリ軍からも報復されるとして、くれぐれも匿名にするようにと何回も念を押した。

男性は3月27日、育てている牛の取り引きのために市場にいたところ、突然、マリ軍のヘリコプター数機が飛来してきて、無差別の発砲を始めたという。

兵士たちの様子について、男性は「黒人の兵士と白人の兵士が一緒に、人々を撃って殺していたのを目撃した」と話した。

さらに男性は、こうした白人の兵士を間近に見ることもあった。上空からの攻撃を受けて、市場中がパニックになり人々が逃げ惑う中で、男性は民家に避難した。そこで、一晩、隠れていたが、翌28日の朝、扉を蹴破って、白人の兵士が押し入ってきたという。

「その兵士たちの肌の色は白く、髪の毛は赤かった。どの国の者かはわからない。ただ、話していたのは、私たちのことばやフランス語ではなかった」

男性は、兵士に河原に連れて行かれ、そこでほかの数百人とともに5日間拘束されたという。夜はその場で横になって寝るしかなかった。自身は解放されたものの、その間に、何人かが処刑されたと証言した。

「遺体をいくつも見た。何人かは頭を撃たれ、私はそう遠くない場所から見ていた」

国連安保理でも取り上げられたが・・・

直ちにフランスなどは、「ワグネル」による処刑などの人権侵害があったとして、国連の安全保障理事会に国際的な調査を求めた。しかし、安保理の議論では、ロシアの外交官が「いわゆるロシアのよう兵に関する情報操作は、地政学的なゲームに過ぎない」と述べて、全面的に否定した。

国際的な調査は、ロシアや中国の反対があって、実現のめどは立っていない。

アフリカの“ロシア傾斜”

ロシアへの非難決議案の採決が行われた国連総会(2022年3月)

こうした中で、マリのロシア寄りの外交姿勢も目立っている。

3月、国連総会で、ウクライナに侵攻したロシアを非難する決議案の採決が行われた際、日本を始め、欧米を中心に141か国が賛成した一方、35か国が棄権した。

棄権した中の半数近くがアフリカの国々で、マリもそのひとつだ。

ジャーナリスト アミババ・シセさん

これについて、地元のジャーナリストのアミババ・シセさんは「ロシアの思惑は、これまでフランスがいわば独占してきたマリなどの旧仏領の国々への影響力を奪い取ることだろう」と分析した。

実際に、マリのほかにも、すでに「ワグネル」が送り込まれたと伝えられる、同じく旧仏領の国で、内戦が続いてきた中央アフリカも、採決では棄権した。こうしたことから、「ワグネル」がロシアのアフリカへの影響力拡大の「先兵」のようだという批判もある。

絶望の中で

10年続くイスラム過激派との戦闘でマリは、疲弊している。

これまでに40万人が戦火で家を追われ、バマコの郊外にも、そうした人たちが身を寄せる避難民キャンプが出来ていた。人々は、ビニールシートや木材で、簡単な小屋を作って暮らしている。

ザッカリア・ジャロさん(右)と家族

避難民たちのリーダーのザッカリア・ジャロさんは、元は教師で、3年前に中部の村から、妻と2人の子どもと逃れてきた。別の村に暮らしていた2人の弟は、過激派に加わるのを拒否して殺されたという。

ジャロさんは、「故郷に帰るめどはない。教師の仕事もできず、家畜と共に寝起きするようなキャンプでの暮らしは辛い」と話し、頭を抱えた。

こうした状況なだけに、マリの多くの国民が、「誰であっても治安を改善してくれるなら歓迎する」と話す。マリやロシアの政府が否定しても、その存在は「公然の秘密だ」として「ワグネル」に期待する声にもつながっているようだ。

深まる人々の絶望。その中で、ロシアの存在感は着実に高まっているように感じた。

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