2020年05月19日
(聞き手:高橋薫 田嶋あいか)
今、あらゆる場面で利用が進んでいるAI(人工知能)。そのAIを使って仕事の効率化を図る技術で注目されるのが、スタートアップの「シナモン」。CEOを務め2児の母でもある平野未来さんが目指すのは、AIで仕事の“アンハッピー”をなくすこと。AIが仕事をどう変えるのか聞きました。(※新型コロナウイルスの感染拡大前に取材しました)
学生
高橋
よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
平野さん
シナモン 代表取締役社長CEO 平野未来さん(36)
大学院在学中に最初の起業をし、その後売却。現在は2社目の起業。これまで人が行ってきた仕事をAIで効率化し、人が創造性あふれる仕事に集中できる世界を目指す。3歳と1歳の子どもを持つ2児の母。
AIを使ったお仕事、どうして始められたんですか。
もともと、日本人の働き方ってすごくアンハッピーだと感じていて。
長時間労働するのが当たり前で、上司がオフィスに残ってるから自分もまだ帰れないみたいなこととか。
それがあるべき働き方なのかっていうとそうじゃないなって思ったんですよね。
ちょっといやですよね。
私、1人目の子どもを3年前に出産しているんですけれど。
当時、大手企業で若い女性社員の過労死事件が問題になっていて。
自分がやりたくない仕事をずっと何時間もさせられて、命を絶ってしまうなんて本当に悲しい。
学生
田嶋
本当にそうですよね。
自分の子どもが大きくなって働き始めるころにも、世の中がこんなことではいけないなって思ったんですよね。
そして、そもそも、今の私たちの世代がそれを変えていかないといけないなって思うようになったんです。
どんなふうに変えていこうと思ったんですか。
今、多くの方々がアンハッピーに働いているかもしれませんが、その多くはAIで解決できると思うんです。
AIにサポートしてもらう世の中になると、人が働く時間が少なくなっていきます。
自分の労働時間は自分が得意なことだとか働いていて楽しいことだとか、そういうことに費やせるようになる。
その余った時間で家族と過ごしたり、趣味を楽しんだりというのが認められる世の中になっていくと思うので、そのほうがみんなハッピーになると思っています。
AIって聞くとどうしてもネガティブなイメージを抱きがちなんですけど、人をハッピーにするってすごくポジティブですね。
けっこうAIが人の仕事を奪うって思われてしまうっていうか。
それよりも、ポジティブな面を見てほしいですね。
そもそもですが、AIってなぜこんなに注目されているんですか。
いろいろな理由が組み合わさっていると思います。
ひとつは、数年前に「ディープラーニング」が出てきたことですね。
ディープラーニング(深層学習)
人がルールを教え込まなくても、脳の神経回路をモデルにして、コンピューターが「みずから学ぶ」仕組み。大量のデータから、特徴などをみずから認識して結果を導く。画像認識や自動運転など、さまざまな分野で活用が進む。
あと、ハードウェアの進化ですね。
ディープラーニングとかAI系の技術ってすごくハードウェアのコストを食うんですよ。
容量が必要だということですね。
そう、ある写真に猫が写っているのか犬が写っているのかを判断するAIを作るために、以前だったら何億円もかかってましたみたいな。
それが、コスト面でも問題がなくなってきたんですよ。
あと、社会的な変化っていうのもあると思うんですけれど、RPAってご存じですか?
RPA・・・ですか?
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)
オフィスの事務作業をコンピューターで自動化する技術。人が手で入力していたような単純作業を効率化し、作業にかかる時間を短縮。AIなども使うことで、より複雑な作業も行える。
何かルールをピピピって決めておくと、それを勝手にロボットがやってくれるっていうそういう概念ですね。
企業の中でこれまでのルーティン的にやられてたことをルールづけして勝手にやってもらおうっていうものです。
そのほうが、便利ですね。
あと、日本国内でいうと、労働人口が減って10年後には1000万人が足りないって言われていたんですね。
なので、そもそも今のビジネスを維持していくだけでも人間だけでは不可能なので、機械にやってもらわなきゃいけないんです。
AIについて理解出来ました。そのAIを使う、シナモンの事業内容について教えてください。
私たちがやってるのは、「非構造データ」を理解できるようなAIを開発するという事です。
「非構造データ」ですか・・・
「非構造データ」というのは、メールや画像、パワーポイントとかワードのファイル、そういうデータのことですね。
一方で、「構造データ」というのは、データベースに入っているような“きれいなデータ”のことで、数字とか名前、住所が整理されているんですね。
「非構造データ」をそういう「構造データ」にすれば、RPAで結構自動化できるんですよ。
はい。
いろんな企業がデジタル化を進めているんですけれども、ほとんどそれが進んでいないっていう現状があって。
それは、企業が持っているデータの8割が「非構造データ」だからなんです。
さらに、ここから意味ある情報を抽出するのは、人がやっている。
これを解決することが、ホワイトカラーの生産性を上げるにあたって、非常にカギになるって思っているんですね。
企業によって使っている「非構造データ」の書式が違うとかそういうことですか。
例えば、「エッセイを書いてください」って言われたとするじゃないですか、学校で。
ワードで書くとしても、書き方ってお二人で全然違うと思うんですよね。
もしかしたらパワーポイントを使う人もいるかもしれないし、書き方って完全にバラバラじゃないですか。
そこから情報を抽出しようと思ってもすごく難しいわけですよね。
たしかに、そうですね。
企業によって違うとかいうレベルじゃなくて、会社の部門ごとでも違うし、その同じ部門の中にいてもそこにいる人どうしでも全然違うんですよ。
その「非構造データ」をAIを使ってきれいな形にできたとしたら、デジタル化って一気に進むものなんですか。
そうですね。ある程度よくなっていくと思います。
データを通して、「あなた、こうしたほうがいいですよ」って行動を推奨する。
「気づき」を人に提供するっていうことが大事なんです。
これができてくると、例えば売り上げ向上とか、コールセンターで満足度が向上するだとか、そういうところにもつながっていくと思います。
人間が気づけなかったようなことにも、AIが気づくことができるってことですか。
はい。実際の例でお話しますね。営業マンのケース、ひたすらお客さんに「この商品を買いませんか」って、電話しているんですね。
ただ、マネージャーからすると、どんな会話をしてるのか、ずっと張りついて聞いているわけにはいかないじゃないですか。
そうですよね。
なので、具体的なアドバイスがしにくいんです。
私たちがしようとしてることって、まず営業電話自体をテキスト化する。
そして「構造化」。営業通話の中身を分類していくんですね。
はい。
例えば、1回の通話が10分間だったとすると、最初の2分は雑談していますとか。次の2分は最近のマーケットについて話をしてますとか。
これができると何がいいのかっていうと、成績のいい営業マンと悪い営業マンの違いが抽出できます。
成績のいい営業マンだとたくさん提案してるとか、成績の悪い営業マンだと電話してるんだけれども、結局雑談ばっかりしてて全然提案しないとか。
そのデータをもとに、営業全体の数字が改善できる。
こういうのが、デジタル化のあるべき姿なんじゃないかなって思っています。
なるほど!
ちなみに、気になっていたのですが、「シナモン」という社名の由来はなんですか?
シナモンって“スパイスの王様”っていわれているんですね。
AI企業って小難しいカタカナの会社が多いじゃないですか。
そうすると、わりとAIの負の側面、AIが人の仕事を奪うみたいなところを想起しがちだと思うんです。
でもそうじゃなくて、私はAIによって人が幸せになる世の中を作っていきたいなって思っているので、「人生にスパイスを」っていう意味で名付けました。
AIで人を幸せにしたいっていう思いなんですね。
【後編】は近日公開します。“インターネット中毒”だったという子どものころのお話や、「未来をつくりたい」という仕事への思いを聞きました。
編集:加藤陽平