NEW2023年02月27日

1円スマホ、何が問題?

スマートフォンが「1円」など極端に低い価格で販売されているのを見たことありませんか。こうした販売に待ったをかけようと、公正取引委員会は、携帯各社や販売店への監視を強化する方針です。でも待って。なぜ1円で売るのがいけないの?何か利用者に不利益なことがあるの?公正取引委員会を担当する中島記者、教えて!

確かにスマートフォンの安売りをよく見かけるけど、実際にどれくらい行われているの?

公正取引委員会が、携帯大手4社とその販売代理店など300社あまりを調査した結果、去年1月から半年間に、1000円以下で販売されたスマートフォンの台数は、全体の14.9%にのぼることがわかりました。

特に他社からの乗り換えでは、3分の1が1000円以下で販売されていました。

中島記者
中島記者

なぜそんなに安く販売できるの?

もちろん端末を1円で販売しても利益にはなりません。

各社がねらっているのは、新たな契約の獲得で入ってくる毎月の通信料金です。

それで利益を確保する仕組みになっているんです。

以前は、2年間契約を続ければ端末が実質無料という契約もありました。

端末の安さで利用者をひきつけ、長期間にわたって囲い込むのが狙いでした。

しかし、これが通信料金の高止まりの要因になっているとして、2019年に電気通信事業法が改正されました。

これによって通信契約と端末をセットで販売する場合、値引きの上限は税抜き2万円までと規制されたのです。

中島記者
中島記者

値引きの上限が2万円までとなったのに、なぜ今でも1円で販売できるの?

この規制にかからないように、携帯各社や販売店が値引きをしているからです。

例えば本来なら5万円する端末の場合、まず3万円近く値引きし、価格を2万1円に設定します。

その上で通信契約とセットなら、さらに2万円を割り引くという形で販売するケースが多いそうです。

この場合、最初の3万円近い値引きは、あくまで「各社の自助努力」とみなされるため、規制の対象外になるんです。

中島記者
中島記者

ふうん、でもなぜそこまで値引きして販売する必要があるの?

携帯大手各社は、通信契約を増やそうと、しれつな競争を繰り広げています。

ただ国内の人口は減少していて、市場が広がる余地はあまりありません。

そこで極端な値引きによって、他社の利用者を自社に引き込もうとしているわけです。

また、これとは別に販売店の思惑もあります。

販売店の収益の源泉は、携帯大手から支払われる奨励金や支援金などです。

この奨励金などは、新規に獲得した契約件数などで大きく変動します。

なかでも他社からの乗り換えによる契約が大きなウエイトを占めているため、極端な安売りの動きに歯止めがかからなくなっているんです。

ある販売店は、公正取引委員会の調査に対して、「携帯大手が設定した目標を達成するには、独自で極端な割り引きをせざるを得ない」と答えています。

中島記者
中島記者

厳しいノルマが販売店には課されているんだね。

なんとかならないものかな。

ノルマ自体が即座に問題ということではありません。

ただ厳しすぎるノルマが極端な安売りにつながっているとして、公正取引委員会は携帯大手に、販売店との協議の場を設けるよう促しています。

しかし、半数以上の販売店が「これまで協議が行われたことがない」と答えていて、なかなか進んでいないのが実態です。

中島記者
中島記者

なるほどね。

ただ1円でスマホが買えるなら、それはそれで利用者にとっていいことだと思うんだけど。

たしかにそう思うかもしれません。

ただ利用者にとって大きく2つの問題があります。

1つ目はSIMフリー端末や中古端末の市場が育たなくなるおそれがあることです。

どの会社でも使えるSIMフリーの端末は家電量販店などで販売しています。

また中古のスマホを販売する店もよく見かけますね。

しかしスマートフォンが1円で販売されれば、わざわざ高いお金を出してSIMフリー端末や中古端末を買おうとは思いませんよね。

そうなればこれらの市場が育たなくなり、ひいてはわれわれ利用者の選択肢が狭まることになりかねません。

そして2点目は、端末を安く売って、通信料金で赤字を補う状況が続けば、いつまでたっても通信料金が安くならず、むしろ引き上げにつながるおそれも出てくるということです。

今回、公正取引委員会は、こうした視点から極端なスマホの安売りが独占禁止法違反につながるおそれがあるとしています。

その上で、携帯大手各社や販売店への監視を強め、違反が認められた場合は厳しく対処するとしています。

今回の指摘を受けて、「1円スマホ」の販売や携帯の料金体系はどうなっていくのか、毎月払っているものだけに、注意深く見守っていく必要があると思います。

中島記者
中島記者