環境×マネーのTCFDって何?
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私はある商社の新入社員。最近、先輩が「TCFDの担当になった」と言っていました。実は銀行に勤める友人もそんなことを言っていたのでちょっと気になっていました。どうも環境とマネーに関係があるようなんですが…。8日に都内でTCFDサミットが開かれるとも聞きました。それを前に経済部の飯田香織デスク、教えて!TCFDっていったい何ですか?
TCFDってそもそも何の略ですか?
飯田デスク
Task force on Climate-related Financial Disclosures の頭文字を取ったもので、直訳すると「気候関連の財務情報開示のタスクフォース」ですね。将来の気候変動に対して企業がどういう取り組みをしているのか?という情報を投資家に開示しようというものです。
気候変動への対応はこれまで「企業の社会的責任」と言われていました。今では「ビジネスを進めるうえでリスク(あるいは機会)」にもなるとして、企業が投資や融資を受ける際に重要な情報となっているんです。
ざっくり言うと、「将来」起きる気候変動から逆算して、企業が今後も投資や融資を受けるには「いま」何が必要かという経営判断を求めているのがTCFDです。
ん…タスクフォースというからには組織なのでしょうか?
飯田デスク
そうです。金融の安定化を図るための国際的な組織(FSB=金融安定理事会)が2015年に設置した組織です。
民間主導で産業界の代表32人で構成されています。議長はニューヨーク市長だったブルームバーグ氏で、2017年には気候変動リスクの情報開示の在り方を提言した最終報告書をまとめました。
将来の気候変動を想定して企業がどう対応するかを今から考えなくてはならないということはわかりましたが、なんだか机上の空論のようでイメージができません。
飯田デスク
例えば、地球温暖化が進めば、会社の製品の材料として仕入れていた農産物がこれまでと同じように収穫できなくなる可能性がありますよね。そのリスクに会社はどう備えていますか、というようなことについて対応を検討するんです。
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具体的に、タスクフォースが提言の中で開示を推奨しているのは、
▽気候関連リスク・機会についての「組織のガバナンス」、つまり経営陣がどのくらい真剣に関与しているか
▽気候関連リスク・機会によるビジネス、経営戦略、財務戦略への「実際の影響」と「潜在的な影響」
▽気候関連リスクの識別、評価、そして管理の方法
▽気候関連リスク・機会を評価と管理する際の指標と目標
この4項目について、企業は有価証券報告書や環境報告書などの中で投資家に示してほしいとしています。それも過去のトレンドに基づくのではなく、将来起こりうる変化への対応力を重視して、「地球の気温上昇が産業革命前に比べて2度上昇して、それが続いた場合」などシナリオ分析の活用を求めています。
なぜ金融の安定化を図るための国際的な組織(FSB)がこういうテーマで動いているんですか?
飯田デスク
さまざまなリスクが、まわり回って金融の安定化を脅かすと考えているからです。8日のTCFDサミットにも出席するイギリスの中央銀行のカーニー総裁は、気候変動が3つのルートから金融システムの安定を損なうおそれがあると指摘しています。
![ニュース画像](/news/special/sakusakukeizai/articles/still/20191007/saku-20191007-01.jpg)
(1)物理的なリスク
洪水や暴風雨、干ばつによって工場の稼働やエネルギーの供給が止まってしまうリスクで、世界的なサプライチェーンの中断や資源の枯渇といった「間接的な影響」も含んでいます。
(2)低炭素経済への移行リスク
海面や気温の上昇といった、いま起きつつある物理的なリスクだけでなく、社会や経済が一気に「低炭素」に移行した場合、資産の価値がいきなり下がる場合に備えよ、というわけです。例えば政府が自動車の電動化を急速に進めてガソリン車を市場に投入できなかったら自動車メーカーには大きな打撃だし、スウェーデンの16歳の活動家グレタ・トゥーンベリさんのように、温室効果ガスを多く排出する飛行機を拒否する動きが若い人の間に広がれば航空産業に痛手ですよね。
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(3)賠償責任リスク
気候変動による損失を被った当事者が賠償責任を求めることで生じるリスクのことです。実際、米カリフォルニア州の電力会社が多くの死者を出した大規模な山火事との関連による訴訟に耐えられず、ことし破産を申請し、アメリカでは「地球温暖化の影響による初の破産申請」と言われました。訴訟などにより負債が3兆円を超えると会社は予想しています。
日本の企業の間でも、このTCFDへの対応が活発になっているんですか?
飯田デスク
経産省によりますと、9月26日時点で世界で855の企業や機関がTCFDに署名していて、このうち194は日本の企業や機関です。
実は、もっとも多いのが日本。来年の東京オリンピック・パラリンピックを前に温暖化に前向きに取り組む姿勢を示そうという会社が多いそうです。メガバンク3行を含めた金融機関のほか、三菱商事、日立製作所、丸井グループ、花王、トヨタ自動車などさまざまな業種の企業が対応しています。
マニアックな気もしますが、大きな潮流になりますか?
飯田デスク
8日のTCFDサミットには、大手石油会社のロイヤル・ダッチ・シェルのホリデー会長や米証券取引委員会のメアリー・シャピロ元委員長ら外国からの代表も含めて約300人が参加します。投資や融資をする側も受ける側も、気候変動に真剣に取り組まざるをえないのは大きな流れになりそうです。
最近、異常気象が広がっているな、と思うことが増えていますよね。それが企業活動やマネーの世界にも影響していることにぜひ注目してください。
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