高尾山近くの国内最大規模の地下壕 学生達が3次元映像に

高尾山近くの国内最大規模の地下壕 学生達が3次元映像に(2022/11/11 首都圏局 映像制作 石井孝典)

東京都内有数の観光地、八王子市の高尾山。
その近くに、太平洋戦争末期に造られた国内最大規模の「浅川地下壕」があるのをご存じでしょうか。戦跡の保存や活用が課題となる中、ふだん、ロボットなどを研究する東京高専の学生たちが3次元映像にして伝えていこうという取り組みを始めています。

地元に残る地下壕を未来に

テレビゲームの一場面のような映像。
戦時中、東京郊外に造られた地下壕(ごう)の内部を再現した3次元映像です。

映像を作ったのは東京・八王子市にある東京高専の学生たち。
3次元映像にすることで地元に残る戦跡の価値を多くの人に知ってもらいたいと始めました。

太平洋戦争末期に造られた「浅川地下壕」。

空襲が激しくなる中で、ゼロ戦などを製造していた「中島飛行機」の地下工場として使われました。
高尾山の東に位置し、イ・ロ・ハと3つの地区がありました。
総延長は、およそ10キロと国内最大規模です。

地下壕の配置計画図 昭和20年7月13日訂製 縮尺1000分の1

八王子市がまとめた記録などによると、壕を掘る作業は朝鮮人労働者や学徒などによって行われました。

今も中には当時使われたトロッコの枕木や、掘削のためのダイナマイトを仕掛ける穴が残っています。終戦1か月前からは航空機エンジンの生産が始まりましたが、特有の高い湿度や劣悪な作業環境のもと、順調にはいかなかったとされます。

米国戦略爆撃調査団の報告書

戦後にまとめられたアメリカ戦略爆撃調査団の報告書に、この壕でのエンジンの製造についての記述が残されています。終戦までに製造されたエンジンの数は、わずか10基だったと記されていました。

動き出したのは東京高専生

戦争末期の状況が刻まれた壕をどう記録し、伝えていくか。

動き出したのは東京高専の学生たちでした。ふだんはロボットなどの研究を行っているといいます。
多くの人に地下壕を知ってもらう方法として始めたのは壕を3次元映像にして残すことでした。

地下壕の広さをどのように正確に計測するか。

目を付けたのは自動運転にも使われる技術でした。
車どうしが衝突しないように周囲との距離をレーザーで測るセンサー。
このセンサーを持ち込んで計測することにしました。

センサーを載せる台座を開発し、肩で担げるようにしました。
指導にあたった機械工学科の冨沢哲雄准教授は、最新技術を使った地下壕の計測の可能性を感じていました。

東京高専機械工学科 冨沢哲雄 准教授
「これまで浅川地下壕は平面図の記録しかなかった。3次元で測量することでその形状、体積などが正確に記録でき、後世に残すことができる」

ことし1月、現場で行われた計測に同行しました。
学生たちはセンサーを肩に担いで足場の悪い内部を3人一組で進みます。

大きさだけではなく、色もなるべく忠実に再現しようと、岩肌などの撮影も同時に行っていました。
機器のトラブルなどもありましたが、これまでに8回の計測を行い、総延長の10分の1にあたる、1キロ分のデータを集めることができました。

東京高専機械工学科 加納一龍さん
「計測した範囲は全体の1割弱で、壕の広さをものすごく実感しています」

成果を発表

10月15日 八王子市での講演会

ことし10月、学生たちは浅川地下壕の周辺の住民に3次元地図を公開しました。

3次元化した1キロ分です。格子状にトンネルがつながっています。

なかを見るとダイナマイトを仕掛けるための穴や、坑木が鮮明に写し出されます。

当時をイメージしやすいよう、工作機械がおかれた様子も再現しています。

80歳男性市民
「誰でも入れるものではないので、市民である以上、戦時中そういうのがあったことを知っておく必要がある」

18歳男性市民
「操作感がゲームと同じでわかりやすくてなじんだ方法で普段いけない場所にいけるのはおもしろかった」

3次元映像は長年、八王子市の戦跡を長年研究する地元の研究者からも高い評価を受けました。

八王子市の戦跡を研究する齊藤勉さん
「戦後長い時間がたち、経年変化で地下壕は劣化し、やがては崩落し、人々の関心は薄れていく。そうしたなかで、3次元で記録することで共通の遺産として残し、世界中の人が見られるような時代がやってきたと思います」

学生たちも調査を経て学んだものがあったと振り返ります。

東京高専機械工学科 羽野蒼一郎さん
「戦争を繰り返してはいけないというのはずっと小学生から教育としてあったと思いますけど、これだけの規模感のものを造らざるを得ない状況に置かれる背景は、今も考えられないくらいのもので、悲惨さが輪郭を得た感覚です」

東京高専では今回作った3次元映像を市内の学校での教育に活用してもらう予定だということです。