教えて先輩! ドラマ監督 桑野智宏さん

テレビドラマづくりの舞台裏

2020年03月09日
(聞き手:伊藤 七海 勝島 杏奈)

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大河ドラマ「いだてん」や朝ドラ「あまちゃん」など、数々のドラマの演出を務めてきた桑野智宏さんが、次の作品のテーマに選んだのは「就活」。どうして就活をテーマに選んだのか、そもそもドラマってどうやって作るの?率直な疑問をぶつけました。

就活をドラマに

学生
伊藤

今回、就活生のドラマを手がけたそうですが、どうして就活をテーマに選んだんですか?

その前の仕事が、大河ドラマの「いだてん」だったんですが、撮影だけで1年半やっていたんです。

桑野さん

大河ドラマってある人の一生を長く描いていくんですよね。同時に社会の変化を描いていったりしますけれど。

そういうのも、もちろん面白かったんですが、今度は流れじゃなくて点をやりたいなと思って、ある瞬間というか

点ですか・・・。

そんなときに、久しぶりにばったり会ったプロデューサーに「なんか面白いことやりましょうよ」って言ってたら「就活はどうかな?」って言われて。

泉澤祐希さんとのオフショット NHK職員としてドラマづくりに携わってきました。

ちょうどNHKが就活応援キャンペーンってやっているので提案を出せば通るんじゃないかっていう(笑)

あー、そういうことですか(笑)

富田望生さんと演出についてやりとり

就活の状況って、年によってどんどん変わっていくじゃないですか。どう調べたんですか。

僕らの頃は、超氷河期といわれたころで、僕も含めて就職活動がすごく大変な時期だったんです。

今は売り手市場と言われているけど、実際はどうなのか分からないので、とにかく今の学生さんに会うところから始めました

いろいろなつてをたどって、20人くらい会いましたね。あとは、今の就活事情みたいな本も大量に買ってきて読みました。

学生
勝島

実際に話を聞いてみていかがでしたか?

皆さんもこれまで受験は経ているでしょうけど、就活は人生の進路を選ぶ第一歩なので迷いや不安があるというのは、自分の就活の時と全く一緒だと思いましたね。

売り手市場って言われていても、それぞれが志望するところに行こうとすれば競争社会だし、楽になっているわけじゃないというのはすぐに分かりました

変わる就活用語

逆に自分の時と違うなと思ったことはありますか?

用語が全然違うので、びっくりしました。僕の頃にも自己PRはありましたけれど、今は「ガクチカ」でしたっけ。

あと「オヤカク」って何だとか?

「お祈りメール」も全然なかったですし。「赤べこ」とか「リクラブ」とかもね。

リクラブ(笑)

多分、僕らの頃と違ってSNSが流行っているので、そういう用語が広がりやすいんだろうなって思いました

そういう用語をドラマに生かしているんですか。

はい。ただ、そういうキーワードからドラマを作ったというよりも、取材した方々で僕らの心に残った人たちの様子で話を組み立てていこうとしたんですよね。

親に迷惑をかけたくないとか、親を喜ばせたいっていう方が結構いて、すごく意外でした。

話を聞いていると気持ちはよく分かるので、「就活って個人の話じゃなくて、親との関係性みたいなことが大きなテーマだな」と思って。

それを描きたいと思った時に、ああ、今は「オヤカク」っていうことばがあるんだって。

なるほど。

第1話の「ガクチカ」は一番メジャーな話題なので、そこから始まりたいなというのはありましたね。

ドラマ監督って何をする人?

ところで、ドラマの監督さんってどういうお仕事をされているんですか。

プロデューサーとの違いがよく分からなくて。

2人は監督ってどんなイメージですか?

メガホンを持ってイスに座って、「はいよーい、スタート!」って。

全体の指揮をとっていて、監督がOKといえばOKみたいなイメージですね。

実は、ドラマを作るプロセスって大きく分けて3つあって、「プリプロ」、「プロダクション」、「ポスプロ」って呼ぶんですけど、撮影の前、撮影、撮影後のことです。

この3つの段階を全部やるのは、監督だけですね。

全てに関わるということですか。

はい。プロデューサーは、基本的には「プリプロ」と「ポスプロ」ですね。撮影は、監督に基本的に任されています。

脚本づくりやキャスティングに関してもちろん監督も意見しますが、予算や全体の最終権限を持っているのはプロデューサーです。

一つのドラマを作るのにどれくらい時間がかかるんですか?

今回の就活生日記は、5分×5本の25分の短いドラマっていうこともあって、3か月ちょっとかな。

これが大河の場合は、プロデューサーや脚本家だと、長いときは準備期間を含めて4~5年、朝ドラだったら2~3年という感じですね。

すごく長丁場ですね。

大河や朝ドラは、全部、同時並行で作業していくんですよ。脚本ができて、撮影に入っていきながら、同時にその後の脚本も作り続けてるんです。さらに、編集や音楽をつけていく必要もあるので。

大河や朝ドラになると監督が4、5人います。誰が何話を担当するという形です。

どの過程が一番大変なんですか?

人によって考え方は違うと思うんですが、僕は作品のよしあしは、「プリプロ」で8割決まると思っています。

取材、脚本づくり、キャスティング、衣装合わせ、本読み、リハーサルなど撮影の前段階でどれだけ準備できているかによって全然変わるので。

撮影当日になったら、そんなに大きく変えられないので、僕は「プリプロ」が本当に勝負だと思っています。準備ができていないことを現場でカバーするのは無理だと思いますね。

ちなみにキャストは、どうやって選んでいるんですか?

できる限りドラマや映画を見ています。

「この人にこんな面があるんだ」とか、「こんな部分を引き出したいな」と常日頃思っていますので、台本ができてきた時にこの人がいいなと自然に浮かびますね。

すごいですね。

もう15年ドラマを作っているので。僕41歳ですけど、まだドラマの世界じゃ中堅にすぎないですけど、中堅でもそれくらいはやってますので。

朝ドラを変えた あまちゃん

これまでいろんな作品に関わってきたと思いますが、一番印象に残っている作品を教えてください。

パッと浮かんだのは「あまちゃん」という朝ドラですかね。ご存じですか?

もちろん。

朝ドラに携わるのはあまちゃんが5本目だったんですが、朝の時間帯にあれだけ笑いをやるんだ、コミカルにやっていいんだっていうのが衝撃でした。

それまでの朝ドラのイメージは、若い女性が半生をかけて何かに取り組んで、困難にぶつかりながらも壁を乗り越えて、家庭を築き、その家庭の中でもドラマが生まれるみたいなことを、手を替え品を替えやってきたんです。

そう言われてみればそうかも。

あまちゃんは、ヒロイン、母、祖母という女性三世代で描くことも画期的でした。

それと同時に、当時は東日本大震災とどう向き合えばいいんだという事に、まだ誰も答えがなかなか見つからなかった時期だったんです。

ドラマとかエンターテインメントの人たちは、当時、自分たちは、いらない存在なのかなって多分、本当に思っていたんですよ。報道や生活に必要な情報が第一だろうなと思ってて。

そんな気分の時にあんなに面白い、笑える楽しい朝ドラを届けようとすることがすごく衝撃でしたね。忘れられないですね。

大きい事件や事故の後は、もちろん生活に必要な情報が大事ですが、視聴者の反応を見ると生きていくという意味では僕たちドラマもやっぱりあっていいんだと強く思えたし。

自分の仕事の意味、ドラマを作っていいんだという意味ですごく印象的でした

私も毎朝見ていたので、元気づけられましたよ。母も楽しみにしてて。

答えは言わない

撮影する時に、OKとNGがあると思うんですが、その違いってどういうところにあるんですか。

それ、一番しゃべりたくないところだな(笑)

スタッフワークのNGは置いておくと、単純にその役者さんの芝居を見て感動しないからです。

そのカメラ、モニターを見て、僕が台本を読んでいたときよりも、感動しなかったらNGですよね。違いますかね?

なるほど、難しい・・・。

プロデューサーと一緒に台本を作って、いろんなことをイメージしているので。

そのイメージよりすばらしい方向に行っていたらOKだけど、そっちにも行っていない、想定していたよりも下だったらダメですね。

ただ、僕の演出が悪くてよいお芝居を引き出せていない可能性も大いにあるので、どうしたら感動できるようになるか、冷静に判断するようにしています。

今まで演技の経験は?

僕は高校・大学と10年くらい演劇をやっていました。でも、ほかの監督は演劇をやっていない人も多いんです。

監督ってスタッフの中で唯一、手に職を持っていないんですよ。カメラのピントも合わせられないし、照明も当てられないし。だから監督の仕事は言葉が一番大事なんですよね。

みんなには意識していることを、最初の段階では伝えないようにしています

どういうことですか?

例えば、「温かいシーンにしたい」みたいなことボヤーッという。するとみんなそれぞれプロなので、温かくするにはどうすればいいかを一生懸命考えてくれるんです。

レンズの使い方とか、光の当て方とか、美術的な色づかいとか。それぞれ考えてくれたものに対して、イエスかノーかをまた伝える感じです。

自分で答えを言わないことをすごく意識しています。

自分の中のイメージはあるんですよね。

正直ありますね。ただ、自分があの映画のこんなシーンみたいにしたいと言っちゃうと、みんながそれを用意するだけになっちゃう。

周りはプロのスタッフばかりなので、彼らの知恵をいただいたほうが、より豊かになるという信念があるので、答えは言わないということをすごく意識していますね。

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