今の環境でできることに工夫して取り組むことが逆転につながる

中西麻耶

パラ陸上

人には逆境を乗り越える力がある。ひときわ強くそう感じさせてくれるアスリートがいる。パラ陸上、走り幅跳びの義足のジャンパー、中西麻耶。日本のパラ陸上を長年引っ張り、実績を積み上げてきた彼女は、2019年世界選手権で念願の初優勝。一躍、東京パラリンピックの金メダル候補に躍り出た。
しかし、新型コロナウイルスの影響で大会は延期に。中西は高齢の家族を感染から守るため、実家のある地元の大分から練習拠点を移すことを余儀なくされた。コーチのいる大阪で新居を見つけるまで、4か月もかかった。

「ホームステイなどで転々としていたので、正直やっぱり久々にきつかった。自分の心と折り合いがつきそうにない時もあった」

中西はこれまで、何度も逆境を経験してきた。ソフトテニスで国体を目指していた21歳の時、仕事中の事故で右足を失った。パラ陸上選手として活動資金を稼ぐために義足でセミヌードのカレンダーを発売した時は、一部から「障害を売り物にしている」と非難された。
そして2020年、世界女王として臨むはずだった東京パラリンピックは延期された。緊急事態宣言で競技場が閉鎖されてからは、公園や駐車場が練習場所になった。逆境の中、中西が思い出したのは、けがをした時に直面した病院でのリハビリ生活だった。

「外に出れば砂利道だから、病院の中でリハビリしても仕方ない。一刻も早く病院から出たいと思っていた。だから、きれいに整備された競技場じゃない場所で練習することにも意味があるんじゃないか」

駐車場で走れば、必ず段差にぶつかる。公園の芝生は、でこぼこして走りにくい。だからこそ中西は、義足で身につけることが難しい左右のバランス感覚を磨くチャンスととらえ、徹底的に走り込んだ。

競技場が使えないから、いつもの練習ができないではなく、どうしたら継続的にできるかと考えたという中西のことばは力強い。

「逆境を嘆くのは簡単だが、嘆いている間は時間が止まっていて、前に進めない。今の環境でできることに、工夫して取り組むことが逆転につながる」

初の世界一に輝いた去年の世界選手権でも、けがに苦しんだシーズンの最終戦、その最後のジャンプで逆転した。逆境でひときわ輝く中西が一番輝くメダルを手にする。コロナの脅威を乗り越えた東京で待っているのは、そんなできすぎたストーリーかもしれない。

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