【詳細】イスラエル国防相 “ガザ地区南部の部隊を撤収”

イスラエルのガラント国防相は、イスラム組織ハマスとの戦闘開始から半年となった7日、ガザ地区南部のハンユニスに展開する部隊を撤収させたと明らかにしました。

ただ、撤収が明らかにされたあとも、8日にかけて各地でイスラエル軍の空爆が続いていて、住民に複数の死傷者が出ている模様です。

※イスラエルやパレスチナに関する日本時間4月8日の動きを、随時更新してお伝えします。

ガザ地区南部からの撤収表明後も 各地で空爆

イスラエルのガラント国防相は、ハマスとの戦闘が始まってから半年となった7日、ガザ地区の南部ハンユニスに展開する部隊を撤収させたことを明らかにしました。

ただ、イスラエル軍は一部の部隊についてはガザ地区に残り、活動を続けているとしています。

一方、8日にかけてもガザ地区の各地でイスラエル軍による空爆などが続き、地元のメディアは少なくとも住民7人が死亡したなどと伝えています。

戦闘休止めぐる協議 断続的に続くか

ハマスは戦闘の休止と人質の解放などをめぐる交渉のため代表団が7日、エジプトの首都カイロに到着したと明らかにしていて、イスラエルやアメリカ、それに仲介国による協議が断続的に続いているとみられます。

ただ、完全な停戦を求めるハマスとハマスの壊滅を目指すイスラエルとでは立場の隔たりがあり、妥協点を見いだせるかどうかは依然、不透明な情勢です。

衛星画像で見る膨大な数のテント ガザ地区ラファ

イスラエル軍のガザ地区南部のハンユニスからの撤収が発表される中、イスラエル軍は、今後、どのような作戦に踏み切るのか。

その動向を不安な思いで見ているのが、地区南部に避難を余儀なくされた多くのパレスチナの人たちです。

ハマスによる越境攻撃をうけて去年10月7日に始まったイスラエル軍の軍事作戦。

イスラエル軍の攻撃は、当初の地区北部から一時的な戦闘休止が終わった12月からは南部のハンユニスや中部などにも広がりました。

戦線の拡大とともにガザ地区の南の端、エジプトとの境界に近いラファに多くの人が押し寄せました。

付近をとらえた衛星画像をみると、去年11月中旬の時点では国連施設の近くにテントが集まっていましたが、ことし1月上旬には周辺の土地に膨大な数のテントが立てられたことがわかります。

4月1日の画像を詳しくみると、テントは市街地に隣接した250ヘクタール以上に及ぶ土地に立てられているほか、ラファの市街地でも住宅の間にある農地などを利用して隙間に入り込むように広がっています。

また、一部では道路を覆う形でテントがひしめいているのも衛星画像から見てとれます。

人口25万ほどのラファに、国連はガザ地区全体の人口の半数以上にあたる150万もの避難民が押し寄せ、施設に身を寄せたり、テントで暮らしたりしているという見方を示しています。

多くのテントがインフラのない場所に立ち、生活環境は劣悪で、感染症の拡大などが指摘されています。

イスラエル・パレスチナ情勢に詳しい東京大学中東地域研究センターの鈴木啓之特任准教授は、「収容できる人数の限界を超え、避難生活そのものが非人道的な状態にある」と述べ、テントなどで暮らす人たちはすでに命が危ぶまれる状況だと指摘しました。

今後の展開については、「今回のガザ地区への軍事作戦が始まったときと同様、イスラエル側が明確に宣言をせずに段階的に攻撃を強めることも想定される。ラファに地上部隊が展開されれば、避難している人々の命を直接危険にさらすことになる」と述べ、さらに危機が拡大することへの懸念を示しました。

国連 衛星センター“ガザ地区 全体の建物の35%が被害”と分析

国連の衛星センターは、イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が去年10月7日に始まって以降、ガザ地区ではことし2月までに全体の建物の35%が被害を受け、最も被害が大きい北部の地域では半分以上の建物が被害を受けたとする分析を明らかにしています。

専門家は「近年のガザ地区での戦闘と比べても桁違いの被害が出ている」と指摘しています。

ガザ地区に東西横断する新たな道路建設 衛星画像分析

イスラエル軍が攻撃を続けるガザ地区で、地区内を分断するように東西を横断する新たな道路が建設されていることが、衛星画像の分析から分かりました。

専門家は、イスラエル軍が今後、ガザ地区を内部から南北に2分割して管理することを見据えている可能性を指摘し、「その場合、この20年の管理政策が大きく転換したことになる」と分析しています。

専門家 “戦後見据えた治安維持へ 管理政策の大転換か”

イスラエル側が整備を進めている一連の道路や構造物について、東京大学中東地域研究センター・鈴木啓之特任准教授は、ヨルダン川西岸でも同じような施設がみられるとして「攻撃用のインフラというよりは戦後を見据えた治安維持のために建設していると考えられる。ガザ地区を南北に分割して機動性のある車両で抗議デモなどがあった際に迅速に対応するとともに、道路が交差する場所には人や物の行き来を管理する検問所のようなものが建設されている可能性がある。今後さらに、コンクリート製の分離壁と呼ばれるようものや監視塔のようなものが建設されるのかどうかが注目される」と分析しています。

その上で、イスラエルのネタニヤフ首相がことし2月に戦時内閣に戦後のプランを示し、ガザ地区の治安に関してはイスラエルが担うとしたと伝えられていることを挙げて、「この道路を見るかぎり、ガザ地区を内部から分割して人や物の行き来を管理するインフラと考えるのが妥当だ。2005年以降、イスラエルはガザ地区を外から封鎖する形で管理をしてきたが、この道路の建設によって地区内部に部隊が展開し、治安維持を担うことになれば、これまでの20年間のイスラエルによる管理政策が大きく転換したことになる」と指摘しています。

ガザ地区南部からの部隊を撤収 “今後の作戦に備えるため”

イスラエルのガラント国防相は、7日、「ラファを含む今後の作戦に備えるためだ」と述べ、ハンユニスに展開する部隊を撤収させたことを明らかにしました。

ガザ地区の最も南にあるラファでの地上作戦の準備を進めるためだとしています。

一方、今回の撤収について、アメリカ・ホワイトハウスのカービー大統領補佐官は7日、ABCテレビのインタビューで「イスラエル側の発表から、これは4か月にわたって現地に配置されていた部隊の休息や再装備のためだと理解している」と述べました。

また、カービー補佐官はCBSテレビの番組で「休息と再装備のあとこれらの部隊が何をするのか語ることはできないが、アメリカがラファでの大規模な地上作戦を支持しないことに変わりはない」と述べました。

ガザ地区では7日も複数の場所でイスラエル軍による空爆があり、6人が死亡したと地元メディアが伝えていて、現地の保健当局は7日、これまでに3万3175人が死亡したと発表し、犠牲者が増え続けています。

ラファで避難生活を送る人たちからは不安の声

これについて、ラファで避難生活を送る人たちからは、不安の声が聞かれました。

このうち65歳の男性は、「イスラエル軍はラファへの新たな作戦を準備しているのかも知れない。本当にこの戦争を終わらせて欲しい」と訴えていました。

またガザ地区の北部から避難してきている女性は、「本当に心配です。彼らはラファへの地上作戦を入念に準備しているのです」と話していました。

専門家 アメリカからの働きかけが影響したか

イスラエルとパレスチナの紛争に詳しいヘブライ大学トルーマン平和研究所のロニ・シャケッド氏は7日、NHKのオンラインインタビューに応じました。

このなかでイスラエル軍がガザ地区南部のハンユニスから部隊を撤収させたことについて「ここ最近、アメリカのイスラエルへの圧力はますます強まっている。ラファへの地上作戦を行えばアメリカの支持を失うだろう。イスラエルとしては孤立を避けるのが最も重要だ」と述べて、アメリカからの働きかけが影響したのではないかとの見方を示しました。

その上で、部隊を撤収させた後は、事前の情報に基づいた標的を絞った作戦に移行するという見方を示しました。

また今回の撤収によってガザ地区の住民への支援がより容易になるだろうとの見方を示した上で「ガザ地区から部隊が撤収することで、人質解放のための交渉がよりしやすくなるだろう」と期待を示しました。

一方で、シャケッド氏は「ネタニヤフ首相の考えていることは分からない。最終的には住民を避難させ、ハマスの壊滅を目指してラファへの地上作戦を承認するかも知れない」と述べました。

専門家 “イスラエル側が休戦・停戦に乗り出すのは難しい”

イスラエル軍がガザ地区南部のハンユニスからの部隊の撤収を明らかにしたことについて、東京大学中東地域研究センターの鈴木啓之特任准教授は、「事前にハマスとの交渉やイスラエルの戦時内閣での調整が行われた様子はなく、一方的な措置とみられる。ハマスから人質の解放についてアプローチがないかぎり、イスラエル側が休戦または停戦に乗り出すのは難しい」と指摘しました。

撤収の判断の背景については、ガザ地区で食料支援にあたっていた国際的なNGOのスタッフが死亡した攻撃を受けてアメリカのバイデン政権がイスラエルの行為に批判的な見方を強めていて、人道状況への配慮を示す必要がでてきたこと、それにシリアにあるイラン大使館への攻撃に対してイランが報復を宣言していることから軍に余力を残すことが必要になっているなどと分析しています。

また、半年にわたる軍事行動で兵士の疲労や国内経済への影響も大きく、ネタニヤフ政権としては戦闘を継続する方針とのバランスを取ることが求められているとしています。

そのうえで、鈴木氏は「兵力や予算を小さくして継続可能な形で戦闘を行う態勢づくりの可能性も否めない」と述べ、イスラエル軍が今後、最も南のラファを攻撃する可能性は残っていると指摘しました。

また、イスラエルがガザ地区に対して軍事的な圧力をかけ続ける状態は変わらず、人道危機の改善にはほど遠いという見方を示しました。

“戦闘休止交渉が7日にカイロで行われる” イスラエルメディア

イスラエルのメディアなどは、戦闘休止と人質の解放をめぐる交渉が7日、エジプトの首都カイロで行われると伝えました。

ハマスは7日、代表団がカイロに到着したことを認める声明を出しています。

ハマス側は、エジプトの総合情報庁の長官と会談したことを明らかにした上で、ガザ地区で拘束している人質と引き換えにパレスチナ人の囚人の解放を実現する交渉の締結などに向け熱意を表明したとしています。

難航してきた戦闘休止に向けた交渉が今回まとまるのか、焦点となります。