NEW2023年02月28日

日銀総裁候補 植田和男氏は何を語ったか

政府は、2月14日、日銀の黒田総裁の後任に元日銀審議委員で経済学者の植田和男氏を起用する案を国会に提示しました。黒田総裁のもとで10年にわたって続いた大規模な金融緩和。それでも賃金上昇を伴う2%の物価安定目標は実現できておらず、一方で副作用も指摘されています。こうした中、新体制の日銀がどのようなスタンスで金融政策の運営にあたるのか市場関係者から大きな関心が寄せられています。24日に衆議院、そして27日に参議院でそれぞれ行われた所信聴取と質疑で植田氏は何を語ったのか。主なポイントごとに振り返ります。

何と言っても注目されるのは黒田総裁のもとで続けられている大規模な金融緩和を継続するのかという点ですね。

今の大規模な金融緩和について植田氏は、適切な手法だと評価した上で緩和を継続する姿勢を示しました。

(植田氏の衆議院での発言)
「さまざまな副作用が生じているが、経済・物価情勢を踏まえると、2%の物価安定目標の実現にとって必要かつ適切な手法であると思う。これまで日銀が実施してきた金融緩和の成果をしっかりと継承し、積年の課題であった物価安定の達成というミッションの総仕上げを行う5年間としたい」

(植田氏の参議院での発言)
「わが国の経済や物価情勢の現状や先行きの見通しに基づけば、現在、日本銀行が行っている金融政策は適切であると考える。金融緩和を継続し、経済をしっかりと支えることで企業が賃上げをできるような経済環境を整える必要がある」

2%の物価目標、日銀はまだ達成できていないとしていますがこの目標はそのまま掲げる考えなのでしょうか。

植田氏は、2%の物価安定目標の実現を目指す今の日銀の路線を踏襲する考えを示しました。ただ、その実現にはなお時間がかかると述べました。

(植田氏の参議院での発言)
「共同声明に入っているような日本銀行が目標とするインフレ率が持続的・安定的な2%を達成するということを続けるという意味で(アベノミクスを)踏襲するということだ」

(植田氏の衆議院での発言)
「目標の2%を持続的に安定的に達成するためにはなお時間を要すると考えている」

消費者物価指数は上昇を続けていますがさらに上昇率は高まると見ているのでしょうか?

植田氏は、来年度・2023年度半ばにかけて上昇率は低下するという見方を示しました。これは日銀の今の見通しと同じです。

(植田氏の衆議院での発言)
「現在、わが国は、内外経済や金融市場をめぐる不確実性が極めて大きい状態だ。消費者物価の上昇率は2023年度半ばにかけて2%を下回る水準に低下していくと考えている」

2%の物価目標を盛り込んだ共同声明を見直すかどうかも注目されていますね。

植田氏は、2%の物価安定目標の早期実現を目指すとしている政府・日銀の共同声明について、当面見直す必要はないという考えを示しました。

(植田氏の衆議院での発言)
「2013年以降、政府と日本銀行がそれに沿って必要な政策を実施し、我が国経済は着実に改善し、その中で賃金も上昇、物価も持続的に下落するという意味でのデフレではなくなってきている。こういう意味で、政府と日本銀行の政策連携が着実に成果をあげてきたものと見ている。従ってただちに見直すという必要があるというふうには今のところ考えていない」

短期金利と長期金利に操作目標を設けて金融緩和を行う今の枠組み「イールドカーブコントロール」を修正する可能性はあるのでしょうか。

イールドカーブコントロールについて、植田氏はその効果を見た上で今後、修正の可能性もあるという考えを示唆しました。

(植田氏の衆議院での発言)
「日銀は去年12月以降、副作用をなるべく緩和する意図のもと、さまざまな措置を採用し、現在はその効果を見守っている段階だと私は考えている。具体的なオプションの是非について申し上げることは、現時点では控えたいが、時間をかけて議論を重ね、望ましい姿を決めていきたい」

日銀が、大規模な金融緩和で大量に購入したETF=上場投資信託を抱えていることにリスクがあると指摘されていますね。植田氏の受け止めはどうですか。

ETF=上場投資信託をどう扱うかという問題について植田氏は、大きな問題だとしながらも現時点で具体的な対応を示すのは時期尚早だという考えを示しました。

(植田氏の衆議院での発言)
「大量に買ったものを今後どうしていくかは大きな問題で、出口が近づいてくる場合には、具体的に考えないといけない。ただ現在は具体的に言及するのはまだ時期尚早と考えている」

金融緩和を縮小する出口戦略の時期や手法について具体的な発言はありましたか?

植田氏は出口戦略について問われたのに対して、具体的なタイミングや方法についての言及は避けましたが「考えていないわけではない」とも発言しています。

(植田氏の衆議院での発言)
「基調的なインフレ率が2%に達することが見込まれる状態になったときには、現在採用しているさまざまな強い金融緩和の措置を平時の姿に戻していくということになる。それが具体的に何を意味するか、どういうタイミングで、どういう順序で正常化していくかという点については現時点では具体的にお答えするのを差し控えさせていただきたい」

(植田氏の参議院での発言)
「さまざまな側面をもつ現在の緩和政策について、それぞれをどのように出口に向けて修正していくか、どの手段をどういうふうに先行させるのかという具体論は考えていないわけではないが、今後の経済や物価情勢の変化に応じて最適で望ましいやり方は変わっていくものと思う」

日銀の金融政策の打ち出し方について、「サプライズをねらっている」「市場との対話が課題だ」という声を聞いたことがありますがこれについて植田氏はどう考えているのでしょうか。

植田氏は、金融市場との対話は極めて重要だとした上で市場にとっての“サプライズ”は最小限に抑えたいという考えを示しました。

(植田氏の衆議院での発言)
「市場との対話は極めて大事だと考えている。経済、金融情勢に関する中央銀行の見方あるいは政策運営について分かりやすく情報発信をしていくということが極めて重要であると考えている」

「時と場合によってはサプライズ的になることも避けられない面がある。ただその場合でも考え方を平時から平易に説明しておくことでそうしたサプライズは最小限に食い止めることが可能だと思う」

日銀が大規模緩和で大量に国債を買ったことで財政規律が緩んでいるという指摘も出ていますね。これについてはどういう認識なのでしょうか?

国会の質疑の中で、政府の財政政策に関する質問が相次ぎましたが、植田氏は、みずからは、日銀総裁の候補として、質疑に応じているとして財政政策に対する言及は避けました。

(植田氏の参議院での発言)
「財政政策は政府と国会がお決めになる権限と責任を持っていることなので具体的な評価は差し控えさせていただきたい」

ただ、植田氏は財政の健全化は重要だという考えも示しています。

(植田氏の参議院での発言)
「共同声明に政府サイドで中長期の財政運営に対する市場の信認が得られるような財政構造を確立するよう努力するという記述があるが、この点は重要であると考えている」

「民間の格付け会社の(日本国債の格付けの)判断についてコメントすることは差し控えたいと思う。一般論として申し上げれば、やはり財政運営に対する信認がしっかりと確保されることが重要だと考えている」

国会の所信聴取や質疑で印象的な発言、これ以外に何かありましたか?

なぜ日銀総裁を引き受ける決断をしたのかという質問に対し、チャレンジングな課題に挑んでみたいからだと答えたところは印象に残りました。

(植田氏の参議院での発言)
「誰がやっても難しい厳しい状況だ。それがかえって私にとっては非常にチャレンジングな仕事であると思い、過去の日銀の政策担当の経験、学者での経験を生かして、そのチャレンジングな課題に挑んでみたいという1点だ」

もう1つ、「魔法のような金融政策を考えて実行することが使命ではない」という発言もありました。経済や物価のデータを見極めながら、慎重に政策を判断したいという学者出身の植田氏らしい手堅い姿勢が表れていると感じました。

(植田氏の衆議院での発言)
「私に課せられる使命は魔法のような特別な金融緩和政策を考えて実行するということではない。判断を経済の動きに応じて誤らずにやることが私に課せられる最大の使命だと思う」

植田氏の人事案は今の副総裁の任期が満了となる3月19日までに本会議で賛否について採決される見通しで、衆参ともに同意が得られれば任命されることになります。