「木製バット」がトレンドワードに センバツで選手が打席に

センバツ高校野球、大会4日目の第3試合で、青森山田高校の3番の對馬陸翔選手と5番の吉川勇大選手の2人が木製バットで打席に立つ極めて珍しい場面がありました。

SNS上では、驚きの投稿が相次ぎ「木製バット」がトレンドワードに入るなど話題となっています。“飛ばない”バットへの出場校の対応が注目されるなか、高校野球の懐かしくて、新しい光景が誕生しました。

“飛ばないバット”注目の中で「木製バット」で打席に

高校野球ではことしからピッチャーをけがから守ることを主な目的に反発力を抑えた新たな基準の金属バットが導入され、センバツ前には多くの監督や選手たちが「全然飛ばない。ホームランは確実に減る」などと口をそろえていました。

“木製バット”で打席に 青森山田 吉川選手

こうしたなかで、大会前から一部の選手が代わりに使用を検討してきたのが、練習で使い慣れているという木製バットでした。

そもそも高校野球では、かつては木製バットが使われていました。

しかし、木製は折れやすいため、買い替えによる経済的な負担を減らすことを目的に50年前の1974年に金属バットが使用できるようになりました。

高校野球のルールを定めた規則では、いまも木製バットを試合で使うことは認められていますが、金属バットの方が芯が大きく、打球が飛びやすいため、木製を使用する選手はいないのが実情です。

また、木製は滑りやすい一方、高校野球では、滑り止めのスプレーを使うことが認められていないため、しっかり振るのは、難しいという見方もあります。

春夏の甲子園で木製バットを使った選手がどのくらいいたか、記録は残されていませんが、日本高校野球連盟によりますと、金属バットの導入当初は、品質がよくなかったこともあり、木製を使う選手もいたということです。

プロ野球 巨人で活躍 篠塚和典さん(1986年)

金属バットが使用できるようになって、甲子園での初めての大会となった1974年の夏の全国高校野球では、のちにプロ野球、巨人で活躍した千葉の銚子商業の篠塚和典選手が木製バットを使って、2本のホームランを打ちました。

篠塚選手はこの大会で、2年生の4番として「黒潮打線」と呼ばれた強力打線を引っ張り、優勝に大きく貢献しました。

2000年以降では、愛知の愛工大名電高校の選手が送りバントで打球の勢いを弱めるためにあえて木製を使ったこともありましたが、今回のように打つケースは異例です。

「木製バット」SNSで驚きの投稿相次ぐ

SNS上では、驚きの投稿が相次ぎ「木製バット」がトレンドワードに入るなど話題となっています。

“飛ばない”バットへの出場校の対応が注目されるなか、高校野球の懐かしくて、新しい光景が誕生しました。

青森山田はサヨナラ勝ちで2回戦へ

◆2人はなぜ 木製バットを使ったのか?その感触は?

青森山田の3番バッターの對馬陸翔選手と5番バッターの吉川勇大選手は今大会で初めて木製バットを使いました。

對馬選手が木製バットを選んだのには、2つの理由があります。

◆1つが、今大会から導入された反発力を抑えた新たな基準の金属バットでは打っても飛距離が伸びないと感じたからです。
低反発のバットを練習で使ってみたところ、木製バットのほうが
▽バットの芯に当たったときに「ボールの乗せ方次第」としながらも飛距離が出たこと
▽操作性がよかったこと
▽大学やプロを目指す上で早い段階から慣らしていきたいと考えました。

◆2つめの理由は去年秋の打撃成績が関係しています。
對馬選手の秋の大会の成績は10試合に出場して打率1割7分6厘。体が開いてバットが外回りするバッティングフォームになってしまい、ボールとバットがうまく当たらなかったといいます。

木製のバットは内側から振り出さないと折れてしまう恐れがあります。そこで、木製バットを使ってフォームの改善に取り組むことにしました。内側を意識するようになり、バットが外回りすることが少なくなったほか、ボールの内側をたたくイメージができて、バッティングの技術力も上がったといいます。

木製バットは両親に頼んで1本およそ1万5000円のものを10本、甲子園に持ってきています。大リーグ、カブスでプレーする鈴木誠也選手のモデルで重さは890グラム。材質は主にメープルで、練習用が3本、試合用に7本あるということでこれまでに練習用は2本折ってしまったということです。

21日の試合はヒットは打てませんでしたが、對馬選手は「緊張でスイングが硬くなってしまったことなど、反省点が多く出たので、次の試合までに修正して次はヒットを打ちたい」と意気込んでいました。

一方、吉川選手は低反発のバットをチームメートが使っているのを見たときに「みんな飛んでいないという印象があったほか、こすった打球は金属バットよりも打球に伸びがあったため木製バットを信じて使っている」と對馬選手とともに去年秋の明治神宮大会が終わってから木製バットを振り込んできました。

21日の試合では第1打席でインコース寄りのストレートをレフト前に運ぶヒットを打ったほか、第4打席にはレフトの頭上を越えるスリーベースヒットを打ってチームのサヨナラ勝ちに大きく貢献しました。

吉川選手は「打った感触は気持ちよかった。ああいう1打をこれからも打っていきたいし、とにかくチームの勝利につながる打撃をしていきたい」と次の試合に向けて意気込んでいました。

《高校野球“バットのルール”》

高校野球のバットに関するルールをまとめました。

【使用できるバットは4種類】
▽木製バット
▽木片の接合バット
▽竹の接合バット
▽金属バット

【重さの制限】
▽金属バット:900グラム以上
▽木製バット:重さの制限なし

【色にも制限】
〈金属バット〉
▽シルバー系
▽ゴールド系
▽ブラック
◆複数色は認められておらず、単色のバットだけを使うことができる。

〈木製バット〉
▽バットそのものの素材の色
▽黒色
▽ダークブラウン系
▽赤褐色系
▽淡黄色系
◆許可された色どうしの2色、いわゆる「ツートンカラー」のバットを使うことができる。
◆折れたり、割れたりしていないか確認するため、ボールが当たる部分の木目を目視できる必要。
◆ボールに塗料が付着するなど粗い塗装がされたバットは使うことはできない。

【滑り止めスプレーは不可】
プロ野球などでは認められている滑り止めのスプレーはベンチに持ち込むことができない。バッティング用の手袋が摩擦によってすり減るのを防ぐため。