NEW2022年12月16日

クリスマス商戦で利用拡大? BNPL・後払いサービスの落とし穴

クリスマスツリーにきらびやかなイルミネーション。もうすぐクリスマス。アメリカでは年末商戦真っ盛り、小売業界の年間の売り上げの30%から40%を占めるとも言われるかき入れ時です。インフレが続くなかで利用が増えているとみられているのがBNPL=Buy Now Pay Later(バイ・ナウ・ペイ・レイター)です。「今買って後から支払う」という後払いサービスですが、見えにくい思わぬ落とし穴があるのではないかとの指摘が出ています。いったいどういうことなのか、ロサンゼルス支局の山田奈々記者が解説します。

アメリカでは11月下旬のブラックフライデーから年末商戦が始まっているんですよね

消費者はどれくらいお買い物しているのでしょうか。

サンクスギビング、感謝祭翌日の金曜日はどの店も黒字になることに由来するブラックフライデー。

全米小売業協会のまとめでは、ブラックフライデーの11月25日に店舗で買い物をした人の数が7290万人にのぼり、去年を640万人上回ったほか、買い物に使った金額は24日から28日までの5日間の平均で325ドル余り、去年の301ドル余りを上回っています。

この好調さの要因の1つに、あるサービスの利用拡大があるのではと言われているんです。

山田記者
山田記者

どんなサービスなんですか?

それがBNPL=Buy Now Pay Later(バイ・ナウ・ペイ・レイター)というサービスです。

アメリカなど欧米で普及している、買うのは今だけれど支払いは後からでいいいよ、という後払いサービスの総称です。

いろんな会社が展開していて店舗やインターネット通販で買い物をすると、通常のクレジットカード決済と並んで、このバイ・ナウ・ペイ・レイターの支払いオプションも提示されるんです。

山田記者
山田記者

どんな仕組みなんですか。

買い物客は、まず、スマートフォンにアプリをダウンロード。氏名や電子メール、電話番号、住所などの情報を入力します。

買い物をする前に、有効なクレジットカードかデビットカードの情報も入力。各会社が、独自のアルゴリズムを使って、簡単な審査を行います。

10分もあれば、利用者登録と購入まで済ませることが可能です。

バイ・ナウ・ペイ・レイターのサービスを提供している会社は、クレジットカード会社と同じように、加盟店からの手数料を主な収入源としています。

決済手続きが行われるごとに、購入金額の2%から8%程度の手数料を加盟店に課しています。

また、支払いが遅れた場合の延滞料金も収入源の1つになります。

山田記者
山田記者

実際にどのように使うのか気になります。

利用者の1人、フロリダに住むリゼット・モンソンさんに話を聞いてきました。

モンソンさんは化粧品のネット通販サイトをよく使います。

購入したい商品をカートに入れて、決済に進むと、このようにバイ・ナウ・ペイ・レイターの支払いを選ぶことが可能です。

すると、購入金額は300ドルを超えていたのに、支払いが自動的に4回に分割されます。

購入時に77ドル程度を支払ったあとは2週間に1回のペースで77ドルずつを支払う形です。

無利子のため、単純に、購入した金額を4で割っただけです。

山田記者
山田記者

4分割して無利子なんて、ちょっと話がうますぎる気がします。

そこなんです。

やはり、無利子で分割払いが簡単にできるとなるとついつい使いすぎてしまう消費者が多いようです。

折しもアメリカでは記録的なインフレの嵐。モノの値段が全体的に高くなり、これまで買えていたものも買いづらくなっている状況です。

アイルランドの調査会社「リサーチアンドマーケッツ」はアメリカでのバイ・ナウ・ペイ・レイターの2022年の支払い額は前の年より48.6%増えて1268億ドル余り、17兆円を超えるとの予測をまとめています。

インフレで利用が増える一方、気になるのが支払いの延滞です。

アメリカの消費者金融保護局がことし9月にまとめた報告書では、利用者のうち、少なくとも1回、支払いの延滞料を支払った人は、2020年の7.9%から、2021年には10.5%に増加しているとのこと。

2022年の統計はまだ出ていませんが、専門家のあいだでは増加するのではないかと懸念の声があがっています。

この分野の研究をしているワシントン大学のエド・デハーン准教授は、20代を中心に若い人の間で返済が滞るなどの問題が深刻化しているとしたうえで、年末商戦でプレゼントの購入などで出費がかさむ今、債務が増加する個人が増えるのではないかと指摘していました。

山田記者
山田記者

正しく使えれば便利なサービスも、使い方を間違えると問題が生じてしまうわけですよね。

そうなんです。私が取材したモンソンさんは利用したことを後悔しているというのです。

ある女優が履いていた700ドル近くするブーツに一目ぼれしてしまいました。

一括ではとても支払えないと感じたそうですが、通販サイトでバイ・ナウ・ペイ・レイターのボタンをクリック。

どんな仕組みなのか、よく知らなかったそうなんですが、これは便利だと購入しているうちに次第に感覚がまひしていき、気づいた時には、後払いしなければいけない返済金額が膨れ上がっていたといいます。

山田記者
山田記者

安全に利用するためには何が大切になるのでしょうか。

デハーン准教授は規制作りを早急に進める必要性を指摘しています。

バイ・ナウ・ペイレイターは揺らん期の新しいサービスであるため、まだルールが確立されていないというんです。

クレジットカードのように、厳しい信用審査がないため、カードを作れない人などが利用しやすいという点や、身に覚えのない請求が来たり、請求額の誤りがあったりと、さまざまなトラブルが発生した際の消費者保護のルールが明確になっていない点も課題だとしています。

また、デハーン准教授は、金融教育も大切だとも話していました。

アメリカではいま、若者に人気のSNS、TikTokを学びの場にしようという動きが加速しています。

たとえば、若者にもわかりやすく、クレジットカードの正しい使い方や、お金の上手なため方などを伝えようとする元トレーダーの女性ティックトッカーには、すでに220万人のフォロワーがいます。

若者が集まるSNS上で金融リテラシーを学ぶための有益な情報を発信しようというのはよいアイデアだなと思いました。

(※1ドル=136円で計算)。

山田記者
山田記者