生産性高め賃上げを持続 船の修理会社で“作業の見える化”がもたらした効果とは

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中小企業の賃上げが、ことしの春闘の大きな焦点となっています。生産性を高めることで持続的な賃上げを実現している会社が広島県尾道市にあります。生産性向上をどのように賃上げにつなげるのか。ヒントを探りました。

作業時間を計測し“見える化” 平均労働時間を削減

造船業が盛んな広島県尾道市。約200人の従業員が働く船の修理会社は、生産性を高めることでこの数年賃上げを続け、ことしも3%を超える賃上げを実現しました

修理する船の数は年間300隻あり、1隻ごとに大きさも種類も異なります。そのため作業にかかる時間を見通すことが難しく、実際の時間と大きく異なることが課題となっていました。

そこで取り組んだのが“作業の見える化”です。船の修理に必要な作業を1万に細分化し、スマートフォンで時間を計測しました

ひとつひとつの作業にかかる時間が分かったことで、船全体の修理にかかる正確な見通しが立つようになりました。

計画的に人員を配置することが可能になり、従業員の平均労働時間を1割ほど削減することができました

社員の1人は次のように話しました。

「休日出勤も減ってきたので非常に働きやすくなった」とも

年間仕事量を平準化する効果も

“作業の見える化”はさらなる効果を生み出しました。その1つが年間を通して仕事量を一定に保つ平準化ができたことです。

計画的な受注ができるようになったため、臨時の作業員を急きょ雇う必要がなくなりました。

見積もりの精度向上 適正な利益を確保

船主との契約も大きく変わりました。これまでは過去の経験から見積もり金額を出していましたが、労務費などが大幅に見積もりを超え、利益がほとんど出ないこともありました。

今では正確な見積もりのもと、はじめから価格交渉できるようになり、適正な利益を確保できるようになりました。こうして生み出した資金をもとに従業員の賃上げを実現したのです。

「働く幸福と経済的な豊かさによる幸福を両立」

賃金を上げ、働きやすい環境に改善することで、転職希望者の応募も増えています。転職してきた社員の1人は次のように話しました。

「頑張ってます」と笑顔を見せた

船の修理会社の久野智寛社長は次のように話しました。

船の修理会社 久野智寛 社長
みんなが生き生き働いて、そこからしっかり生産性が上がり、しっかり分配していく。働くことそのものによって得られる幸福と、経済的な豊かさから来る幸福、この2つがこの順番でしっかりと両立していることがとても大切だと思っている

中小企業の賃上げは発注元との価格交渉が課題とされています。見積もりの精度を上げることで利益を確保できるようになれば、持続的な賃上げに結びつく可能性があると見られます。そして生産性の向上が、賃上げだけでなく人手不足解消にもつながるかもしれません。
(広島局 福田諒)
【2024年4月17日放送】