“飛ばない”バットで高校野球が変わる!?

ことし開場から100周年を迎える甲子園球場。センバツ高校野球も第1回大会からことしで100年を迎えます。

この節目の年に導入されるのが新基準の金属バット。ピッチャーをけがから守ることを主な目的に、反発力を抑えようと23年ぶりに基準が見直されました。

この”飛ばない”バットへの対応をセンバツの出場校もあの手この手で模索しています。
(センバツ取材班 並松康弘)

“打球飛ばず点が入らない”

「本当に全然飛ばないです。外野手の定位置が4、5メートル前になると思います」

「芯を外れて先に当たったり、詰まったりした打球は内野の頭も越えないです。バッティング練習だけだったら木製バットの方が飛ぶかもしれません」

出場校の選手たちや監督が口をそろえるように苦労や悩みをにじませる、新たな基準のバット。

従来よりバットの直径の上限が3ミリ小さくなりました。

さらにボールが当たる部分の金属の厚みが1ミリ厚くなりました。

金属バットの中は空洞になっていて、ボールが当たってへこんだ部分がトランポリンのように戻ってボールをはじき返す効果がありますが、新たな基準でその効果が抑えられます。

高野連=日本高校野球連盟が行った試験では、打球の初速と平均速度は従来より3%以上遅くなり、飛距離も5、6メートル落ちる見込みです。

監督として春夏の甲子園で歴代最多となる8回の優勝を果たしている大阪桐蔭高校の西谷浩一監督も試合展開や内容に大きな影響があると指摘しています。

大阪桐蔭 西谷浩一監督

大阪桐蔭 西谷浩一監督
「慣れるのにかなり時間がかかると感じています。センバツに向けて紅白戦をやっても全然点が入らず、1時間40分ぐらいで終わる試合もありました。ロースコアの試合や延長タイブレークに突入する試合は間違いなく増えると思います」

やまびこ、PL、大リーガーも 金属バット導入から50年

高校野球で金属バットが使用できるようになったのは50年前の1974年。

かつては高校野球でもプロ野球と同じように木製バットが使われていましたが、折れやすく頻繁に買い換える必要があるため、経済的な負担を減らすというのが狙いでした。

木製と比べて芯が広く、反発力が高い金属バットの導入で、送りバントなど小技が中心だった高校野球は一変しました。

1980年代には池田高校(徳島)が甲高い金属音が続くことから「やまびこ打線」と呼ばれる強力打線で甲子園を席巻。

1982年 池田(徳島)

ホームランの数は、金属バットの導入前に甲子園球場で行われたセンバツですべて1桁台でしたが、1984年には「K・Kコンビ」を擁するPL学園(大阪)が活躍し、大会記録となる30本が飛び出しました。

1984年 PL学園(大阪)

大リーグで活躍する大谷翔平選手も12年前のセンバツでホームランを打つなど、この50年、高校野球は金属バットとともに多くの歴史が刻まれてきました。

2012年 花巻東(岩手)

なぜ金属バットを見直す?

一方で、課題となってきたのが、ピッチャーのけがの防止や負担軽減です。

近年は、バットの性能が上がったこともあり、バッターの打球が時速180キロ、つまりピッチャーが投げるボールよりも速いスピードで飛んでくる場合もあります。

2018年の夏の全国高校野球では、打球がピッチャーの顔に直撃して骨折する事故も起きました。

高野連では、反発力を抑えることでこうした事故を防ぐとともに、打者有利な現状を変えることによってピッチャーの球数が減るなど負担軽減にもつながると期待しています。

新バット対策 体作り見直し

センバツ出場校はこの冬、“飛ばない”バットへの対策を進めてきました。

3年ぶり出場の京都国際高校が見直したのが体作りです。

ウォーミングアップにトレーニングを取り入れて、毎日1時間半かけて徹底的に鍛えてきました。

特に意識したのは、打球を遠くに飛ばすのに必要な、背中や太もも裏といった体の後ろ側の筋力です。

重さ2キロのボールを使った練習では、腕の力に頼らずに、背中や太もも裏の筋力を使って体全体で遠くに投げる動きを繰り返しました。

これまでほとんどしてこなかったウエイトトレーニングにも毎日取り組んだことで、選手の平均体重は去年秋と比べておよそ5キロを増えて、手応えを感じています。

京都国際 小牧憲継監督

京都国際 小牧憲継監督
「いつか自分たちも行き詰まってしまうというところでトレーニングを見直しました。守備や走塁を重視するチームが増えてくるとは思うんですけど、逆に打てればさらに勝てる確率は上がるので、新たな基準のバットを使いこなせる打線を作りたいですね」

京都国際 藤本陽毅選手

京都国際 藤本陽毅選手
「ひと冬を越えて体重も7キロ増えて、スイングスピードや打球速度、飛距離も変わってきたので、試合でどんな結果が出るか楽しみです。外野の頭を越えるような打球を打てたらと思います」

新バット対策 木製バットで打ち込み

去年秋に1試合平均で出場校最多となる10点近い得点をあげた関東第一高校(東京)は原点に立ち返って練習を重ねてきました。

選手たちが練習で使っているのは、木製バットです。

金属と比べて、芯が小さいため、正確にとらえる技術が身につくほか、力任せにならず、バットをしならせるように振る感覚が新たな基準のバットでも生かせると考えています。

キャプテンで4番を打つ高橋徹平選手はバットの芯が削れるほど徹底的に打ち込んできました。

関東第一 高橋徹平選手

関東第一 高橋徹平選手
「木製はしなりがないと打球が飛ばないので、しなりをきかせるための体の正しい使い方を身につけることができました。金属でも同じ打ち方をすれば、軽い力でも遠くに飛ばすことができます」

小技や機動力磨き得点力アップへ

さらに、この冬に磨きをかけてきたのが、小技や機動力です。

“飛ばない”バットになることで打つだけで得点をあげるのは難しくなり、攻撃の幅を広げる必要があると考えているからです。

実戦形式の練習ではワンアウト二塁の場面で、二塁ランナーがバッターのスイングと同時にスタートを切ったあとで打球を判断する走塁を確認していました。

関東第一 米澤貴光監督

関東第一 米澤貴光監督
「スクイズは僕も多くやるタイプではないですが、この冬はそういう作戦面の練習は増やしました。好投手との対戦になれば、ほとんど点が取れないんじゃないかという想像もできるので、どうしたら1点を取れるかというのを突き詰めていきたいです」

高校野球は変わるのか?

センバツでは、新たな基準の金属バットより使い慣れていて、飛距離が出るとして試合でも木製バットを使うことを検討しているチームもあります。

さらに、打球が飛ばなくなることで、野手がこれまでより前に守ったり、ピッチャーがストライクゾーンを積極的に攻めるなど配球が変わったりする可能性もあります。

“飛ばない”バットの導入で高校野球は変わるのか。

最初の全国大会となるセンバツに注目です。
(3月12日 ほっと関西 NW9で放送)