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漫画村 容疑者との一問一答

2019年7月9日

人気漫画をインターネット上に無断で掲載していたとして大きな社会問題となった海賊版サイトの「漫画村」。その運営者だったとされる星野路実容疑者がフィリピンで身柄を拘束され、日本の警察が著作権法違反の疑いで逮捕状を取った。私たちは、漫画村が大きく世間を騒がせていた去年4月、本人に電話で取材を行っていた。

ネットワーク報道部記者 田辺幹夫

電話に出た漫画村の関係者

私たちが取材を行ったのは、2018年4月上旬。ちょうど漫画村のサイトが接続できなくなったタイミングだった。複数の取材先から入手していた星野容疑者の携帯電話の番号に電話をかけた。

「もしもーし」

聞こえてきたのは若い男性の声。

何度か名前を確認したが、本人だと話した。

NHKの記者を名乗り、話を聞かせてほしいと伝えた。

すると、少し早口だったが、落ち着いた声で、「明日に折り返し、もしくはもう一回、電話もらうのって可能ですか?」と返してきた。

それ以上、話を聞くことはできなかったが、翌日に電話する約束をした。

漫画村は知っているか

翌日の電話では、いきなり質問をぶつけた。
(記者)漫画村というサイトをご存じですか?

(星野)ああ、そうですね、知っていますね。
漫画村と何らかの関わりがあるのか確かめたいと伝えると、とりあえず質問を聞いて、3日後に折り返したいと答えた。

私たちは、以下の質問を伝えた。

▽サイトの運営者かどうか、▽運営者ならサイトを始めた時期や理由、運営している場所、人数など、サイト運営の実態について、▽無断で掲載されている作品の削除の申し立てなどにどのように対処しているか。

Y社のサイトを見てもらいたい

メモを取りながら冷静に聞いている気配だったが、質問を伝えたあと、やや唐突にこんなことを切り出した。
(星野)Y社(仮名)ってあるじゃないですか。そこのサイトを見てもらえると。
Y社は、漫画村のサイトのドメイン取得の登録者としてネット上に名前が残されていた会社だった。取材班でも把握し、漫画村となんらかの関係がある可能性があるのではないかと考えていた会社だ。
(記者)そこを見れば、漫画村について書かれているのですか?

(星野)いや、そういうのは一切書かれていないですね。
少し会話がかみ合わない感じだったが、そのY社のサイトの過去の記録を見ればわかると繰り返した。

自分で『やった』という人はいない

やり取りが一段落したあと、つぶやくように話し始めた。
(星野)あんまり、意味ないのかなあと思っていて。

(記者)と、おっしゃいますと?

(星野)もし仮に自分がやっていたとしても、自分がやっているっていう人はいないんじゃないんですか。殺人犯に、「あなた殺しました?」って聞いても、「いや、違いますよ」って言うと思うんですよね。なんで、正直意味ないっていうか。
しかし、こうして電話に出たからには、何か伝えようとしているのではないかと考え、私たちは3日後に、改めて電話することを約束した。
投げかけた質問に答えてくれるだろうか。

3度目の電話では、星野容疑者は次のように話し始めた。
(星野)この前、言ったとおりなんですけども、仮にやってても、嘘ついて「絶対やってない」って言うと、意味ない、っていうのが答えだったんですけども、あれじゃダメだったんですかね。

あなたは漫画村の運営者ですか?

はぐらかされるのではないかと感じた私は、漫画村の運営者かどうか、率直に聞いた。
(記者)あなたが漫画村の運営者かという質問に対してはどうですか。

(星野)違います。
漫画村の運営者であることはすぐに否定した。

そこで、前回の電話で話していたY社について尋ねることにした。

Y社のホームページを確認すると、過去のある時期、「動画サイトの開発を担当している」など、プログラム開発を行うという業務内容や連絡先のメールアドレスが書かれていた。しかし、漫画村に直接つながるような情報は、何も書かれていないように思えた。
(記者)この前、電話で話していたY社はあなたの会社ですか。

(星野)自分のではないです。

(記者)会社を立ち上げたと、前回、電話でおっしゃってたんですが、それも違うっていうことですか。

(星野)代表っていう意味ですか?代表ではないですね。

(記者)何か、別の形で関係があったということですか。

(星野)あなたに言う話でもないと思うんで。
Y社について詳しく聞こうと思っていたが、話をはぐらかされた。

Y社の内部については知っている

漫画村とY社に関しては、確認したいことがあった。私たちは、ネット上で、匿名の人物によるY社と漫画村についての非常に詳しい書き込みを見つけていた。そこには「漫画村に関して出版社などから削除の申立てが来てない」という話が書かれていた。その書き込みを書いたのは、漫画村の内部に詳しい人物だと私たちは考えていた。
(記者)これは、あなたが書いたものですか。

(星野)そっすね。

(記者)そうすると、非常に詳しくY社のことについて書いてあって、漫画村に関して問い合せが来てないことを知っているのはY社の方じゃないとわからないと思うんです。

(星野)そっすよね。

(記者)なので普通に考えると、あなたがY社の『中の人』というふうに考えられるんですが、どうでしょうか。

(星野)内部は知ってるんじゃないですか。

(記者)Y社のどういう立場なんでしょうか。普通、管理人かなと思うんですが。

(星野)いや、違いますね。

(記者)Y社に関わってる1人ということは認められました。

(星野)はい、どこまで関わってるかはあれなんですけど。

(記者)どこまで関わっているんですか?

(星野)言いたくないです。

(記者)漫画村は以前、Y社の名前でサイトの情報が登録されていました。そうすると、間接的か直接かはわかりませんが、あなたの関わっているY社が、結果的に漫画村に関わってることになりますが、どう思いますか?

(星野)さっきも言ったんですけど、どうも思ってないですね。

(記者)Y社は、漫画村を使って、何らかの収益を上げてる可能性があると思っています。

(星野)Y社自体がそれやってるわけじゃないんで。

(記者)Y社自体ではない?

(星野)そっすね、代理店。

(記者)結局、何をしてるんですか、Y社は。

(星野)広告代理店とか、プログラム開発とかですね。
星野容疑者は、Y社は、漫画村に関連して、広告の代理店やプログラム開発などの、役割を担っていると話した。
(記者)もう1度、はっきりと伺いたいんですが、あなた自身は漫画村の運営者ですか。

(星野)違いますね。

(記者)管理している人とか、運営者をご存じですか。

(星野)ちょっと答えられないですね。

(記者)それは知ってるけど答えられないということですか。それとも、知らないということですか。
(星野)答えられないですね。
取材は、合計3回、1時間余りに及んだ。星野容疑者は、漫画村のサイトに関連して、プログラム開発などを担うとする会社の関係者だと認めた。一方で、みずからが漫画村の運営者であることは否定した。

警察のこれまでの調べで、星野容疑者は、サイトの運営に中心的に関わっていたとみられている。星野容疑者は、フィリピンの入国管理局が滞在中の行動について確認したうえで日本に移送される見通しで、警察は、日本に到着したあと著作権法違反の疑いで逮捕する方針だ。

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