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トランプ大統領を読み解く3つのキーワード~後編~

2019年03月01日
(聞き手:工藤 菜摘)

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アメリカのトランプ大統領。過激な発言をしたり、「フェイクニュース」と言ってメディアと戦ったり…。お騒がせなイメージが先行しますが、でもよくわからない…

結局トランプ大統領ってどういう人なの?どう見ればいいの?

日本はどう向き合っていけばいいの?

さまざまな疑問を、学生リポーターの工藤が、国際部でワシントン特派員などを歴任された髙橋祐介解説委員にぶつけてきました。

髙橋解説委員に聞く「トランプ大統領を読み解く3つのキーワード」。

「分断」「再選」に続き3つ目は…「アメリカファースト」です。

学生
工藤

「アメリカファースト」改めてどういうことなのでしょうか?

アメリカファーストという言葉は、実は新しい言葉じゃなくて、第二次世界大戦が始まる前からあった言葉です。

髙橋
解説委員

アメリカには建国当時からヨーロッパとか他の国の争いごとには巻き込まれたくありませんという孤立主義という考え方があって、第二次世界大戦のヨーロッパ戦線に参戦するとなったとき、それに反対する人たちが唱えたのが「アメリカファースト」。アメリカはアメリカのことだけを考えていればいいんだという意味ですね。

それがトランプさんが言うアメリカファーストにつながっているんですか?

そうそう、そうなんだけどね、でも戦後、アメリカは世界のリーダーになって、アメリカファーストは死語になった。アメリカはアメリカのことだけではなくて、世界のことも考えないといけないんだと。

なるほど。

でもその後、中国が台頭してきたりして、また状況が変わった。アメリカが戦後やってきた経済システムって必ずしもアメリカの利益になっていないのではないか。もっとアメリカが潤うようなシステムにしないといけないのではないかと。

そこで、アメリカはアメリカのことだけを考えればいい、世界のリーダーなんて別にいいだろうという話をしたのがトランプ大統領だった。

そうなんですか。

実際、世界のリーダーになって何かいいことがありましたか?と。いろんな国に軍隊を駐留させて、アメリカの若者が他国のために血を流して世界の秩序を維持して、何の見返りがありましたか?と。ある意味正しいっちゃ、正しいんだよね。

トランプ大統領のアメリカファースト、日本への影響は?

アメリカが世界のリーダーシップを取らなかったら、誰が取るのっていう話で、日本としては困るよね。貿易にしたって、今の自由貿易体制があるからこそ日本の輸出産業は成り立っているわけで。

TPPだってオバマ時代のアメリカに言われて交渉したのに、トランプ政権になったら180度変わって、TPPには入りません、2国間でギリギリやりましょうとなった。日本はなるべく多国間交渉の枠組みにアメリカを引き入れようと今もしているけど、多分トランプ政権が続く限りそうはならない。

日本はどうすればいいのでしょうか?

アメリカ以外でTPPを発効させて、EUとも自由貿易協定を結んだし、中国や韓国とか東アジア自由貿易交渉もやっていて、自由貿易交渉の網を広げていくというのが日本のやり方なんです。

“やられたらやりかえす” 米中貿易戦争

貿易といえば、アメリカと中国の貿易摩擦、これはどういうことなのでしょうか?

アメリカは長い間、貿易赤字に苦しんでいるんだけど、赤字額が最も大きいのが中国との貿易です。アメリカを強くしたい、アメリカファーストを掲げるトランプ大統領としては、中国との貿易赤字を何とか減らしたい。そこで中国製品の関税を引き上げた。

中国製品への関税引き上げの大統領令にサイン(2018年3月)

関税を引き上げるということで、中国はアメリカに輸出しにくくなる。そうなると中国は当然反発する。今度は、アメリカからの輸入品に追加関税をかけて報復し、米中貿易戦争が始まったんです。

関税のかけ合い、報復合戦のようになっているんですね。

さらにトランプ政権は中国が自由貿易のルールを守っていないことも問題視しているんです。国有企業に補助金を出して優遇したり、アメリカや欧米の企業が多くの研究開発費を投じた知的財産、特許などを盗み出して不当に儲けたりしていると。こういうことを中国が辞めないなら、付き合い方は考えさせてもらうよというのがトランプ大統領の主張です。

そうなんですか。今後どうなるんですか?

アメリカは中国からの輸入品にかける関税を引き上げるさらなる制裁措置発動の期限を3月1日と決めて中国側と交渉していたんだけど、トランプ大統領はこの3月1日の交渉期限を延長することにしました。そして3月中に習近平国家主席との首脳会談を開いて最終的に合意するとしています。

関税をさらに引き上げると言っていたのに、やっぱりもう少し待ちますと態度を変えたということですよね。なぜですか?

トランプ大統領が再選するために、まず大事なのは何だっけ?

経済ですか。

そう。関税をかければ自国の産業を守ることができる反面、国民にとっては商品の値段が上がるので支出が増えて景気が悪くなる可能性がある。トランプさんは今、何より自分の再選が大事だから、米中首脳会談で一応の握手をするのではないかと言われている。

ただ、中国側も抵抗するだろうから、そう簡単には決着はつかないと思います。だから、経済の動向をみながら、まあつかず離れずやっていくと。

つかず離れずですか。

トランプさんは自分のことを交渉の達人だと言っているんだけど、不動産王と呼ばれていた時代から、彼の交渉手法というのがあって、最初にガンと言って、相手がひるむとふっかけていく。たぶん「こんなんじゃ米中断交だ」ぐらいは最初に言うんだよ。それでだんだん相手から譲歩を引き出していって、自分に有利なところで、「わかった、合意」とやると。

再選のために、経済は絶対落としたくない。でも中国の好き勝手にもさせたくない。そこで落としどころがどこになるかということだね。

どうなる北朝鮮問題

北朝鮮との関係はどう見ていけばいいですか?

北朝鮮は非核化に応じると言っているが、本当に言ったことをやるかどうかは誰にもわからない。気をつけないといけないのが、この北朝鮮問題でアメリカと日本の目指すところ、国益は、すべて一致するとは限らないということ。

アメリカは、北朝鮮がICBMという大陸間弾道ミサイル、アメリカの本土に届くようなミサイルを開発して「アメリカに核を打ち込むぞ」という構えを見せたことで、それは大変だと今交渉しているんだけど、じゃあこれだけをやめさせればいいのか。日本にとっては違うよね。

北朝鮮の軍事パレードに登場した新型ICBMと推定されるミサイル

というと?

日本はすでに短距離と中距離のミサイルの射程に入っている。新たな核開発をやめさせるとともに、今ある核兵器も全部廃棄されて、短距離、中距離ミサイルも全部なくしますとならないと、日本はいつまでたっても安全じゃない。

確かに。

トランプさんが中途半端なところで妥協したら日本はどうするのって話で。再選のために朝鮮半島に平和をもたらした偉大な大統領だと宣伝したいわけだから、成果を焦る可能性もないとは言えないでしょ。日本には拉致問題もあるし、これはアメリカ頼みではなくて、直接日本が北朝鮮と話し合って解決すべき問題だから、そこは履き違えないようにしないといけない。

北朝鮮からしたらトランプさんがアメリカの大統領になったことは千載一遇のチャンスなんです。今までの大統領は話し合いなんかに応じなかったけど、トランプさんは同盟国なんか置いておいて、日本が反対しようが何しようが、自分の利益になるならやる。そういう時代になっているから、よくよく見ておかないと、恐ろしいことになる。

きょう聞いただけでも、なんかいろんな意味で問題が山積みだなと…。

いろいろ言ってしまったけど、日本にとっては、トランプさんは思ったほど悪くないなというのが正直なところでもあるんだよ。トランプさんが何をしでかすかわからないから、中国も相当警戒して、好きなことができなくなったし、北朝鮮だって、あれだけ脅威だった核実験もしなくなって、ミサイルも飛んでこなくなった。

アメリカはこれからどこへ向かうのでしょうか?

実はアメリカでは、これから20年後、2040年代には白人がマイノリティーになると予想されているんです。アメリカを統治して200年以上多数派だった白人が5割を切って、代わりにヒスパニック、黒人、アジア系のマイノリティーと言われてきた人たちが多数派になる。そうなると、社会や政治のシステムも、きっと大きく変わっていかないといけないよね。それの先鞭をつけるというか、今のシステムをぶっ壊すのがトランプさんの歴史的な役割だと私は思っています。

彼は今までの大統領とは違う。「壊し屋」なんですよね。そう割り切って付き合わないといけない。

そして、トランプさんが壊すだけ壊した後から、新しいアメリカの政治がきっとまた生まれてくると思います。

ありがとうございました!

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