ネット公告の闇 ネット公告の闇

その口コミ ちょっと待った!「ステマ」規制へ

2023年1月23日

「ステルスマーケティング(=ステマ)」

広告主が広告であることを隠したまま宣伝する行為のことで、SNSの普及に伴い、問題が指摘されるケースが相次いでいる。

こうした中、消費者庁の有識者検討会は「ステマは規制の必要がある」とする報告書を2022年12月にまとめた。消費者庁は今後、ステマ規制に向けて制度設計や運用基準の策定などを進めていく方針だ。

あなたも目にしているかもしれない「ステマ」。
「ステマの何が悪いのか」「どのような規制が求められるのか」。

報告書の規制案を読み解くとともに、日本でのステマの実態について取材した。

ステマが違法という新常識を広げられるか

(有識者検討会 中川丈久 座長)
「ステルスマーケティングが違法だという新しい常識をどれだけ広げられるか、今回の報告書が極めて大きな第一歩となると考えています」

2022年12月に開かれた消費者庁の有識者検討会。

報告書のとりまとめにあたり、座長を務めた神戸大学の中川丈久教授は「大きな第一歩」と胸を張った。

検討会には、経済団体や消費者団体の代表、弁護士、さらに、経済学や法学、心理学など異なる専門分野の大学の教員らが参加した。

約3か月かけて行われた議論で出た結論が「ステマは規制の必要がある」というものだった。

ステマ 過去にも問題指摘

ステマは、広告主が広告であることを隠したまま宣伝する行為のこと。

これまでもさまざまなケースが問題になってきたが、最近では、企業や店舗が、SNSのインフルエンサーに報酬を提供した上で、広告であることを隠して商品やサービスを宣伝するケースなどが指摘されている。

2021年11月、消費者庁は、合理的な根拠がないにもかかわらず「簡単にバストアップ」などとネット広告で宣伝してサプリメントを販売していた東京の会社に対して再発防止の措置命令を行ったが、この事例ではインスタグラムでの宣伝が、投稿者が報酬として商品の提供を受け、宣伝の指示を受けていたにもかわわらず、それを伏せていた「ステマ」だったとしている。

また、動画共有アプリ「TikTok」が、2019年7月から2021年12月にかけて、のべ20人のSNSのインフルエンサーに対価を支払って人気の動画を転載するよう依頼していたものの「#PR」などの広告表記をしておらず、「誤認や不信感を与えた」として2022年1月、おわびの文章を発表した事例もステマだと疑われた。

2019年には、ウォルト・ディズニー・ジャパンが映画「アナと雪の女王2」について、宣伝のために複数の漫画家に感想などを描いた漫画をSNSで発信してもらうよう依頼していたのに、広告と明示していなかったとして謝罪したほか、京都市が、市の取り組みをPRするため人気漫才コンビにツイッターで情報発信をしてもらう対価として100万円を支払う契約を結んでいたにもかかわらず、漫才コンビのツイートの中に「広告」と明示していなかった。

ECサイトをめぐっては、指定された商品を購入し、高評価のレビューを書き込めば、購入の代金が返金されたり、商品がタダで手に入ったりする、いわゆる「不正レビュー」または「やらせレビュー」も問題視され、有識者検討会では、こうしたケースもステマに当たると、議論が行われた。

インフルエンサーが証言「表記なしで投稿して」

ステマは、どのように生み出されているのか。

インスタグラムなどでインフルエンサーとして活動する30代の女性が実態を証言した。

インフルエンサー女性

インスタグラムが多いですが、ダイレクトメールで企業や代理店から、『表記なしで投稿してほしい』とか、ハッシュタグの中でも、『PRがわかりづらいように紛れ込ませて投稿する』ことを企業から持ちかけられることはあります。広告ではない投稿の方が多くの人に見てもらいやすいですし、ユーザーの中にも広告に嫌悪感を抱く気持ちもあると思うので、より自然な投稿に見せてほしいという意図があるのかなと思います。

女性は、広告主からステマを依頼されるケースは多く、実際に行っている知り合いもいると明かした。

女性自身はステマだとわかる依頼は断っているというが、気づかないうちに自分もステマに加担しているのではと不安を感じることがあるという。

例えば、お金ではなく、商品を無償で提供する代わりにインフルエンサーにPRを依頼する『ギフティング』と呼ばれる手法があり、あえて「案件」や「PR」という表記を求めずに商品を提供し、「受け取ったからには紹介しないと申し訳ない」というインフルエンサーに思い込ませて、宣伝させるようなケースが多いのだという。

インフルエンサー女性

サンプリングだったり、商品提供だけで投稿してくださいとは言われなくても『商品をもらったからには投稿してほしい』という企業側の思いが見え隠れするような依頼で投稿してしまったりとかは見かけます。多いのはコスメ、スキンケア、サプリメントとか。いろんな人にばらまきというか、たくさんの人にダイレクトメールを送ってギフティングをしているのが多いと思います。

「ステマ依頼」インフルエンサー2割近くが経験

広告主からの「ステマ依頼」、消費者庁の検討会でも驚くべき調査結果が示された。

SNSのフォロワー数50万人未満のインフルエンサー300人に行ったアンケート。

それによると、全体の約4割にあたる123人が「広告主からステマの依頼を持ちかけられた経験がある」と回答。

さらにステマの依頼に対して、55人が、「すべて受けた」か「一部、受けたことがある」と回答し、全体の2割近くがステマを行っていた。

依頼を受けた理由については複数回答で、

▽「ステマに対する理解が低かった」など、知識不足をあげたのが63.6%
▽「広告主から報酬を得る条件だったから」など、広告主の条件に従った人が30.9%
▽「広告と記載するとフォロワーの信頼を失うから」が18.2%
そして、
▽「広告と記載すると商品・サービスが売れないから」(9.1%)といった理由もあった。

また、ステマをどう思うか尋ねたところ「悪いことだと思う」と答えたのは、全体の56%にとどまり、半数近くが「わからない」または「悪いこととは思わない」と回答した。

インフルエンサー側の知識不足や、どのようなケースがルール違反になるのか"あいまい"なことも、ステマがなくならない要因となっている。

業界内部からも規制の必要性指摘

こうした現状を、業界はどう受け止めているのか。

数多くのインフルエンサーを抱え、企業とのマッチングをしているSNSマーケティング会社の福田晃一社長は、業界として問題を認識し重く受け止めていると話した。

福田社長

広告主側は物を売りたい場合、広告ではなく『実際に自分が使ってすごくよかった』という表現のほうが物が売れると思っています。広告だと伏せたほうが販売効果が高いと考えている、"思い込んでいる"と言ってもいいかもしれない。消費者は、インフルエンサーの選択を信じて物を買っているので、消費者自身が選択肢を無くしているのと同じで、実は、インフルエンサーが体験していなかったし、本当はいいと思っていなかった、というのは、消費者にとっては、だまされて誤認して購入したということになってしまいます。経済的なダメージと、精神的なダメージのダブルの痛みが生じることになります。ステマは、SNSマーケティングの信頼性を揺るがす行為で重く受け止めている。

検討会で明確化されたステマの問題点

検討会では、一部非公開だったが、広告主やPR会社など関係する企業へのヒアリングが行われた。

河野消費者担当大臣と意見交換する「はじめしゃちょー」さん

動画投稿サイトで人気のインフルエンサー「はじめしゃちょー」さんへのヒアリングも行われた。

はじめしゃちょーさん

視聴数やフォロワーが増えてきたり、再生数が安定してきてから企業からのタイアップを頂くようになりました。「PR」の表示をしなければならないなど決まりがありますが、基本的には所属事務所の担当者に相談し、決まり事だけ決めていただいて、それにしたがって仕事を受けたり、タイアップ動画の制作に取り組んでいます。

一方、ステマについて「はじめしゃちょー」さんは…。

はじめしゃちょーさん

クリエイター自体もあまりステルスマーケティングというものの何が悪いのか、何をしたらステマになるのか、あまり深く理解されていない人も多いように感じています。

消費者庁は、ステマがもたらす害悪について次のように指摘している。

①消費者をだます行為であること

「企業の広告」と明示した場合、明示しない場合と比べて購買率が落ちることが知られており、消費者は「企業の広告」よりも「口コミ」に信ぴょう性を感じる傾向があるという。そのため企業の広告と分かっていれば注意深く見聞きすることでも、例えば著名なインフルエンサーによる自発的な発信と錯覚した場合、好意的に受け止めてしまうため、消費者は商品やサービスについて正しい判断ができなくなる。
取引にかかわる当事者か、それとも第3者かで信ぴょう性が変わってくるが、ステマはそれをゆがめる。

②商品やサービスの健全な競争や発展を阻害すること

例えば広告主から何らかの対価と引き換えに「高評価と付けてほしい。その際、広告主から依頼があったことは伏せておいてほしい」と依頼され高評価を付けたとしても、それは正常な評価=レビューではなく、対価によって買収された評価である。そのため粗悪品が高評価と表示されてしまうことは、よりよい商品やサービスづくりの競争や発展を阻害することにつながる。
「不正レビュー」のような表示を偽る行為は、消費者の商品選択をゆがめるだけでなく、本来公正であるべき環境を破壊する。そして、不当表示が横行すれば、広告表示全体の信頼性が失われる。まさに「悪貨は良貨を駆逐する」状態となる。

欧米ではステマ規制の動き

検討会では、アメリカやドイツといったOECD=経済協力開発機構に加盟する名目GDPが上位の9か国中、ステマの規制がないのは日本だけだということも報告された。

<ステマを規制する法律など>
▽EU
「不公正取引方法指令」で、不公正となる取引方法を記載したブラックリストがあり、ステマも対象になっている。

「デジタルサービス法」では、提供されている情報が広告であることを明確に示すことなどを規定している。

▽アメリカ
「連邦取引委員会法」では、不公正または欺まん的な行為を違法としていて、広く包括的にステマの規制が行われている。

報告書「ステマを禁止行為に指定すること妥当」

これらステマの問題点を踏まえ、報告書には以下が記載された。

▽景品表示法にステマを追加

景品表示法の不当表示の対象に「消費者が事業者=広告主の表示であることを判別することが困難であると認められるもの」というステマに該当する内容を新たに加え「禁止行為として指定することが妥当」とした。

▽規制の対象はすべての媒体

規制の対象となる媒体は、ネットやテレビ、新聞といったすべての媒体とした。

▽広告と分かる表示を求めた

消費者に広告かどうかを明確に表示するために、例えば「広告」「宣伝」「PR」などといった表示も求めた。表示が周りの文字と比較して小さく表記されるなど不明瞭な場合は「禁止行為」に該当すると示した。

法律によって実際にステマが規制されるのは、2023年度以降になる見通しだ。

規制への受け止めは

規制はどう受け止めれられているのか。

大手企業などが加盟する広告主の業界団体は、「公正な競争の実現につながる」などとして報告書を評価した。

(業界団体「日本アドバタイザーズ協会」鈴木信二 専務理事)
「インターネットの普及などによって若者の購買行動が大きく変化する中で、口コミによるマーケティングは、重要な宣伝方法となっている。ステルスマーケティングへの取り締まりの強化など検討会の提言に沿った対策を進めてもらい公正な競争が実現することに期待している」

一方で、課題点も指摘した。

(業界団体「日本アドバタイザーズ協会」鈴木信二 専務理事)
「悪質なブローカーなど中間事業者によって広告主が把握できない場面でステルスマーケティングが行われるおそれがあるため、そうした事業者への規制もさらに議論を深めてもらいたい」

ステマ撲滅に向けた研修会にも取り組む

SNSマーケティング会社の福田晃一社長は、業界の健全化への第一歩だと話した。

福田社長

ひとつルールができることで信頼性を担保していける、業界の健全性に寄与する一歩かなと思います。規制をきっかけに、広告主側は"自覚"を持つことが、インフルエンサー側は"自立"することが求められることになります。さらに、消費者にもルールができることをしっかり周知して、ステマとは何かを理解してもらうことによって社会全体で監視する、抑止力となることが非常に重要なポイントだと思います。

一方、インフルエンサーも規制を、前向きに受け止めていた。

インフルエンサー女性

あいまいになっている状況をきちんとルール化してもらえることは、企業側もインフルエンサー側にとっても非常にいいことだと思います。どうしても企業側の立場が上になって、依頼されたら投稿しないといけないという気持ちになるインフルエンサーも多いと思うので、しっかりルール化、整備してもらうことでインフルエンサーが守られるので、すごくいいことだと思います。

残された課題

ただ、今回示された規制案で、すべてのステマに対応できるのかと言えば、まだ不十分な点もある。

どんな課題が残されているのか。

まずは「行政措置の対象」だ。

ステマは広告主だけでなく、場合によっては、不正レビューなどを募集する悪質な『仲介事業者』が中心となって実施している場合がある。
中には、広告主が把握できないまま、ステマが行われていることもある。

しかし、現行の景品表示法では行政措置の対象は「広告主」のみ。

そのため「広告主だけを規制しても、不当な表示をなくすことはできないのではないか」と懸念されている。

報告書では、ステマを解決するために必要性が求められれば、規制の対象範囲を「広告主だけでなく、仲介事業者やインフルエンサーまで拡大するよう検討すべき」など、現行の景品表示法の見直しも含めた更なる規制が必要となってくるなどと提案している。

「不正レビュー」についてはどうか。

検討会では「不正レビューの募集がSNSなどで公然と行われ、ECサイトやグルメサイトなどでは不正レビューが行われている実態がある」という調査結果が報告され、「不正レビューによって低品質商品の需要が増える結果、高品質商品の購買機会が奪われる」といった、消費者に対する「被害」についても報告された。

報告書をうけて消費者庁が公表した規制の運用基準では「事業者=広告主が表示内容の決定に関与したと認められる場合」に規制の対象となるとしている。

不正レビューに関して言えば、例えば、
「ECサイトに出店している広告主が商品の購入者に依頼してECサイト上でレビューさせた場合」や「広告主が別の事業者に依頼して競合相手の商品やサービスに対して低い評価を表示させる場合」などが、広告主が表示内容の決定に関与したことに該当する。

一方で、第3者が、事業者の商品やサービスについて、うそのレビューを書いたとしても、自主的な表示だった場合は、広告主が表示内容の決定に関与したとはされず、規制の対象外となる。

報告書では、今後の対応について「法執行だけでなく、不当表示の未然防止の取組として、官民、民民が協力・連携していくことが必要。例えば、不正レビュー等をSNS上で募集するブローカーに対して、消費者庁が民間事業者間のハブとなって、当該プラットフォーム提供者に対して不正レビューに関する投稿の削除要請をするといった対応が必要」などとまとめられた。

検討会の委員のひとりで、マーケティングなどが専門の立命館大学・菊盛真衣准教授は、見直しを想定した対策とさらなる自主規制の必要性を指摘している。

(立命館大学 菊盛真衣 准教授)
「規制ができると“抜け穴”をついてくるおそれがあるためアップデートが不可欠だ。また、広告主だけでなく、SNSのプラットフォーム企業などによる自主規制も求められる。消費者も合理的な選択するためにステマに関する知識をさらに身につけいく必要がある」

さらなる充実を

消費者にとって、商品やサービス選択の重要な判断材料となっている「口コミ」。

新しいSNSが登場するたび、それを活用した宣伝手法が編み出され、「口コミ」の形態も多様化してきた。

国がステマ規制に動きだすことで、消費者の「口コミ」に対する向き合い方の変化にも注目していきたい。

報道局 科学文化部
島田尚朗
科学文化部 記者
植田 祐
科学文化部 記者
秋山 度

情報・ご意見をお寄せください >>