教えて先輩! NHK 松本卓臣プロデューサー

予期せぬ出会いが成長に 報道プロデューサーの仕事

2022年09月16日
(聞き手:梶原龍 堀祐理 本間遥)

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テレビ番組のプロデューサーってどんな仕事?NHKの報道番組「クローズアップ現代」で編集責任者を務める松本卓臣プロデューサーに仕事のやりがいについて聞きました。「予期せぬ出会いが成長につながります」。

プロデューサーってどんな仕事?

学生

さっそくですが、ディレクターやプロデューサーってどんなお仕事をされているんですか?

放送ってすごくたくさんの人が関わっているんです。

松本さん

ひとつの放送を出すのにも撮影や編集、音響効果、デザイン・・・多くの人が関わります。

みずから現場を取材し、番組に関わる人たちに全体の方向性を示しながらまとめていくのが、ディレクターです。

はい。

プロデューサーはだいたいディレクターの経験を積んだ人がなるんですけど、番組を作る環境を整え、放送に出たものの責任を負う役割です。

予算や人を確保したり、品質管理や危機管理をしたりするんです。

松本卓臣さん

1996年、NHK入局。主に報道番組のディレクター、プロデューサーとしてNHKスペシャルなどを制作。2021年7月から「クローズアップ現代+」で、22年4月から「クローズアップ現代」で編集責任者を担う。

学生
本間

番組に関わるすべてを管理しているのがプロデューサーということですか。

そうですね、ディレクターと並走して番組を支えるんですけど、一方で距離をとって見ていかないといけない係でもあります。

粗く編集したVTRを関係者が集まって見る「試写」という工程で、「事実を正しく伝えているか」「問題の本質を捉えているか」とか、「こういう伝え方だと誤解を生まないか」とかチェックする役割でもあります。

そうなんですね。

ディレクターが取材でたどり着いた「伝えたいポイント」や「大事にしたいこと」はしっかりと聞きます。

でも、最終的には視聴者に届けるものなので、優先するのは視聴者です

引いた立場で冷静に支えていくっていう仕事ですね。

なるほど、届ける相手の目線ですね。

クロ現は縦に深く

現在ご担当されている「クローズアップ現代」ってどんな番組ですか?

30年に渡ってさまざまなテーマと向き合い、独自の視点で切り込んできた番組です。

クローズアップ現代

月曜~水曜の午後7時半、NHK総合で放送。社会や政治、経済の動きから最新トレンドまで、幅広いテーマを徹底した現場取材で掘り下げる。放送開始から30年目の2022年4月にリニューアルし、桑子真帆アナウンサーがキャスターを務める。

学生
梶原

独自の視点ですか?

番組はいつもワンテーマで27分間放送します。

その時間で縦に深く掘り下げることが大切だと思っています。

日々のニュースとの違いは、起きていることを伝えるだけではなくて、起きていることの「意味」を掘り下げる点だと思っています。

「クローズアップ現代」は深く取材したVTRとスタジオでのかみ砕いた解説が特長

「なぜこうなったの?」 「どんな背景がある?」 「被害にあった人はどういう状況?」と、とにかく詳細や意味を調べる。

なるほど!それが深さ、視点なんですね。

2022年6月27日放送 「拡大する“見えない戦場” ウクライナ・サイバー戦の実態」より

起きていることの「奥にあるもの」「問題の本質」を知ることができたなと、思ってもらえるよう努力しています

毎回、視聴者の方に納得してもらうことは容易ではないですが、そこを目指しています。

目指していなかったけれど・・・

今はクローズアップ現代をご担当されていますが、ずっと報道分野の担当なんですか。

もともとドキュメンタリーとか歴史の番組、科学の番組が好きでNHKに入ったのですが、実は報道番組を目指していたわけではないです。

そうなんですか!

なんで報道に進んだんですか?

初任地の上司がたまたま報道の人だったので・・・。

でも、結果的に報道の道を選んで、すごくよかったなと思っています。

NHKのディレクターにもいろいろあって、ドラマやエンターテインメント、科学、福祉など、それぞれのジャンルで専門性を磨いています。

そうした中で、報道番組のディレクターって、ジャンルが決まっているわけではなくて何でもやるんです。

そうなんですね。

戦火のウクライナを取材している人がいれば、映画界の性暴力を追いかける人もいる。

からあげ店がなんで増えているのかを掘り下げる人も。取材した情報で、ドラマを作る人もいる。

「これを伝えたい」って思いがあれば、どんなことにもチャレンジできるのが報道番組の良さです。

フィールドが広いのがすごくよいことだなと思ってます。

いい意味で期待を裏切られたんですね。

そうですね、出会いがしらで予期せぬことに向き合う瞬間が多いんです。

事件や災害があれば直ちに対応しないといけないし、人とじっくり向き合うインタビューでは見識も問われます。

そのつど一生懸命勉強したり、考えたり。

否応なく多くの経験を積むことで、いろんなものの見方をできるようになったなと思います。

声をあげられない人の中に本質が

報道ならではの仕事ってあるんですか。

災害報道とか緊急報道は、報道に関わる者が優先的に伝えなければならない使命だと思っています。

社会が非常事態に直面して「いったい何が起きているんだ?」と、多くの人が正しい情報を求めている状況では、自分たちのスケジュールを一旦置いて集まります。

プロデューサーが中心となって特集番組を「明日やろう」と決め、短期間で、放送ギリギリまで走りながら作ることも。

臨機応変さが求められるんですか。

そうですね、だからすごく場数と引き出しの多さが求められる

事件事故が起きた時に何ができるのか、どれくらい人数が必要か、こういう取材のしかたをしたら渦中にいる人にとって迷惑にならないかとか。

同時に考えながら、災害現場だったら取材者の安全も守らないといけない。

今までのお仕事で印象に残った取材はありますか。

取材相手から色んなことを教えていただいています。

中でも水俣病について書いてきた作家の石牟礼道子さんを⻑期間取材させてもらったときは、被害を受けた方への接し方などを学びました。

「力を持った人たちの言葉よりも、弱い立場の人の言葉の中にこそ、社会を立て直すヒントがある」って言われたことがあって、勉強になりました。

作家 石牟礼道子さん

水俣病患者の家々を一軒一軒まわって取材し声なき声をまとめた「苦海浄土」を1969年に出版。切実な被害の実態を訴え続けた。2018年に90歳で亡くなる。

そのことばは番組作りでも意識しているんですか。

はい、今も意識しています。

社会や組織の中で、声が大きい人が本質を突いているとは限らず、声をあげられない人の中にこそ、問題の本質が埋もれているんじゃないかって思ってます。

カメラを持ち込む場所はどれだけオリジナルか

松本さんの1日のスケジュールをいただいたんですが、ものすごく忙しいですね。

もちろんその日のクローズアップ現代の放送が最優先です。

だけど、それ以外にも毎日提案が来るので話を聞いたり、企画の進捗具合を確認したり。

放送が近づいたものは番組ホームページでの告知とか、来週放送するものに関しては新聞のテレビ番組表の内容のチェックもしたりします。

そんなにお仕事が・・・

そこで「編集責任者」というお仕事をされているということですが、どんな役割なんですか。

出版の世界だと編集長というか、プロデューサーのプロデューサーのような役割ですかね。

年間で130本くらいの放送があるクローズアップ現代には、数え切れないくらいの提案がきます。

その提案をどのプロデューサーやディレクターに任せるか決めたり、時期を決めたり。

あとは最終的な試写をする係なので、放送するものに対する責任があります。

番組の中の一番の責任者ということなんですね。

たくさんある企画の提案からどうやって選んでいくんですか。

僕は、取材者の独自の視点とか、企画の斬新さとか、取材の深さなどを見ています。

当事者に深く食い込んでる、あるいは、他では撮れない現場にカメラを持ち込めるという企画は強いです。

テレビなので、カメラを持ち込む場所、それから「切り口」にどれくらいオリジナリティがあるかということを考えています。

このディレクターがいなければ、この番組はなかったというのが、ディレクターの値打ちだと思っています。

自分の感覚を疑う

どうやって世の中の関心に応えるような番組をつくるんですか。

初めのころは自分の興味関心ばかり追っていたような気がします。

でも、それが必ずしも世の中の興味とは限らないって分かってくるんです。

視聴率がよくないとか?

視聴率だけでなく、反響もそうですし、しばらく議論が続く番組があれば、1日2日で忘れられてしまう番組もある。

取材者の関心も大事だけど、社会の関心をどれだけ正しく捉えられているか、いつも自問自答を続けることが、もっと大事で。

“レーダー”を、自分ではなく、世の中に向けていくことが重要だと思っています。

 

自分の感覚を絶対と思わないことが大事?

それはとても大切で、常に自分の感覚を疑いながら仕事をしています。

クローズアップ現代 本番中 「編集責任者」として桑子キャスターやゲストの様子を注意深く見守る

自分で取材したものに、第三者的な視点や、距離感をしっかりと持てるディレクターは強いと思っています。

そのテーマに寄り添うと同時に引いて見る

この両輪が、番組の力につながると思っています。

むだなことはない

お仕事のやりがいはどんな時に感じますか。

知らなかったことを学んだり、違うものの見方が得られたり、貴重なお話を聞けたりすることで成長を感じられることですね。

ディレクターが血のにじむような努力で100人くらいに会って、凝縮させたものを見るっていうのはすごくありがたいことでもあるんです。

そういうものに日々触れているっていうのは貴重な場だと思いますし、その分ちゃんと本質を外さないようにする責任を感じます。

松本さんにとって仕事とは何ですか?

自分を豊かにするエネルギー源ですね。

もちろん、しんどいこともありますけどね笑。

その心は?

森羅万象、様々なテーマに向き合うことで、自分も変化していけると。

大学生や若い世代にメッセージはありますか。

難しそうだなとか興味ないなと思っても可能性にふたをしないでほしいですね。

出会いがしらの経験が自分を豊かにすることって、ありますよ。

自分もそうでしたが、いろんなことにぶつかってみて、やってみてすごく良かったなってことが多くって。

“出会いがしらの力”を、もっと信じてみても、いいかもしれません。

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