NEW2019年11月11日

「2着目1000円」はもう古い?

先週、大手紳士服チェーンの赤字のニュースが相次いで報道されました。「2着目1000円!」のような驚きの安さを掲げて郊外に大量出店してきた紳士服量販店。今、さまざまな理由で曲がり角に来ているようですが…。そういえば最近、ビジネスマンはどこでスーツを買っているのでしょう?スーツを着ない人が増えているのでしょうか。そして紳士服チェーンはどこへ向かおうとしているのか。アパレル業界担当の白石明大記者、教えてください!

スーツを着て会社に行く人って多いと思うんですけど、それでも紳士服チェーンの経営って厳しいんですか?

白石記者

決算上は厳しい数字が出ていますよ。大手4社が発表した決算からみてみます。

青山商事 1964年の創業以来初めて最終赤字転落の見通し
コナカ 通期の決算で2期連続の最終赤字(赤字額は前期の10倍以上の50億円超)
AOKIホールディングス 4~9月の中間決算で9億8800万円の赤字(通期は54億円の黒字見通し)
はるやまホールディングス 4~9月の中間決算で7億3400万円の赤字(通期は10億円の黒字見通し)

うーん、厳しい数字ですね。なにが起きているんですか?

白石記者

各社の決算にはそれぞれ個別の要因がありますが、業界として共通している課題は「職場のスーツ離れ」と「カジュアル衣料品チェーンとの競争激化」があります。

クールビズが2005年に導入されてから、職場の服装のカジュアル化が一気に進みました。当時はエコへの取り組みが主な目的だったのでクーラーの温度を28度に、ノーネクタイでもOK、程度のカジュアル化でした。

ところが最近は、ビジネスマンの意識も「カジュアルでもおしゃれに」というように変わってきていて、企業の側も、スーツの着用義務を廃止する職場が現れてきています。

ニュース画像
カジュアルスタイルで出勤する銀行員

特に「お堅い」印象だった金融機関でも脱スーツの動きが報道されていますよね。紳士服業界としては非常に危機感をもっています。

確かに、男性のファッションは以前のようにスーツばかりではなくなっていますね。それでカジュアル衣料品チェーンとも競合しているわけですね?

白石記者

マスコミで働く私もそうなんですが、特に外出が多い人、現場で動き回る人にとっては、仕事で着る服をすべて、紳士服チェーンやデパートの紳士服売り場でそろえる、という人は減ってきているのではないでしょうか。

手ごろな価格で、機能性も高いシャツを売り出しているカジュアル衣料品チェーンも出てきていますし、店側も職場の服装のカジュアル化をチャンスとみて販売に力を入れています。

なるほど。こうした課題に大手紳士服チェーンはどう立ち向かうのでしょう?

白石記者

私が決算会見で各社に話を聞いたところ、主に3つの分野に注力しています。それは「オーダーメード」「カジュアル化」「多角化」です。

「オーダーメード」
昨今、テクノロジーの発達により従来よりも簡単に身体計測ができ、「高い」というイメージのあるオーダースーツをより安く届けられるようになっています。

コナカは「DIFFERENCE(ディファレンス)」というブランドで、スマホアプリで撮影した画像をAIが採寸し、オーダーメードスーツを提供します。消費者が衣料品に関して自分にぴったりのサイズを求めるニーズがますます高まっていることに加えて、会社にとっても在庫をもたずにリピート客を取り込めるなどメリットが大きいとして今後の成長分野に位置づけています。

しかし、オーダーメードの分野にはAOKIやZOZOをはじめ、他社も数多く参入していて、激しい競争が予想されています。

「カジュアル化」

ニュース画像

AOKIが先月(10月)、ジャケットとパンツ(ズボン)を別々に選ぶ「セットアップスーツ」を発表しました。上下をビシッとそろえる「スーツ」ではなく、カジュアルのテイストがあるジャケットとパンツを組み合わせるスタイルです。

“脱スーツ”が企業で進む一方で、「職場にふさわしいカジュアルがどのようなものかわからない」という消費者のニーズを取り込む戦略で、銀座本店など旗艦店10店舗を対象に売り場を拡大していくとしています。

「多角化」
AOKIがカラオケやフィットネスクラブ、ウェディングなどの事業に参入して店舗を拡大し、来期には、こうした店舗が本業の「スーツのAOKI」の店舗数を超える勢いです。

また、コナカは女性向けのバッグなどを販売する「サマンサタバサジャパンリミテッド」と資本業務提携を結び、今後商品開発や物流でシナジーを生み出したいとしています。

ただ、例えば青山商事は、グループ会社が展開しているアメリカのカジュアルブランド「アメリカンイーグルアウトフィッターズ」の日本での事業をことし中に終了します。これに伴って69億円余りの損失を計上し、最終赤字見通しの大きな要因となりました。多角化の難しい側面でもあります。

いずれにしても、紳士服業界を取り巻く環境が非常に厳しい一方で、ビジネスパーソンにとっては、ファッションの選択肢が増えて、自分に合った服が手ごろに買える環境になってきていると思います。

こうした中で紳士服チェーンがどのような次の一手を考えるのか、注目したいと思います。