松本零士さんが<br>「戦場漫画」に託したこと

松本零士さんが
「戦場漫画」に託したこと(2018年8月3日 北九州局 廣瀬雄大アナウンサ-)

北九州市ゆかりの漫画家、松本零士さんは「銀河鉄道999」など数々の人気SF作品を生み出す一方で、半世紀にわたって戦争を題材にした漫画を書き続けています。そこに込めた思いとは。

目撃した戦争の悲惨さを漫画に

戦地から帰還した兵士の自殺を描いた漫画。

松本零士さんが終戦後に移り住んだ当時の小倉市、現在の北九州市小倉北区で、小学生のころに実際に目にした光景でした。

松本零士さん:
「帰ってきたけど家族が全滅していていないと、あくる日、学校に行こうとしたらここで、れき断死体になっているんです。気の毒だと思いましたね、本当につらいですよ」

戦場漫画描いて半世紀

松本さんは「戦場漫画」と呼ばれるシリーズを、半世紀以上描き続けてきました。1話完結の物語で、これまでに150話以上を発表しています。

戦場漫画で描かれるのは、戦争に翻弄され、未来を奪われた若者たち。夢を口にしながら散っていく姿に、松本さんの戦争への強い怒りが込められています。

パイロットの父から
聞いた戦場の実態

松本さんの漫画に大きな影響を与えたのが、父親の強さんです。陸軍のベテランパイロットで、若い兵士たちの教育係も務めていました。

フィリピンやタイなど南方戦線に赴任し、部下の大半を失うし烈な戦いを生き抜いて、なんとか帰還しました。

松本さんにとって、優しく自慢の存在だったという父親ですが、一度、こっぴどく叱られたことがありました。

松本零士さん:
「いつかまたアメリカをやっつけんといかんと言ったら、ばか、そんなことをいうから、戦争になるんじゃと、何人死んだと思うと、2度と戦争はやってはいかん、と言われましてね」

戦後、父の強さんが操縦かんを握ることはありませんでした。そこには、亡くした多くの部下への思いもあったと言います。

松本零士さん:
「(部下のお母さんに)あなたは生きて帰られて、なぜ、せがれを連れて帰ってくれなかったんですかって。父親が深々と頭を下げて、すまん、というのを何人も見ている。もう本当にね、あれは子ども心にも切なかったですね」

戦場漫画では、敵を撃つ場面がたびたび出てきます。こういったシーンを描くとき松本さんは、父親が語った、敵を撃つときの気持ちをいつも思い出すと言います。

松本零士さん:
「父親に聞いたんですよ。敵を追い詰めたときに撃とうとするんだけど、あいつにも死ねば悲しむ家族や子どもがいるだろうと、一瞬ためらうんです。だから相手を撃墜するときに鬼にならなきゃいけない、悪魔にならなきゃいけないわけです」

「『相手の家族』と聞いたときには、がーんときましたね。それは、お互い様でね、つらい。戦争というのは、つらい出来事なんだということに、気がついた。少年ながらね。だから描くものが、ついそういう雰囲気をもっているのは、そのせいなんです」

日米の未来ある若者が
亡くなった

戦場漫画で描かれた、戦場で仲間を失った日本兵。涙ながらにふと見ると、敵のアメリカ兵も仲間を失い、泣いています。戦争にかり出され、死んでいく若者たちの姿を、松本さんは日本人、アメリカ人、分け隔てなく描きました。

松本零士さん:
「世界中の戦死した、その当時の兵士たち、若者たちの中には、生きていれば本当はものすごい人類の文明に貢献した人がいっぱいいたはずなんですよ。それが、大勢死んでいるわけですよ。戦いの中でね。だから、そういうことを思うとつらいですよね。戦争というのは、未来を、自分の未来もつぶすわけです」

すべての作品に込めた
命への思い

「戦争の愚かさ」と「命の大切さ」。それは戦場漫画だけでなく、松本さんの数々のSF作品にも込められています。

父親から学んだ「命の大切さ」を若い世代に伝えることが、漫画家としての使命なのだと松本さんは話します。

松本零士さん:
「どんな命も、死ぬために生まれてくる命はない。生きるために命は生まれるんで、死ぬために生まれてくる命などはないと、それは父にはっきり言われたんです。争いあって殺し合わなきゃいけないのは悲劇です。だから私は、いま地球上で争っている場合じゃないと思っているんです」

松本さんは今後も、新たな「戦場漫画」を描きたいということで、SF的な要素を盛り込み、火星や金星など宇宙に舞台を広げて、戦争について考えてもらえるような漫画にしたいと話していました。