2020年06月04日
(聞き手:工藤菜摘 伊藤七海)
日本を代表する観光地・箱根が今、深刻な事態に陥っています。新型コロナウイルスの感染拡大により、観光客は激減。予定されていた人気アニメ「エヴァンゲリオン」とのコラボイベントも次々と中止になりました。イベントを担当した、小田急箱根ホールディングスの磯崎貴大さんが、今伝えたいこととは・・・。(2月に現地で取材。その後、追加取材しました)
2月中旬。大学生リポーターが向かったのは、箱根ロープウェイの桃源台駅です。箱根は、エヴァンゲリオンの舞台「第3新東京市」のモデルとなった場所。駅名には第3新東京市と書き添えられていました。
駅の中には、アニメに登場する「特務機関NERV」の本部をイメージしたスペースも設けられています。
学生
伊藤
結構、本格的ですよね。
当初は、もっと派手なイメージで行こうと思っていたのですが、箱根は温泉地だし雄大な自然の中でゆったりしていただきたいというのもあって、周りの景観にあわせて落ち着いたデザインにしました。
磯崎さん
エヴァンゲリオン
1995年のTVシリーズの放送から始まった、世界的に人気の高いアニメ作品。人型決戦兵器「エヴァンゲリオン」のパイロットとなった少年少女と、次々に襲来する謎の敵「使徒」との戦いを描き、社会現象となった。2007年から映画の新シリーズがスタートし、2020年6月に最新作が公開予定だったが、新型コロナウイルスの影響で延期に。
箱根の広い地域でイベントやるのは大変じゃなかったですか?
やっぱり箱根を周遊してもらいたいんです。いろんなスポットや施設を巡ってもらいたいという思いがあるのでスタンプラリーを仕掛けたりとか、ラッピングバスを走らせたりとか。
とにかくいろんな所にエヴァンゲリオンがいて、箱根が本当にエヴァンゲリオンの世界とマッチしている状況を作りたかったので、大変なところもありましたが形になってよかったです。
どうしてエヴァのイベントをやろうと思ったんですか?
箱根にとってエヴァンゲリオンは別格ですよ。地元の人にアニメって聞くと、みんなエヴァと答えるイメージです。だから、なんとか盛り上げようと思ったんです。
2019年は箱根の観光にとって、いろいろと大変なことが起きました。
5月に箱根山の噴火警戒レベルが2に引き上げられて箱根ロープウェイがストップしてしまったりとか。
10月に噴火警戒レベルが下がったら、今度は台風19号の影響で箱根登山鉄道が甚大な被害を受けたりとか。
私もニュースで見ました。
そうですよね。メディアの箱根の取り上げ方も、かわいそうな被災地みたいな立ち位置になってしまったんです。
学生
工藤
台風19号の被害が出た時は大変だったんじゃないですか?
そうですね。登山鉄道がストップしちゃって、輸送をどうするんだということをすぐに考えなくちゃいけなくて。
当時は、落ち込んでいる暇もなくて、もうやるしかないっていう感じでしたね。
逃げちゃダメだ!と。
そう。最初はバタバタしましたけれど、周遊ルートの確保に努めました。
やっぱり身にしみて感じるのは、自然災害に対して、今後何が起きるか分からない状況になってきているということですね。
そうなった場合にどうしなきゃいけないのかというのを身にしみて感じたというか、心構えができた感じですかね。
2月に取材を終えた後、新型コロナウイルスをとりまく状況は一変。政府は緊急事態宣言を出し、不要不急の外出自粛を要請。小田原市と箱根町も4月23日に合同で会見を開き、「今、箱根への観光はお控えください」という異例のメッセージを発信する事態となった。
事務局
その後緊急事態宣言がでましたが、観光客の状況はいかがですか?
緊急事態宣後は、箱根には観光客はほとんどいない状態でした。ゴールデンウィークも通常ではありえないような閑散とした状態で、道路も全く渋滞していませんでした。
「観光はお控えください」というメッセージもありましたしね。
コロナの感染拡大を少しでも早く食い止めて、箱根に早くお客さんに戻ってきてもらうための判断は、そのとおりだと思います。厳しい状況の中ですが、仕方がなかったと思います。
今回のエヴァンゲリオンのイベントも一部中止になりましたが、準備したことが形にならないというのは、つらくないですか?
エヴァンゲリオンの世界でも、大災害「セカンドインパクト」が起きましたが、まさに現実世界も予想していない未曽有な事態になっています。
今回のイベントで一番力を入れていたのが、エヴァンゲリオンの主題歌を歌う高橋洋子さんの芦ノ湖でのライブでした。
海賊船をステージに花火や光を使った演出を行う予定でしたが、中止せざるをえませんでした。
湖上にエヴァンゲリオンのキャラクターが浮かび上がる今までにないすごいものができる予感があったので、担当者として悔しい思いはあります。
でも、コロナに対する姿勢を示す、社会全体で対抗していかねばならないので・・・。
これまで準備してきた経験は無駄にはならないので、またどこかで役立てたいと思います。
観光の自粛が続く中で、今はどのようなことに取り組んでいるんですか。
コロナが終息した後に、観光客を迎え入れるための準備を進めています。
主要な駅にデジタルサイネージを設置して、混雑状況や運休情報などを分かりやすく表示できるようにしたりとか。
夏、そして秋に再び観光が盛り上がるよう、アイデアを出し合っています。
小田急に就職しようと思ったのはどうしてですか?
子どもの頃から電車が好きで、小田急線かっこいいなとずっと思っていてそのまま来ちゃった感じですかね(笑)
あと、地元が小田原なんですけど、地元が好きだったんです。居心地がよくて、地元を離れたくなかったので、地元に貢献できるような仕事ができたらいいなと思っていました。
地元のどんなところが好きですか?
まずはこの自然ですね。それにいい仲間もたくさんいるので、就職先は小田原とか箱根エリアで探していました。
東京に比べると企業の数が少ないですけど、就活に不安はなかったですか?
不安はなかったですね。何十社も受けることは絶対しないと思っていたので、数社に絞り込んで、しっかりエントリーシートの内容を考えました。
観光産業に携わってきて、変わってきたと思うところはありますか。
どこも観光地はそうだと思うんですけれど、正直、箱根ってインバウンドに支えられている部分がかなり強くなっています。
ただ、国内のお客さんもいて、箱根の町にいろんな外国語の翻訳があふれるようにすると、海外に来たみたいで変な感じがするって思うし。
いいあんばいで、伝統とか文化を残しながら、新しい形のものが取り入れられているのが箱根の理想だと思うので、いろいろやっていきたいと思います。
エヴァンゲリオンのコラボもその一環ですか?
そうですね。国立公園なので、大々的に駅をラッピングするというのは正直、規制がある中で難しいし、ほぼできないに近い。
だからルールの中でインパクトのあるものにしたいなと思って、駅の中でいろいろやってみたりとか、バスのラッピングの背景に寄木細工の柄を入れてみたりとかね。
それがお客さんに伝わって、箱根に来たいい思い出になればいいなと思っています。
自粛期間が長引いて、旅行したいという気持ちは今までよりも高まっていますよね。
この期間に改めて、箱根の魅力って何かを考えた時に、やっぱり雄大な自然や温泉で心をリフレッシュできる自然そのものの魅力だと思います。
コロナが終息したら、ぜひ足を運んで満喫してほしいですね。
最後に就活生に向けて一言お願いします。
ちょっと長くなるけど、これです。
箱根は去年の大涌谷の噴火、台風、そして今年の新型コロナウイルスと、自分たちがふだん想定していないような事態が次から次と起こりました。
とても厳しい状況ですが、そうした中で、どう考えて動いてどういう発信をしていくのか、非常に勉強になりました。
観光業は一見、華やかなイメージがありますが、そこだけに目を向けるのではなく、非常事態や自然災害が起きたときにどういう風に取り組んでいくかが問われる時代になっていると思います。
箱根はコロナ終息後に向けて、会社の垣根を越えて箱根一丸となって観光客を迎え入れる準備を進めています。
新しいタイアップなども進めて、この先また箱根を盛り上げていけるといいなと思っています。
最後は、エヴァンゲリオンのセリフじゃないんですね(笑)
好きなセリフは、「別れ際にさよならなんて、悲しいこと言うなよ」です。(笑)
おおー。
緊急事態宣言は5月25日に解除され、5月30日からは大涌谷への観光客の立ち入りも再開された。ロープウェイや土産物店も営業を再開したほか、休業していたホテルや旅館も感染対策を取りながら再開の動きが始まっている。箱根登山鉄道は試験運転が始まっていて、7月下旬に再開予定。
編集 成田大輔