のんさんから、あちこちの「すずさん」へ

のんさんから、「すずさん」へ(2020年8月12日 ネットワーク報道部)

俳優ののんさんです。
戦時中の日常を描いたアニメーション映画「この世界の片隅に」で主人公・すずの声を演じました。

NHKは戦時中でも毎日を懸命に生きた「すずさん」のような人たちのエピソードを全国から集めて紹介する「#あちこちのすずさん」キャンペーンを展開しています。

今月13日放送の番組「#あちこちのすずさん~教えてくださいあなたの戦争~」でアニメのナレーションを担当したのんさんに、戦争への思いを聞きました。

「すずさん」を演じて

2016年に公開されたアニメーション映画「この世界の片隅に」は、戦時中の広島や呉を舞台に、厳しい生活の中でも明るさを忘れない主人公・すずと、家族の日常を描いた物語です。

「すずさん」を演じるまで、戦争をどこか違う世界の話のように感じていたというのんさん。

映画に出てくる毎日のごはんやおしゃれ、ロマンチックな思い出などに共感し、戦争を身近に感じるようになっていったといいます。

のんさん
「戦争は授業で習ったり、映画やドラマで触れたりして、本当にあったことだと頭では分かっているんだけど、なんか違う世界の話のように思っていました。でも『すずさん』に触れて、共感できるエピソードがたくさんあって、どんどんリアルに感じていったというか、『自分たちと同じ人が生きていたこの日本で起きた現実だ。目を背けてはいけない』と考えられるようになりました」

記憶を共有している感覚

「#あちこちのすずさん」のキャンペーンに全国から寄せられたさまざまな体験談にも、心を揺さぶられたそうです。

のんさん
「当時の食事のこととか、今を生きる自分たちの中でも想像しやすい話だったので、その時代の中で生きていた方たちの鼓動をすごく感じ取ることができました。直接は会っていないのに全国の『すずさん』たちと出会った気持ちになって、記憶を共有している感覚がすごくありました」

「あまちゃん」から「すずさん」へ

のんさんは2013年、NHKの連続テレビ小説「あまちゃん」でヒロインを演じ、一躍注目を集めました。

東北、北三陸の小さな田舎町を舞台に、海女さんを目指すヒロインが挫折や奮闘の末、地元のアイドルとなるストーリーで、震災後も明るく生き抜く「あまちゃん」の姿は、被災地の多くの人たちを勇気づけました。

放送から7年たったいまも被災地の支援活動を続けているというのんさん。戦争も震災も次の世代に語り継いでいくためには、怖さや悲惨さだけではなく、そこで暮らしていた人たちがどんな生活を送っていたかを知り、自分のこととして受け止めてもらうことが大切なのではと考えています。

のんさん
「五感を刺激するような話と一緒に語っていけたら、自分の抱いた感情と一緒に戦争のことを捉えることができるんじゃないかなって思いますね」

今の時代と重なる部分も

今回の番組のナレーションで、のんさんがとても印象に残っているというエピソードがあります。

終戦直後の昭和20年秋、東京で行われた盆踊り。エピソードを教えてくれた女性は16歳で終戦を迎えました。
父親を戦争で亡くし、叔母夫婦の元で肩身の狭い生活を送っていたということです。

その日に食べるものにも苦労するなか、見知らぬおばさんに手を取られて踊った盆踊りの時間だけは現実を忘れることができたといいます。

のんさんがナレーションを担当した「終戦の年の盆踊り」より

エピソード中のセリフ
「明日からまた同じ日が続くことは分かっていても、いつかどこかに希望があることを信じていたいと、切に思っていました」

のんさん
「好きなことができなくて、恋をしたりとかもできない。日々をつないでいかなくてはならない。せっぱ詰まっている時に、踊ることに没頭できる時間が本当に救いになったんだろうなとジーンときました。ちょっとでも楽しく感じたりとか、笑顔になれたりとか、自分が明るい気持ちになれること、自由になれることが一度でも作れれば、明日が見えてくるというか、これからの希望になるんだなと」

「明日からまた同じ日が続くことは分かっていても、いつかどこかに希望があることを信じていたいと…」というセリフが、新型コロナウイルスによってこれまで当たり前と思っていた日常を失った、今の状況と重なってみえたそうです。

のんさん
「新型コロナウイルスで、たくさんの人がいまを精いっぱい生きていて、明日どうなるんだろう、この先どうなるんだろうというのが見えない中で日々過ごしていると思うんですけれど、このエピソードに触れて、苦しい中でも前を向いていける、自分もしっかり明るい気持ちを持って希望を持って生きていかなきゃならないという気持ちにすごくなりました。時代感も風景とかもいまとは全然違ったのかもしれないけれど、気持ちの部分では同じように感じましたね」

コロナで会えない夏 身近な「すずさん」の記憶をつなごう

終戦から75年のことしは、新型コロナウイルスの影響でふるさとへの帰省を控えている人や、戦争を体験した人の話を直接聞く機会がなくなってしまった人も多いと思います。

そのような時代だからこそ、のんさんは、若い世代の人たちが身近にいる「すずさん」の声を拾い集め、広げていくことが大切なのではと感じています。

のんさん
「自分の身の回りで戦争の体験を聞ける機会があまりない人がほとんどだと思うんですけれど、記憶が薄れていく中でそれを伝えていく、ずっと忘れないようにつないでいくというのは本当に大切なことだと思います。これからもあちこちの『すずさん』の記憶をつないでいきたいと思っていますし、これから参加したいと思ってくださる方も、ぜひ一歩踏み出してすてきなエピソードを寄せていただけたらうれしいです。私も一緒にシェアしていきたいと思います」