NEW2020年12月25日

コロナで「居酒屋離れ」、どうなる?

飲食店にとって厳しい1年だった2020年。中でも「居酒屋」は、営業時間の短縮要請や、特に年末に忘年会を自粛する人が相次いだことで、大きな打撃を受けました。大人数で酒を飲みながら会話を楽しむ場を提供してくれる居酒屋ならではの魅力が、コロナ禍で「あだ」となっているのです。苦境の居酒屋は、2021年も生き残れるのか。それとも新しい形へと姿を変えていくのか。経済部の嶋井健太記者に聞いてみます。

都心の繁華街は、夜が更けるとひっそりとしていると感じます。居酒屋、いわゆる「飲み屋さん」の経営は厳しいようですね。

嶋井記者

そうですね。特に東京の都心は、在宅勤務が増えたことや宴会の自粛で大きな影響を受けています。自営でやっている小規模な店はもちろん大変ですが、大手チェーンもことしは閉店の発表が相次ぎました。

居酒屋の苦境はデータでも見えています。日本フードサービス協会がまとめた11月の主な外食チェーンの売り上げは、レストランやファストフードなどは一時期に比べると回復傾向にありますが、「居酒屋」は前年同月比でマイナス41.2%。店舗数もこの1年で13%以上減っていて、ほかの業態と比べて厳しい状況が続いています。

居酒屋の閉店が相次ぐことを象徴する、こんな動きも。大手回転ずしチェーンの「くら寿司」は、これまで手薄だった都心の出店を強化する計画を発表しました。その理由は、コロナの影響で都心の居酒屋が撤退して空き店舗が増え、「居抜き」の物件を手に入れやすくなったから。宴会需要に左右されにくい回転ずしチェーンが、居酒屋の跡地をねらっているのです。

こうした苦しい状況で居酒屋は生き残っていけるのでしょうか?

嶋井記者

集客の抜本的な解決策はなかなかありませんが、大手チェーンは、それぞれ工夫を打ち出しています。

コロワイドは、居酒屋「甘太郎」で、同じグループのイタリアンレストラン「ラ・パウザ」のメニューからパスタやピザなどをランチタイムに出しています。店内の壁紙も一部を洋風に変えるなどして、若い女性や家族連れなど、新しい顧客層を開拓しようとしています。

サッポロライオン(ビアホールのチェーン)は、もともと大皿料理だったコース料理を、取り分ける必要がない小皿に盛りつけるサービスを提供しているほか、首都圏の店舗では紙製のフェイスシールドを用意しているところもあります。

そのほか、客にタブレット端末を貸し出して居酒屋の一角や個室で「オンライン飲み会」に参加してもらおうというプランを出している居酒屋や、店員と客の接触を減らすため配膳ロボットを導入する居酒屋も。客に安心感を持ってもらうことで、来店増加につなげようという試みです。

「若者の居酒屋離れ」と言われて数年たちますが、業態としても「居酒屋離れ」が進んだ1年ともなりました。居酒屋チェーンのワタミは、10月、居酒屋120店舗を2022年3月までに焼き肉業態の店「焼肉の和民」に転換する大胆な計画を打ち出しました。

コロナ禍では、「酒を飲んで騒ぐ」イメージのある居酒屋が敬遠されがちな一方で、焼き肉や寿司といった、「料理を楽しむ」イメージのある業態のほうが、回復が早いとされていて、大手もこうした業態転換に注目しているのです。

居酒屋はこの先、どうなっていくのでしょうか?

嶋井記者

私が取材したある外食チェーンの幹部は、「人と会って酒を飲む居酒屋のニーズがなくなることはないだろうが、居酒屋の在り方は変わっていく」と話していました。

確かに、大勢で集まってビールジョッキを片手にワイワイと楽しむ…という宴会のニーズは、新型コロナが広がる前から減っていると指摘されてきました。「職場のつきあい」よりも家族との時間を大切にする人が増えてきていることが背景にあると思います。

感染拡大がこうした「居酒屋離れ」「宴会離れ」を後押しする形となったのかもしれません。

一方で、仲間で集まって酒を酌み交わしたり、大皿の料理をつつくのも、人々にとって楽しみであることも事実。店側と客の双方の間で「感染防止」が当たり前になり、2021年は、新しい形の居酒屋で忘年会が開かれるようになっているかも、しれません。