NEW2023年03月15日

29年ぶりの高水準か 春闘で問われる企業の姿勢とは

私たちの賃金は上がるのか。ことしの春闘では賃上げ率は1994年以来29年ぶりの高い水準となるという予測も出ています。きょうは最大のヤマ場の集中回答日。状況はどうなっているのか。経済部の甲木智和記者、教えて!

ことしの春闘、どんな状況になっているの?

 大手企業を中心に賃上げの勢いは例年以上だといえます。

労働組合からの要求通りの満額回答や異例ともいえる早期の決着が相次いでいます。

このうち、▽三菱重工業と▽IHIは49年ぶりの満額回答。

また、新型コロナの水際対策の緩和にともなって、旅行需要が急速に回復する中で▽日本航空と▽全日空はいずれも過去30年で最も高い水準のベースアップ、基本給の引き上げを決めました。

甲木記者
甲木記者

全体でみると賃上げの水準はどの程度になりそう?

厚生労働省が従業員100人以上の企業を対象にした調査では去年の賃上げ率は1.9%。

シンクタンク各社の中にはことしの賃上げ率は3%程度となり、1994年以来の高い水準になるという見方も出ています。

甲木記者
甲木記者

29年ぶりの水準という予測で賃金は上がりそうでよかったということなの?

たしかに例年を大きく上回る賃上げになりそうだといえます。

ただ、シンクタンク各社では当面は、物価の上昇に賃金の伸びが追いつかず実質賃金はマイナスの状況が続くと分析しています。

中小企業では原材料価格の高騰で経営は厳しく賃上げは難しいという声も多くどこまで賃上げの動きが広がるのかは不透明な状況です。

甲木記者
甲木記者

企業の経営が厳しいと賃上げに踏み切りにくいという気持ちもわかるような気がします。

ただ、賃金の水準が上がっていかなければ、国内外で人材が集まりにくい状況につながってしまいます。

日本は人口減少が進んでいます。

サービス業や介護など人手が必要な業界で十分な働き手が確保できなくなってしまうかもしれません。

また、新たな事業やサービスを生み出す優秀な人材にとって、日本で働くモチベーションが下がると海外に人材が流出してしまうことにもつながります。

賃上げは企業の人材獲得にも直結する話なんです。

甲木記者
甲木記者

企業は賃上げを「コスト」として捉えてきたというイメージがあるが?

たしかにこれまではそうだったかもしれません。

ただ、取材を通じてそうした企業側の姿勢は大きく変わろうとしていると感じます。

賃上げができなければ優秀な人材は集まってきませんし将来的に企業経営を続けることが困難になると考える企業が増えたと思います。

人手が確保できずに倒産する企業が増えるという指摘もあります。

物価の上昇が今後も続くとみられる中、企業には賃上げに向けた姿勢や努力が問われていると思います。

甲木記者
甲木記者

企業側も賃上げの捉え方を変えていく必要があるんですね。

原材料価格の高騰や円安の影響をどの程度受けているかなど、業界や業種、企業の規模によって賃上げの余力がどれだけあるのかは大きく違います。

それぞれの企業が抱える事情を踏まえて賃上げについて対応していくことが大原則にはなります。

それを踏まえたうえで、いま、社会が賃上げを通じて求めていることは何なのでしょうか。

取材を通じて重要だと感じるのは、これまでの日本経済を転換させ、好循環へのきっかけにできるかどうかです。

「経団連」も、労働組合の中央組織「連合」も、日本経済を前向きに「転換」させなければならないという意識を強く持っていると感じます。

この20年、30年を振り返ると、海外の先進国では日本と違い、物価とともに賃金が上がってきたといえます。

日本でもこのところ物価が大きく上がったのでそれをカバーするために賃金を引き上げることはもちろん重要です。

ただ、賃上げをことしだけの一過性のもので終わらせず、持続的なものにしていかなければ日本経済は大きく転換せず、社会からの要請に応えたとは言えないのかもしれません。

例年以上に注目される春闘。

その中での賃上げがどういう意味を持つのか。

私たち一人一人が考えていくことが、日本経済を変えるきっかけにつながるのかもしれません。

甲木記者
甲木記者