ラグビーW杯 アルゼンチン戦を前に 基本の「キ」【10月8日版】

ラグビーのワールドカップフランス大会は開幕からおよそ1か月が経ちました。ここまで1次リーグ2勝1敗の日本は、日本時間の8日夜に行われる、格上のアルゼンチンとの一戦に臨みます。1次リーグを突破するためには勝つしかない重要な一戦です。

上の写真の松田力也選手は今大会ここまでキックを16本蹴って15本成功。実に93%超の高い成功率となっていて、日本代表の大きな得点源となっています。

今回の基本情報では次戦の相手、アルゼンチンについてと、日本の1次リーグ突破のくわしい条件などについて改めて解説します。

=日本の1次リーグ突破条件は=(8日更新)

アルゼンチンについて紹介する前に、まず日本の「1次リーグ突破の条件」をおさらいしておきます。

日本とアルゼンチンが勝ち点9で並んでいて、勝ったほうが決勝トーナメントに進出します。日本が入っているプールD首位のイングランドは4戦全勝で1位通過での決勝トーナメント進出を決めています。サモアとチリはすでに敗退が決まっています。

★勝ち点はどう計算?

勝てば勝ち点「4」引き分けは勝ち点「2」負けの場合は「0」です。

ただしこれ以外にボーナスポイントが2つあります。負けた場合でも「7点差以内の負け」であれば勝ち点「1」が追加されます。また勝敗に関わらず、トライを4つ以上あげた場合にはさらに勝ち点「1」が追加されます。

1次リーグの最終戦で勝ち点が並んだ場合、勝ち点が同じチームどうしの対戦で勝利したチーム。それでも決まらない場合は、4試合の得失点差、さらに1次リーグの試合で、奪ったトライ数と奪われたトライ数の差などで順位を決めることになっています。

★プールD3位以内確定の日本は次回W杯の出場権獲得

日本は、1次リーグプールDの第4戦で4位のサモアが1位のイングランドに敗れたため3位以内が確定し、次回2027年オーストラリアで開催されるワールドカップの出場権を獲得しました。

ワールドカップを主催する国際統括団体の「ワールドラグビー」によりますと、今大会1次リーグの4つのグループで3位以内に入ったあわせて12チームに、2027年に開かれるオーストラリア大会の出場権が与えられるということです。日本は第1回大会から出場を続けていて、次のオーストラリア大会は11回目の出場となります。

=アルゼンチン代表編=

★ラグビーも強豪!アルゼンチン代表の特徴は?

アルゼンチン代表は世界ランキング9位で、12位の日本よりも格上です。ピューマを意味する「ロス・プーマス」の愛称で呼ばれ、ほとんどの選手がヨーロッパの強豪クラブでプレーしています。アルゼンチンといえばディエゴ・マラドーナさんやリオネル・メッシ選手などを輩出し、ワールドカップ優勝3回を誇るサッカー強豪国として知られていますが、ラグビーの実力もトップレベルです。第6回大会(2007年)では過去最高の3位、前々回の2015年もベスト4に入っています。世界屈指のフィジカルの強さを誇るフォワードと、正確なキックでグラウンドを広く使い、展開するラグビーを得意とします。

ちなみにブルーと白のファーストジャージの色は縦じまのサッカーに対しラグビーは横じまです。なお、日本戦では「紺色」のセカンドジャージを着用する予定です。

★日本との対戦成績は

W杯での対戦は99年の一度のみ

日本とアルゼンチンはワールドカップで過去に一度だけ対戦しています。第4回大会(1999年)での対戦ではアルゼンチンから1トライも奪えず、日本が12対33で敗れました。この前年のテストマッチで日本は44対29で勝利していますが、それ以外の対戦ではいずれも敗れています。2016年には秩父宮ラグビー場でジェイミー・ジョセフヘッドコーチの初陣となったテストマッチでも20対54で大敗しました。これまでの対戦成績は日本の1勝5敗となっています。

★ヘッドコーチは日本での指導経験も

前回大会はオーストラリア代表を指揮

チームを率いるマイケル・チェイカヘッドコーチは、前回と前々回の2大会連続でオーストラリアのヘッドコーチを務め、2015年大会ではチームを準優勝に導くなど名将として知られています。日本との関わりもあり、ラグビーリーグワンのNECグリーンロケッツ東葛でことし2月までおよそ2年間、チームの総監督である「ディレクター・オブ・ラグビー」を務めていました。去年行われた南半球4か国対抗戦ではニュージーランドを破り、ことし7月にはオーストラリアに競り勝つなど、チェイカヘッドコーチのもと世界トップレベルのチームに成長しています。

★注目選手はだれ?

日本でプレーしているマテーラ選手

注目選手の1人目はフランカーやナンバーエイトでプレーするパブロ・マテーラ選手(30)です。前回大会でキャプテンを務めました。ずば抜けた突破力と相手からボールを奪いに行くプレー「ジャッカル」が得意で、タックルされながらもボールをつなぐ「オフロードパス」の正確性が光る中心選手です。去年はラグビーの国際統括団体、ワールドラグビーが選ぶベストフィフティーンにも選ばれています。現在は日本のラグビーリーグワン、三重ホンダヒートに所属していて、日本のラグビーを知る存在です。

このほか、ウイングのエミリアーノ・ボッフェーリ選手(28)はキッカーも務めていて、50メートルを超えるロングキックも決めるキックの名手です。1メートル91センチの長身を生かし、ハイボールの処理も得意としています。また、フッカーとプロップのポジションでプレーするキャプテンのフリアン・モントーヤ選手(29)はセットプレーの要でチームの大黒柱です。驚異的な突破力でボールを持つと怖い存在でもあります。

★リザーブには8年前の大会得点王が

また日本戦でリザーブに入っているベテランのニコラス・サンチェス選手(34)は前のチリ戦で節目の100キャップを記録するとともに、20得点をあげてワールドカップ通算140得点としアルゼンチン代表のワールドカップにおける最多得点記録を更新しました。

サンチェス選手は、2010年に初キャップを獲得し、2011年から今大会まで4大会連続でワールドカップに出場していて、特に2015年にはチームをベスト4に導くとともに得点王に輝きました。

=日本が勝ったら次の相手は?編=(8日更新)

プールDではすでにイングランドが1位で決勝トーナメント進出を決めています。残る1枠をかけて日本はアルゼンチンと対戦しますが、仮に日本が1次リーグを突破した場合、日本時間10月15日(日)午前0時からプールCの1位通過が決まったウェールズと対戦することになっています。

日本は勝てばウェールズとの対戦

=大会ルール編=

★前の試合っていつだったっけ?試合間隔はなぜ長い

今回のラグビーワールドカップ。過去のワールドカップを知る人も知らない人も「なんとなく試合間隔が長いような気がする?」と思った方も多いのではないでしょうか。実は今回のフランス大会の日程は2021年、ラグビーの国際統括団体、ワールドラグビーがプレーヤーウエルフェア(=選手の健康や福祉)に考慮して各チーム最低でも「中5日」の休養日が設けられているのです。

日本代表を例に見てみると…。(いずれも現地時間)
《9月10日》チリ戦 ○42-12
   ↓中6日↓
《9月17日》イングランド戦 ●12-34
   ↓中10日↓
《9月28日》サモア戦 ○28-22
   ↓中9日↓
《10月8日》アルゼンチン戦 ?

実は前々回、2015年大会で「世紀の番狂わせ」や「ブライトンの奇跡」などと呼ばれた南アフリカ戦のあと、日本は「中3日」というタイトな日程で、この大会で初戦だったスコットランドと対戦しました。このような厳しいスケジュールを組まれることに対し、チームからは疑問の声もあがっていました。

大会初戦の相手に敗れた「中3日」の日本(2015年)

こうしたことから今回、ワールドラグビーは当初の予定より1次リーグの期間を1週間延長しました。この結果、前回は43日間だった大会期間が今大会は50日に延びました。また選手の負担を減らすため、登録メンバーは31人から33人に増えたほか、大会期間中の移動時間や移動回数も最小限に抑えられています。

=基礎編=

★そもそもラグビーって?

ラグビーは大きく分けて1チーム15人でプレーする「15人制」と、1チーム7人でプレーする「7人制」(通称セブンズ)の2つがあり、今回のワールドカップは「15人制」で行われます。

1チーム9人がプレーする野球は「ナイン」、11人のサッカーは「イレブン」ですが、15人で行われるラグビーは「フィフティーン」と呼びます。

ラグビーは相手チームの陣地に攻め込んで得点エリアに入ることで点数を競う競技であることから「陣取りゲーム」という言い方をされることがあります。

★フォワード(FW)とバックス(BK)って?

15人制ラグビーのポジションは大きく分けてフォワードとバックスの2つあります。背番号1番から8番がフォワード9番から15番がバックスです。

サッカーにもフォワードのポジションがありますが、サッカーとラグビーでは役割が違います。

スクラムはフォワードの8人どうしで押し合います

点を取ることを求められるのがサッカーのフォワードなら、ラグビーのフォワードはスクラムを組んだり、守備で体を張ったりといわば「縁の下の力持ち」にあたる役割が多いポジションです。スピードはバックスの選手に及ばなくても、その体の強さから密集の状態で相手ディフェンスに立ち向かい、トライを狙う場面もあります。

★5点、3点、2点、場合によっては7点も…得点のケースはいろいろ

《トライ=5点・コンバージョンキック=2点》
ラグビーには得点の方法がいくつかあり、「トライ」は5点です。トライは相手の陣地のインゴールの地面にボールをつけたときに認められ、トライが決まるとレフェリーはホイッスルを吹いて片腕を真上にあげます。

トライが決まると「コンバージョンキック(決まれば2点)」の機会が与えられます。「トライ」の語源はそのあとのキックに“挑戦”できるようになるため、その名がつけられたといわれています。

「コンバージョンキック」はトライをした位置の延長線上であれば、どこからでも蹴って良いとされています。このため時折、トライを狙って攻撃側の選手がボールを持ったままゴールラインに走り込んだ場合、すぐボールを置いてトライとせずに、よりゴールポストに近い位置に走り込もうとするシーンがみられます。これはキックの位置をなるべくゴールポストに近づけてキックの成功の可能性をより高くしようと考えての動きです。

幅5.6mの間を狙います

Hの形をしているゴールポストの真ん中にあるクロスバーの上を通るとコンバージョンゴールが決まったことになります。トライは「T」、コンバージョンキックは「G」とも表記されます。
《ペナルティーゴール=3点》
相手チームに重い反則があった場合に選択できるのが「ペナルティーゴール」です。
反則のあった地点かその後方の延長線上であればどこからでもキックができ、ゴールが決まると3点が与えられます。「PG」とも表記されます。

「ドロップゴール」はボールをワンバウンドさせてから

《ドロップゴール=3点》
プレーの最中にボールを地面にワンバウンドさせてから蹴ることで直接ゴールポストを狙うプレーはドロップキックといい、ドロップゴールが決まると3点が入ります。「DG」とも表記されます。
《ペナルティートライ=認定トライ=7点》
ペナルティートライは「認定トライ」とも呼ばれ、守備側に重い反則があり、その反則がなければトライになっていた、と審判が判断した場合に認められるもので、「コンバージョンキック」を蹴ることなく一挙7点が追加されます。

★ラグビーのグラウンドにはラインがたくさん

ラグビーのグラウンドはサッカーの国際試合のときのピッチと同じくらいの大きさです。

ハーフウェイラインの中央でキックオフが行われます。

長い辺のラインはタッチラインと呼ばれ、ここを越えると相手ボールになるなどプレーが切れます。

ゴールラインを越えてインゴールという位置にボールが置かれるとトライとなります。特徴的なのはゴールラインの真ん中にH型のゴールポストがあることです。

横棒のクロスバーの上、2本のポールの間をボールが通ると点が入ります。クロスバーの上であれば、ポールの長さよりどれだけ高い位置でも得点になるのです。

ゴールラインから22メートルの位置に平行に引かれた線が22メートルラインです。「22」という中途半端な数字なのは、25ヤードだったものをメートルに直した名残といわれています。(25ヤードは22.86メートル)

この22メートルラインは戦術的にとても大事なラインです。敵陣の22メートルラインを越えて攻め込むと相手に大きなプレッシャーを与えられる一方、自陣の22メートルラインを越えられると、ピンチの場面といえます。22メートルラインに注目して試合を見てみると、新たな発見があるかもしれません。

=試合・ルール編=

★試合の登録選手の数は?試合時間は?

ワールドカップでの登録人数は先発メンバーの15人に「リザーブ」と呼ばれる控え選手8人のあわせて23人が出場選手として登録されます。

ワールドカップの試合時間は前半40分、後半40分のあわせて80分です。ほかの競技とは違い、ロスタイムやアディショナルタイムと呼ばれる時間はありません。

「タイムキーパー制」が採用されていて、けが人が出たときなどにレフェリーの判断で時計を止めることができます。

前後半40分に達したことは「ホーン」を鳴らして知らせます。そしてホーンが鳴ったあとに、プレーが途切れてしまうと試合終了となります。勝っているチームが、ボールを持っていた場合、タッチラインの外にボールを蹴り出して試合が終わるケースが多くみられます。

逆に負けているチームがボールを保持し、1つのトライで試合が逆転が可能な5点差以内の接戦の場合や、7点差以内の負けであれば勝ち点「1」が追加される「ボーナスポイント」がかかる場面ではなんとかゲームを途切れさせずに攻めようとします。

逆に「ボーナスポイント」が確保できる点差で、これ以上の失点を避けたいと考えた場合は、負けている側がボールを蹴り出して試合を終わらせるケースもあります。

点差がひと桁のような接戦で試合が終盤を迎えた場合は「試合の終わらせ方」にも注目です。

★「アンセム」って?

ラグビーワールドカップでは国歌ではない「アンセム」を歌うチームがいくつかあります。それは国ではなく地域単位で出場しているチームがあるからです。

イギリスはイングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランドの4チームに分かれて出場しています。

このうちイングランドのみイギリス国歌を歌うのですが、スコットランドは「フラワー・オブ・スコットランド」、ウェールズは「ランド・オブ・マイ・ファーザーズ」、アイルランドは「アイルランズ・コール」というアンセムを歌います。

アイルランドは「アイルランズ・コール」

なおアイルランド代表は「アイルランド共和国」と「イギリスの北アイルランド」の選手で構成されています。

★ラグビーの「セットプレー」って何?

ラグビーの基本用語の1つに「セットプレー」があります。反則のあとやボールがタッチラインを出たあとなどに決まったルールにのっとって試合を再開させるプレーを指します。

「スクラム」「ラインアウト」などがセットプレーに該当します。

★「スクラム」はフォワードの“プライドのぶつかり合い”

ボールを前に落としてしまう「ノックオン」ボールを前に投げてしまう「スローフォワード」など、比較的に軽い反則によってプレーが中断した場合に試合を再開させるためのセットプレーが「スクラム」です。背番号1から8のフォワードが両チーム組み合って行います。

フォワードは体が大きく、パワーがある選手が多いため、スクラムで組み合ったときの攻防はラグビーの見どころの1つです。

スクラムを組むにあたってレフェリーは「クラウチ、バインド、セット」とかけ声をかけます。

(1)腰を落とし準備の体勢を取る「クラウチ(crouch)」
(2)最前列の1番と3番(プロップ)が相手選手に触れる「バインド(bind)」
(3)最後に、両チームの選手が組み合う「セット(set)」です。

スクラムを組むこのとき、ボールを投げ入れるのはバックス(BK)の背番号9番、スクラムハーフの役割ですが、ボールがスクラムの中に投入されたあと、密集の中で何が起きているか知っていますか?実はスクラムを押し合うことで、両チームが足でボールを奪い合っているのです。

このとき両チームの最前列の真ん中の2番の選手が「フッキング」と呼ばれる足の動きでボールをかき出す役割を担うため、2番のポジション名は「フッカー」と言います。そしてフッカーによって蹴り出されたボールをナンバーエイトやスクラムハーフが拾い上げてプレーを再開させます。

ボールを投げ入れるタイミングなどはボールを持ったスクラムハーフに委ねられるため、マイボールのチームが優勢とされます。

スクラムは自然と崩れた場合は組み直しになりますが、故意に崩したとレフェリーに判断された場合は「コラプシング」というペナルティーを取られます。コラプシングは重い反則なので、相手ボールのペナルティーキックになります。

コラプシングの判断はレフェリーにとっても難しく、押し負けているチーム側に崩れることが多いため「組み負けていない」という印象を与えておくことが重要です。

今大会に向けて日本は、コーチ陣が中心となって製作したおよそ3トンのオリジナルスクラムマシンを使うなどして、スクラムをさらに強化させてきました。

フォワードのプライドがぶつかり合うスクラムに注目してみてください。

★空中戦「ラインアウト」 なぜ選手を持ち上げるの?

ラインアウトもセットプレーの1つで、ボールがタッチラインを越えて外に出てしまったときに再開するために行うものです。サッカーの「スローイン」にあたります。

フォワードの8人のうち、ボールを投げる「スローワー」を除いた7人でラインアウトを行うことが多いですが、2人以上であれば何人でもよく、人数はマイボールのチームが決めていいことになっています。

反対にボールを持たないチームは、相手チームが決めた人数より多い人数でラインアウトに参加することはできません。

ボールを投げる「スローワー」は、2番のフッカーが務めることが主流になっています。スローワーが投げたボールをキャッチする「ジャンパー」は相手より高いほうが有利なので、チームの中でも背の高い4番、5番のロックが務めることが多くなっています。

ジャンパーがボールをキャッチできる確率を上げるため、ジャンパーを高い位置に持ち上げる「リフター」という役割もあります。リフターは力の強い1番、3番のプロップが主に務めます。

中継などでは聞こえないかもしれませんが、ラインアウトにはサインがあり、それをコールする人を「コーラー」と呼びます。ラインアウトは攻撃側は相手にボールを取られないためにサインを出し、守備側はボールを奪うために相手の動きを読むといった駆け引きが行われる場面でもあります。

また、ラインアウトを行わず、ボールを素早く投げ入れてプレーを続けることを「クイックスロー」と呼びます。クイックスローができるケースは限られていますが、セットプレーのラインアウトとは区別されます。

★大会初登場「50:22(フィフティー・トゥエンティトゥ)」って?

「50:22」これをフィフティー・トゥエンティトゥと読みます。2021年に適用になった新しいルールで、ワールドカップでは今大会が初登場です。日本は初戦のチリ戦で松島選手のキックにこのルールが適用されました。

50:22の「50」とは、50メートルライン、すなわち真ん中のハーフウェイラインを指しています。「22」とは、ゴールラインから22メートルの位置に平行に引かれた線、22メートルラインのことです。

自陣から蹴ったボールがバウンドして、相手陣内の22メートルラインより奥でタッチラインに出た場合、ボールが出た地点から“蹴った側”のラインアウトでプレーが再開されます。

これまでは蹴った側とは逆のチームのラインアウトで試合が再開されていたので、逆のボールになるルールに変更されたということです。

このルールが導入された理由は、攻撃のスペースを作り出すことで攻撃側に優位に試合が進むようにすることと、長いキックを蹴ることでボールを受ける選手が危険なタックルをされる可能性を下げるためとされています。

「50:22」の導入によって、長い距離のキックの精度が高いチームに有利になるほか、適用後にマイボールのラインアウトで攻撃が再開することから、ラインアウトの重要性がさらに高まったと言えそうです。

★左右のタッチラインを越える「タッチキック」にも種類が

50:22の理解が進んだところで、基本情報も振り返っておきましょう。

「ボールがタッチを割った」「いいキックになった」こういった実況を聞いたことはありますか?ラグビーはキックで陣地を回復するのが戦い方の1つです。その際、長い辺のタッチラインを「どこで越えたか」「タッチラインを越える前にバウンドしたか」という2点がとても重要になってくるのです。

(1) 22メートルラインより前で「ダイレクトタッチ」
22メートルラインより前(自陣側)から蹴り出した際、ボールがバウンドせず直接ボールがタッチラインを割ったケースです。これは「ダイレクトタッチ」と呼ばれ、蹴った位置に戻されて相手ボールのラインアウトとなるので、キックとしては失敗です。
(2) 22メートルラインより前で
22メートルラインより前(自陣側)から蹴り出した際、ボールがタッチラインを割る前にバウンドしてからラインを越えたケースです。この場合はタッチラインを越えた位置から相手ボールのラインアウトとなり、陣地を取ることができるので、良いキックと言えます。
(3) 22メートルラインより後ろから
22メートルラインより後ろ、22メートル区域もしくはインゴールの位置から蹴り出したケースです。この場合はバウンドの有無にかかわらず、タッチになった地点から相手ボールのラインアウトで再開です。
(例外) ペナルティーの場合
ただし、ペナルティーキックの場合は、蹴った位置もバウンドも関係なく、タッチになった地点から、キックを蹴ったほうのマイボールラインアウトで再開します。このため、ペナルティーをしないことが重要なのです。

★悪質な反則は10分間の退場「シンビン」または一発退場も

「ハイタックル」など悪質で危険なプレーや反則を繰り返す選手に対してレフェリーが命じるのが「シンビン」で、10分の間一時退場しないといけません。「シンビン」の語源は英語で「罪」を意味する「sin」「置き場所」を意味する「bin」を組み合わせた造語です。

シンビンを宣告するとき、レフェリーは「イエローカード」を出します。さらに同じ選手に2枚目のイエローカードが出た場合は退場となります。

シンビンが適用された選手は、フィールド外のハーフライン付近に置かれたイスに座り、10分が経過するのを待たなくてはならず、その間決められた場所から動くことやコーチとの接触は禁じられ、シンビンの選手がいる間は、代わりの選手が入ることはできないため、1人少ない状態で戦わなければなりません。

危険な反則には“即時退場”を意味する「レッドカード」が出されます。シンビンと同じく退場した選手に代わる選手を補充することはできないため、退場者が出たチームは人数を欠いた不利な状態で戦わなくてはなりません。

危険な反則の代表格は選手の肩より上にタックルする「ハイタックル」があげられますが、近年はプレー中の選手の安全性が重視され、厳しい判定になるケースが多くなっています。

★新システム「バンカー」でレッドカードになる場合も

TMOについては今大会から新たなシステムが追加されました。ファール・プレー・レビュー・オフィシャル、通称「バンカーシステム」と呼ばれるこの制度は、レフェリーがイエローカードを出したときに、このプレーに対してレッドカードにする必要があるかどうかの検証を行うものです。

画面左上にこの印がでたら“審議中”

レフェリーがTMOを経てもその場でレッドカードを出すべきか判断がつかないものの、イエローカードの基準を満たしていると判断した場合、レフェリーは「シンビン」を宣告して当該選手は10分間の一時退場となります。

バンカーシステムを使用する際、レフェリーは両腕を頭の上で交差させる動きをします。その後「バンカー」の担当者が8分以内に映像などを確認した上で判定を伝えます。

レフェリーはシンビンを継続して10分が経過したあと復帰させるか、レッドカードを与えて退場させるかを決定します。判定はすべてスタジアムに設置された大型スクリーンなどを通じて観客に伝えられます。これはレフェリーの正確な判断につながるとともに、試合中断時間を短縮することで試合の流れを止めないために役立つとされています。

★ショットクロック=キックには時間制限が

さらにもう1つ、試合のスピードアップを目的に導入されたルールが「ショットクロック」です。トライが決まったあとに行われる「コンバージョンキック(決まれば2点)」のときに「ショットクロック」の時間が表示されるようになりました。コンバージョンキックは規定で90秒以内にキックを行わなければいけなくなり、時間を超えるとキックが「無効」となって、得点は与えられません。

また、相手チームに重い反則があった場合に選択できる「ペナルティーゴール」でも「ショットクロック」が適用され、60秒以内に蹴らないといけません。ペナルティーゴールの場合は時間を超えると相手チームのスクラムで試合が再開します。

日本時間8日に行われたイングランド対サモアの試合では、イングランドのオーウェン・ファレル選手が後半25分のペナルティーゴールの際、「60秒」を超えたとして得点が認められませんでした。