NEW2019年06月21日

緩和競争って何だろう?

「緩和競争」って聞いたことありますか。世界のおもな中央銀行が、いっせいに金融政策を緩和する方向に舵(かじ)を切り、金利の引き下げなどを検討しています。それを「緩和競争」というのです。価格競争、開発競争、自由競争、国際競争、いろんな競争があるけれど、緩和の競争っていったい何でしょう。どうして競争するの? 誰か教えて…

それは私にお任せください。経済部・金融担当記者の甲木智和です。

緩和競争のこと、ざっくりわかりたいです。

日本でいう日銀のように、世界の中央銀行は、金融政策を引き締めたり、緩和したりして、それぞれの国の景気をちょうどよい状態にコントロールするのが仕事です。

アメリカと中国が貿易摩擦でいがみあい、世界の景気が減速しているんです。ですのでアメリカのFRB=連邦準備制度理事会が、これまでの政策を大転換して「金利を引き下げる」という姿勢を見せているんです。

世界一の大国アメリカが、そう動くならば、やるしかないでしょう、と、ヨーロッパやオーストラリアの中央銀行がわれもわれもと競い合うように追随し始めたんです。だから「緩和競争」というんですね。

でも競争までしなきゃいけないんですか?

金融緩和のおもな方法は金利の引き下げです。たとえばアメリカが金利を引き下げて、日本やヨーロッパが何もしない場合を考えてください。

金利が下がるアメリカのドルは売られやすくなります。その分、相対的に円やユーロが買われやすくなります。つまりドル安、円高、ユーロ高に向かうんです。そうしたら、どうなると思いますか?

輸出に影響がでる…かな。

そうです。景気が振るわず、国内でモノが売れないときには、輸出を増やしたいですよね。そういう時に円高やユーロ高になってしまっては困りますよね。だから「アメリカが動くなら、やるしかない」ということになるんです。

じゃあ、日本も後を追う?

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日銀の黒田総裁は、6月20日の記者会見でも、景気や物価に異変が起きた場合には「ちゅうちょなく緩和する」と言っています。いざとなったら「やる」という姿勢を明確にしています。でも、悩ましいのは、できることはあんまりない、ということ。

日銀は、アメリカなどとは違い、6年も前からずーっと大規模な金融緩和を続けているので、さらに緩和しようにも残されているカードが少ないという実情があるんです。

では競争に乗りようがないですね…。

いや。そうも言っていられないと思います。リーマンショックが起きた2008年のあと、アメリカは不況を食い止めるために猛烈な金融緩和を行いました。

その時、日本の対応が少し遅れた結果、急速な円高が進みました。東日本大震災のあとには、投機的な円買いなどが重なって1ドル=75円台まで急騰し、日本の輸出企業は打撃を受けました。同じような事態は繰り返したくはないでしょう。

アメリカは本当に金利を下げるんですか。

アメリカの経済は好調だけど、FRBが気にしているのが米中貿易戦争。6月下旬のG20大阪サミットに合わせてトランプ大統領と習近平国家主席が会談する予定です。会談が不調に終わって対立がさらに激しくなるようならば、7月下旬に予定されるFRBの会議で、利下げが決まるかもしれません。

しかも、FRBとほぼ同じタイミングで日銀も金融政策を決める会合を開きます。「緩和競争」にどう向き合うか、かなり難しい判断を迫られるかもしれないです。