2022年6月16日
ウクライナ ロシア

「プーチン大統領はあらゆる国際法に違反」ロシア人たちの反戦の声

「私はうそに苦しむよりも、自由に死んだほうがましです」
「軍事侵攻はロシア人にとって“特別な痛み”です」

厳しい弾圧、言論統制の中、ロシアからSNSなどで反戦の声を上げ続けている人たちがいます。そして、政権批判などで1万人以上の人たちが拘束されています。

リスクがありながらもどうして声をあげるのか。今回、SNSを通じて連絡をとり、彼・彼女たちの反戦への思い、生活状況、そして政権による弾圧などについて聞かせてもらいました。

日本からツイッターを通じて連絡をとり、以下の5つの質問をしました。これまでに8人に取材に応じてもらい、4人については4月11日公開した記事でご紹介しましたが、今回は、残る4人の回答を紹介します。

以下の質問をしました。
(1)ウクライナ侵攻についてどう考えますか?
(2)2月24日以降、ロシア国内でどのような変化がありましたか?
(3)抗議の声を上げることにどのようなリスクがありますか?
(4)リスクがありながらも声を上げるのはなぜですか?
(5)今の政権をどう考えますか?

(取材に応じてくれた方の中には、名前を公表してもよいという方もいましたが、安全のためすべて匿名としています)

※この記事は2022年4月21日に公開されたものです

“声を上げずにはいられません”

◎26歳の女性(モスクワ在住、グラフィックデザイナー)

(1)ウクライナ侵攻についてどう考えますか?
主権国家であるウクライナへのロシア部隊の派兵を拒絶し、精神的にも民族的にも私たちに近い人たちへの全面戦争だととらえています。

(2)侵攻後、ロシア国内でどのような変化が?
公に反戦を訴えている人は、国家から迫害され、危害を加えられるおそれがあります。

(3)抗議の声を上げることにリスクは?
私はいつ見つけ出されてもおかしくないと思います。道端で携帯電話の記録すべて調べ上げられ、尋問される可能性があります。「赤の広場」で抗議活動を行ったことで、罰金を科されるかもしれません。

私の同僚の1人は「ロシアの領土から常識がなくなった」と書いたことで捜査され、刑事罰に問われています。抗議活動に対する最も厳しい刑罰は懲役もしくは禁錮15年です。

(4)リスクがありながらもなぜ声を?
私はいつだって、言論の自由は最も重要な人権の1つだと信じてきたので、私の周りでこんなひどいことが起きているなか、声を上げずにはいられません。

(5)今の政権をどう考えますか?
私はいつだって現政権に対して反対の立場をとり、自分の立場を公にしてきました。

“大統領は世界を混乱に陥れている”

◎23歳の男性(モスクワ在住、情報分析メディア)

(1)ウクライナ侵攻についてどう考えますか?
ロシアの大統領による権力を保持するための厚かましい試みだと受け止めています。数年間にわたって真実のことばを1つも伝えず、プロパガンダを流すメディアを通じて、ウクライナでナチスが権力を掌握したとロシア人に伝え、外部に仮想の敵を作り上げてきました。

私たちの大統領はロシア国民に歴史的な痛みを与えています。ほかの国と同じように、ナチスによって苦しめられてきた過去があるにも関わらずです。

それと同時に、ロシア国内で起きている混乱と無秩序、それに大統領の帝国主義的な野望の実現へと焦点を移し、大統領はあらゆる国際法に違反し、世界を混乱に陥れています。

(2)侵攻後、ロシア国内でどのような変化が?
“この困難な時期に”人々を支配下に置くために、政権は抗議の声を上げる人への抑圧を強めています。重大な結果に直面することなく、真実を伝えることはほとんど不可能になりました。

世界全体が私たち、そして私たちの国に背を向け、いずれは“鉄のカーテン”によって世界全体から閉め出されるのではないかと危惧しています。すでにその兆候が出ていると感じています。

多くの外国企業がロシア国内での活動を停止していて、その企業の代わりとなるサービスがないことがほとんどです。その損失が、次の世代が待ち受ける恐怖の一つです。いくつかの商品が不足していて、生活必需品などの物価が急速に高騰しています。

個人的な話をすると、物価が上がっているので、もっと貯金をしなくてはならなくなりました。しかし、私の雇用主は十分な資金がないため、給料を上げてもらえません。すべてはこの軍事侵攻のせいなのです。

(3)抗議の声を上げることにリスクは?
戦争に、あるいは政権が主張している“特別な軍事作戦”に対して、抗議をする私たちの多くは権力からさまざまな妨害を受けます。それは予測不可能であり、すべてを挙げるのは不可能です。

罰金を科される人や、罰金を科されたうえで7日間から1か月間拘留される人。
ねつ造された罪によってより長い期間拘留される人。
職場を解雇される人。
国外に強制的に追放される人。
家の扉に落書きをされて脅迫される人や、玄関に肥料をまかれたり、豚の生首を置かれたりする人。
「裏切り者がここに住んでいる」などと書かれた紙を貼られる人。

そして彼らはウクライナの“非ナチス化”について話をします。もちろん“ウクライナでの特別作戦についてのうその情報を広めること”に対する最も重い罰は、10年以上の懲役または禁錮の刑です。

(4)リスクがありながらもなぜ声を?
私にとって自分の良心と折り合いをつけるのは難しいのです。何が起きているのか知りながら、黙っていることは難しいのです。切実に、真実を求めています。そして、平和と正義が打ち勝ち、これがいつか現実となることが私の望みです。

本音を言うと、政権が私にとても怖がらせるようなことをしているので、最近は、抗議活動を減らさざるをえませんでした。でも、できるかぎり抗議活動に貢献しようと思います。

一方で、強まる抑圧に対して、逆に抗議活動を強めている人もいて、私はそうした人たちを誇りに思い、敬意を表します。

(5)今の政権をどう考えますか?
2014年以降、現政権を支持できないと考えるようになり、2017年以降、抗議活動を行っています。私は現政権にとても否定的で、私の国に変化をもたらし、ウクライナに平和をもたらすために努力し続けると思います。

そして、必要ならば、あらゆる平和的で合法的な手段で戦い続けます。

“とくに子どもが殺されるのは嫌です”

◎49歳女性(モスクワ在住、金融関係)

(1)ウクライナ侵攻についてどう考えますか?
私はウクライナへの軍事侵攻は、ウクライナとロシアの人々にとってだけでなく、世界全体にとっての犯罪、そして惨事であると思います。

しかし、ロシア国民にとっては“特別な痛み”でもあります。ウクライナ人とロシア人は長い歴史を共有してきました。多くのロシア人とウクライナ人は、夫、妻、叔父や叔母など家族の結びつきを持っている人が多いです。私自身もウクライナ人の血筋があり、ウクライナのヘルソンとドニプロに親戚がいます。

不幸なことに、その親戚とは連絡がとれず、何が起きているのかわかりません。

(2)侵攻後、ロシア国内でどのような変化が?
物価は何度も上がっていて、店の棚からなくなりはじめている商品や生活必需品もあります。

外国企業がロシアから撤退し始めました。多くの企業などでは従業員を解雇する動きがはじまっています。

国境は閉じられ、国外に出ることが難しくなっています。

プーチン大統領のプロパガンダは、国営テレビを通じて増えています。戦争やプーチン大統領の政策に反対する人は逮捕されはじめています。

(3)抗議の声を上げることにリスクは?

高額な罰金を科されるだけで済めば、まだましです。最悪の場合、私は拘留され、親族に危害を加えられるでしょう。そして、最悪のシナリオでは、私は撃たれるでしょう。

そうならないことを願うばかりです。

(4)リスクがありながらもなぜ声を?
私は戦争に反対しているからです。私は自由で民主的な国で暮らしたいと願っています。

市民、とくに子どもが殺されるのは嫌なのです。

普通で、常識あるロシア人が世界全体でのけ者にされるのは嫌です。そして“ロシア”ということばが“戦争と支配者”ということばに結びつけられるようになるのは嫌なのです。

(5)今の政権をどう考えますか?
20年ほど前に私は友人と「プーチン大統領は私たちを1937年に引き戻すつもりだ」と話していました。それがいま起きているのです。それはスターリンが抑圧をはじめた年だからです。

その結果、私たちの国の状況はスターリン時代のようになってしまいました。プーチン大統領は彼のクローンとともに犯罪国家をつくりました。彼らをオリガルヒにし、政府の要職を与えました。

彼らは国をなすがままにしました!彼らは恥ずかしげもなく国家予算を盗み、憲法ですべての人のものと定められた資源を売り払いました。

彼らが私腹を肥やしています。彼らは世界で最高の大学で学び、妻や愛人、それにパートナーは世界で最高のリゾートで安らいでいます。ヨーロッパ諸国に別荘を持ち、ヨットを購入し、ヨーロッパや米国でいい生活を楽しんでいます。

それなのに、テレビで欧米はどんなに悪なのか伝えています。それはとても腐敗した犯罪の力です。そしていま私たちは第2の北朝鮮になるところまできています。

“政府の行動を恥じています”

◎52歳女性(モスクワ在住、美容関係)

(1)ウクライナ侵攻についてどう考えますか?
こんなことが本当に起きうるのか想像すらできませんでした。2月24日までは、私は政府の常識を望んでいました。

私は戦争に反対です。しかし、不幸なことに、多くのロシア人たちは自分たちの軍と政府を誇りに思っています。

私の立場は明確です。これは犯罪なのです。

(2)侵攻後、ロシア国内でどのような変化が?
ルーブルが下落し、私の貯金は半分に減りました。それとは対照的に、ほとんどの商品がドルにひもづけられているため価格が倍になりました。

砂糖、女性用品は店の棚から消えました。

インスタグラム、フェイスブック、ティックトックへのアクセスが制限されています。近い将来ユーチューブへのアクセスもブロックされるのではないかと言われています。海外サイトへのリンクも検索エンジンから外されていて、ロシアが世界のインターネットから切り離されるのではないかという懸念もあります。

私の収入も減りました。顧客が海外に出て行ったり、顧客の収入も減ったりしたためです。

多くのものが手に入らなくなってきています。モスクワでアパートを購入するためにお金をためていましたが、いまの価格、抵当と私の収入を考えると、それは夢のまた夢となってしまいました。

(3)抗議の声を上げることにリスクは?
戦争を戦争と呼ぶことを禁じ、真実を話すことをうそを拡散することとする法律が制定されました。

自由意思と表現の自由の尊重、それに平和を求め、政府に対して抗議の声をあげることに対して、3万ルーブルの罰金から15年の懲役もしくは禁錮の刑が科されます。

(4)リスクがありながらもなぜ声を?

こんなものが人生ではありません。私は起きていることに胸を痛め、政府の行動を恥じています。そして何よりも最悪なことは、それに対して私に何も変えられないことです。

私は神経をすり減らしています。
何も起きていないかのように見過ごすことはできません。
自分の子どものことが心配です。この先、私の息子が戦争に動員され、逃走したと見なされるかもしれません。

私は子どもの将来に鉄のカーテンがかかることを恐れていて、子どもたちには私のように苦しんでほしくありません。それが私がリスクを負う覚悟がある理由です。

私はうそで苦しむより、自由のまま死んだほうがましです。

私は世界に対して、ロシアには実直で、賢明で、平和の実現のために協力できる人がいて、それが自分たちの力だけでできないでいるのだということを伝えたいのです。

(5)今の政権をどう考えますか?
プーチン大統領には弾劾と裁判、それにこれまでの不正を公にすることを望んでいます。そして政府には、市民から奪われたものを取り戻すことを求めます。

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