「カーボンプライシング」ってなに?
政府が宣言した2050年までの脱炭素社会の実現。その手段の1つとして、「カーボンプライシング」の導入に向けた検討が本格化しています。企業や家庭に二酸化炭素の削減を促すための仕組みだということですが、いったいどんな制度なの?経済部の早川俊太郎記者、教えて!!
そもそも「カーボンプライシング」って何なのでしょうか?
早川記者
「カーボンプライシング」は、日本語では「炭素の価格付け」などと呼ばれます。二酸化炭素を排出した量に応じて、企業や家庭に金銭的なコストを負担してもらう仕組みです。
なんだか難しそう。
早川記者
代表的な制度をいくつか見てみましょう。
まずは、「炭素税」です。これは企業などに対し二酸化炭素の排出量に応じて課税します。二酸化炭素1トンにつき100円とか200円を税として取るわけです。二酸化炭素は実際には計測できないので、石炭・石油・天然ガスなどの消費量に応じて課税します。
また、「排出量取引制度」というものもあります。この制度では企業などが排出できる二酸化炭素の上限が決められます。上限を超える企業は、上限に達していない企業からお金を払って必要な分を買い取ります。
このほか、「炭素国境調整措置」と呼ばれる制度も検討されています。これは輸入品に対して、その製品が作られた際に出た二酸化炭素の量に応じて課税するもので、温暖化対策が十分でない国に対し、対策を促す効果が期待されます。
実際に導入されているの?
早川記者
「炭素税」は、1990年にフィンランドが世界で初めて導入し、その後、EUの加盟国の多くに広がりました。日本でも実質的な「炭素税」である「地球温暖化対策税」が2012年から導入されています。二酸化炭素の排出量1トン当たり289円を企業などに税として負担してもらうもので、最近では年間で2500億円程度の税収があります。
「排出量取引制度」も2005年にEUがいち早く導入し、日本でも東京都や埼玉県ですでに運用されています。電気やガスなどのエネルギーの使用量が原油換算で年間1500キロリットル以上の工場やビルなどを所有する企業が対象となります。事業所ごとに排出の上限が決められ、その上限を超えた場合は自治体が運営するサイトを通じて、上限まで余裕のある企業から必要な分を買い取る必要があります。
「炭素国境調整措置」は、EUが導入を計画しているほか、アメリカのバイデン政権も選挙公約に掲げています。
日本ではこうした制度が本格的な導入には至っていないということですか?
早川記者
そうですね。このため、環境省の有識者委員会で具体的な議論が始まったほか、経済産業省の研究会でも近く本格的な議論を始める予定で、それぞれ年内に一定の結論を出す方針です。ただ、2つの省庁が並行して検討を進めていることからも分かるように、それほど簡単に議論が進むとは限らないんです。
何が原因なのでしょうか。
早川記者
カーボンプライシングを本格的に導入することになれば、企業などには新たな負担となります。導入の効果を高めようとすればするほど負担も大きくなります。
このため、産業界を抱える経済産業省は、環境省に比べて、導入に慎重な姿勢だとされてきました。
今後は、経済産業省と環境省が連携するとされていますが、どこまで足並みをそろえられるのかは不透明です。
さらに本格導入するとなっても、制度設計は簡単ではありません。「炭素税」であれば、税率をどう設定するのか。「排出量取引制度」では、各企業に対する上限をどの程度にするのか。いずれにしても効果的で公平な制度にしなくてはなりません。
経団連の中西会長は、2月8日の記者会見で「導入に向けては、排出に対するペナルティの側面だけでなく、企業にとってインセンティブにもなるような仕掛けを決めていくことが大事だ。経団連としても現実的な案を検討し、提案したい」として、前向きに議論していく考えを改めて示しました。
一方、国内の中小企業が参加する日本商工会議所の三村会頭は、2月4日の記者会見で「温室効果ガスの排出量の実質ゼロは、カーボンプライシングのような制度で達成できるものではない。革新的な技術開発が数多くなされないかぎり実現できない」と述べ、導入に反対する考えを改めて示していて、経済界でも意見が分かれています。
カーボンプライシングが脱炭素に向けた有効な一手となるのか、今後の議論に注目したいですね。
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