脱炭素社会は実現できるか 私たちの生活に影響は?
政府は脱炭素社会の実現やエネルギーの安定供給に向けた今後の基本方針をとりまとめました。原子力発電の最大限の活用や、企業などが二酸化炭素の排出量に応じてコストを負担する「カーボンプライシング」の導入などが柱となっています。なぜいまこうした方針をとりまとめたのか、私たちの生活にどんな影響があるのか、経済産業省担当の中島圭介記者、教えて!
脱炭素化って最近よく聞きますが、二酸化炭素を出さないようにすることですよね。なぜいま方針を決めなければいけなかったのですか?
政府は2050年に温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするという目標を掲げています。今回の方針は、この目標達成に向けた具体的な道筋と位置づけることができます。
背景には、国際的に気候変動問題への関心が高まっていることがあります。
EU=ヨーロッパ連合は、脱炭素の取り組みが不十分な国からの輸入品などに対して、事実上の関税を課す措置を導入する方針を示しています。脱炭素に取り組まない企業は、今後、海外市場から締め出され、事業ができなくなるかもしれない、そんな危機感があるんです。
このため、今こそ脱炭素に向けた大胆な投資が必要だと、今回の方針がとりまとめられました。
大胆な投資ってどんな分野に投資するのですか?
政府は今後10年間で官民合わせて150兆円を超える投資が必要だとしています。
分野としては、二酸化炭素を排出せず、次世代のエネルギーとして注目される水素やアンモニアの技術開発、製造業の脱炭素化や省エネの推進など多岐にわたります。巨額の投資で脱炭素ビジネスを成長産業に押し上げ、経済成長につなげることを目指しています。
そのため政府としても、「GX経済移行債」という新たな国債を、10年間で20兆円程度発行し、民間の投資を後押しすることにしています。
すごい金額。企業は手厚い支援を受けられるんですね。
確かに手厚い支援ではありますが、ただ支援してもらうだけではなく、負担も求められています。
それが「カーボンプライシング」です。企業などが二酸化炭素の排出量に応じてコストを負担する仕組みのことを言います。
企業などが排出量を削減した分を市場で売買できる「排出量取引」と、化石燃料を輸入する電力会社や石油元売り会社などから、排出量に応じて「賦課金」を徴収する制度が柱です。
企業にとって、おいしい話だけではないんですね。
そうなんです。排出量取引が本格的に始まる2026年度以降、企業の負担は増えていく見通しです。
さらに2033年度からは、化石燃料の利用が多い電力会社に対して、排出枠を有償で割り当てることにしています。
当初は負担の水準を低くし、段階的に引き上げることで積極的に削減に取り組むよう促すねらいです。こうした企業から集めたお金を使って、先ほど説明した国債の返済に充てる計画です。
なるほど。そして今回の方針のもう1つの柱が、原子力発電の最大限の活用ですよね。なぜ今こうした方針を打ち出す必要があったのでしょうか?
ことしはロシアによるウクライナ侵攻があり、世界のエネルギー情勢が一変しました。
もともとエネルギー価格が高騰していたところに、サプライチェーンの混乱による供給不安の問題も出てきました。
日本は電力の7割を火力発電でまかなっていて、化石燃料に依存する構図が続いています。
このため政府としては、安全が確認された原発を最大限活用することで、化石燃料の使用を減らすとともに、エネルギーの安定供給をはかりたいと考えているんです。
最大限の活用とは具体的にはどういうことでしょうか?
原子力規制委員会の審査に合格した原発の再稼働を目指すことにしています。
さらに最長60年と定められている運転期間について、審査などで原発が停止していた期間を除外し、実質的に60年を超えて運転できるようにします。
また、これまで想定していないとしていた新しい原発の建設についても、廃炉となる原発の建て替えを念頭に、次世代炉の開発や建設を進めていくとしています。
この冬も節電要請が行われていますが、原発の再稼働が進むと、電力需給のひっ迫は解消するのでしょうか?
先ほども言ったとおり、まず原子力規制委員会の審査で安全性が認められたものしか再稼働できません。しかも実際に再稼働するには、地元自治体の理解も不可欠です。
政府の方針に理解を示す自治体もありますが、一方で「唐突だ」として不信感を抱いている自治体もあります。
これに対して政府は、前面に立って地元の理解を得るとしていて、西村経済産業大臣は今後、地元との対話集会などを開く考えです。実際に地元の理解を得られるか注目されます。
最後に今回の基本方針の決定で、私たちの生活に何か影響はあるのでしょうか?
カーボンプライシングの導入による影響があるかもしれません。企業への「賦課金」などの負担は、最終的に電気料金や製品価格に転嫁され、一般家庭の負担増につながる可能性が指摘されています。
こうした懸念に対して、政府は中長期的にエネルギーに関する負担が増えないようにするとしていますが、実際に国民や企業の負担を抑えながら、脱炭素化の取り組みを進められるか、しっかり見ていく必要があると思います。
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