コロナ禍で急増!オンラインサロンにハマる人たち
2021年3月31日
今、ネット上の有料会員コミュニティー「オンラインサロン」に入会する人が急増している。コロナ禍で失われた、人とのつながりを得られる新たな「居場所」となる一方、サロン内の閉じた世界ゆえに「まるで宗教のようだ」と指摘する声もある。何が多くの人々をひきつけているのか?危険はないのか?実情に迫った。
(追跡!オンラインサロン取材班 田隈佑紀、秋山度、中松謙介、上田ひかり)
コロナ禍 「助けて」と言える人がいない
「本気で弱音がはける。ありがたい場所です」
大手人材サービスの会社に勤め、千葉県で妻と2歳の娘と暮らす櫻井諒さん(37)。
実業家が主催するものなど3つのオンラインサロンを掛け持ちしている。
オンラインサロンとは、インターネットを利用した有料の会員制コミュニティー。趣味のサークルや実用的なスキルを学べるものなど、多くが月額数千円程度を支払い、実名で参加する。
サロン内部のことは原則公表しないのがルールで、ここでしか知りえない情報を得られたり、地域の垣根を越えて参加者どうしで交流できたりするとして人気が集まっている。
「ホリエモンこと堀江貴文氏や、キングコングの西野亮廣氏など著名人のほか、最近では顧客などとつながる場にしようと、大企業や自治体も参入し、数千人から数万人の会員がいるサロンもある。
コロナ禍でリアルな活動が制限される中で、新たなサロンの開設が相次ぐ。
オンラインサロンのシステムを提供している国内の大手プラットフォーム2社によると、オンラインサロンの会員数はおよそ16万8000人とコロナ禍の1年間で1.8倍に増加した。
櫻井さんがオンラインサロンに入るきっかけとなったのは、新型コロナの影響だった。
「この先、会社や世の中がどう変わっていくのかと不安に襲われたとき、ふと自分には『誰か助けて』と言える相手もいないんだなって気が付きました。妻に言っても心配させてしまうかもしれないし、職場内で軽々しく相談できるような話でもない気がして」
家族や職場の同僚は、関係性が近いからこそ弱音や本当の悩みを打ち明けにくい。
不安を抱える中、人とつながれる場所を求めて入ったのが、著作のファンだったという実業家が開いている書籍の企画などを考えるオンラインサロンだった。
否定されない安心感
誰でも投稿できるSNSは自由な一方で、否定的なことばが飛び交い、時に人を追い込んでいく。
櫻井さんは、クローズドな環境で価値観の近い人たちとつながれるオンラインサロンに大きな魅力を感じたという。
「なんともいえない安心感があります。自分が何を言ったとしても、否定されるとか、自分が不利益を感じることはないというコミュニティは価値が高いと感じます」
閉ざされたサロン内の人間関係を円滑にするためにも「まずは相手の言うことを受け入れ、否定しない」というのが暗黙のルールとなっているサロンは多い。
自分を肯定してくれる場を得たことで、櫻井さんは自信を持って職場で立ち振る舞えるようにもなったという。
コロナ禍で抱えた不安もなくなっていった。
櫻井諒さん
「家庭と職場という居場所のほかに、やっぱそれ言えないよねっていう話ができる場があるのは、すごくありがたいなと思います。想像以上に普通に友達ができました。今あの時のような不安を抱えて「助けて」と言うとしたら、間違いなくサロンメンバーですね」
学校中退した少女、サロンに居場所
オンラインサロンが大きく人生に影響を与える場合もある。
「オンラインサロンで人生変わった」そう話す18歳の女性と出会った。
秋田県に住む、さとみさん。
通っていた地元の高等専門学校を中退し、現在はオンラインサロンに居場所を見いだしている。
学校では特別つらいことがあったわけではなかったが、授業や周囲の雰囲気になじめず、夢中になれることも見つけられなくて、辞めることばかり考えていたという。
さとみさん
「学校は『つまらない』のひと言。あしたも同じ日になるんだなって、同じ道を毎日同じ時間に同じことを思って帰る。同じ明日になるのが不安でした」
そんな中で出会ったのが、インターネットで見つけたのが堀江貴文さんの動画。
退学を決意する後押しとなった。
さとみさん
「ホリエモンが『学校なんて行く意味ない』みたいなことを言っていて、確かにそうだと思って。その人がオンラインサロンをやっていたので、辞めてもそういうコミュニティーがあるなら大丈夫だろうと思いました」
学校や周囲の人には最後まで反対された。
さとみさん
「地元の周りの大人は100%反対でした。誰にも気持ちを理解されないことがつらかったし、最後には誰にも相談したくなくなっていました」
退学後、貯めたアルバイト代で堀江貴文さんが主催するオンラインサロンに入会。
参加したイベントで初めて自分を理解してくれる大人に出会えたと感じたという。
さとみさん
「どうせ理解されないだろうと思って、それまでずっと周りに学校をやめたことを言えなくて。でもここにいる人だから言ってみようと思って『学校辞めたんです』って言ったら『いいじゃん!』って言われて。えっ!そんなこという大人いるの?みたいな。本当に衝撃でした」
現在は、このイベントで知り合ったメンバーが主催するスノーボード好き30人ほどが集まるオンラインサロンに入会。
年代も住む地域も異なる参加者とオンライン上で話したり、実際に会ったりして交流する時間は世界が広がり刺激的だという。
時には生き方についてのアドバイスも求める。
さとみさん
「苦しいことを経験しないで楽しいことばっかりやってたらよくないんじゃないかって言われて…今の私みたいな生活ってよくないんですかね?」
サロンオーナー 名取崇文さん
「僕の経験上で言えば、楽しいことをずっとやろうと思ったら、結果的に苦労もついてきた。だから昔ながらの『苦労は買ってでもしろ』とか『つらい仕事をしろ』とか、そういう苦労は違うんじゃないかな」
さとみさん
「安心しました。このサロンに入れて本当に幸せです。ありがとうございます」
そう言って、心からの笑顔を浮かべた。
父親が営む中華料理店の手伝いをしながら「考えを発信していったほうがいい」というサロンオーナーからのアドバイスをもとに、ブログを書く日々を過ごす。
オンラインサロンの魅力を同世代に発信しながら、夢中になれることを見つけていきたいという。
娘に 母親は…
最後まで退学には反対していた母親のきはるさんにも話を聞いた。
以前より娘の表情が明るくなったと感じる一方で、オンラインサロンとの向き合い方や、将来については心配な部分もあるという。
「自分を肯定してくれる人ばっかりの中にいても居心地はいいかもしれないけど、やっぱり世の中っていろんな人がいるから。もっといろんなものを見てほしい」
さとみさん
「嫌いな人とずっとつきあっていくってこと?」
隣で聞いていたさとみさんが反論した。
親子のやり取りは徐々に熱を帯び、価値観の違いは際立っていった。 母・きはるさん
「今のサロンはきっと同じような考えで、同じような楽しみがあってすごく楽しい場所だと思うのね。だけど、人生ずっと長いでしょ。そういうところにずっといられるわけじゃないでしょ」
さとみさん
「そこで生活しているわけじゃないじゃん。ほかに生活があってやっているわけじゃん」
母・きはるさん
「たとえばアルバイト、この間、途中でやめちゃったでしょ。それがママからは逃げに見えた。だからそういう嫌なことがあったときに、そっちに逃げちゃう感じがしたの」
さとみさん
「それの何がダメなの?」
母・きはるさん
「そういう嫌なことも続けなくちゃいけないことってあるから。やっぱり訓練していないとできないから」
さとみさん
「ちゃんとやりたいことが見つかったら続けるよ。なんか古い考え方だなと思う。一生理解し合えないなって。私が思っていることを理解してくれる人たちのようになりたいから。オンラインサロンで出会った人たちみたいに」
「異なる価値観の人ともつきあわないと社会で生きていけない」と、周囲は心配する。
そうした中でも、自分の信じる幸せの中で楽しく生きていきたい。
オンラインサロンを通じて交友関係やコミュニティの選択肢が広がり、より自分らしい生き方を選ぼうとする、現代の若い人たちの思いも感じられた。
オーナー「誰よりも弱さを出す」
多くの人々を引き付け、時に人生に大きな影響を与えるオンラインサロン。
オーナーはいったいどのような人たちなのか。
去年5月に婚活中の女性の自己肯定感を高めることを目的としたサロンを開設した吉乃菜穂さんに話を聞いた。
吉乃さんの運営する「溺愛女子サロン」は月額5500円、20代から50代まで女性限定で460人余りが参加し、吉乃さんに悩みを直接相談し、同じ悩みを抱える人どうしが交流する。
オーナーとして心がけていることを聞くと、誰よりもオーナー自身が本音や弱い部分をさらけ出すことが大事だと話した。
サロンオーナー 吉乃菜穂さん
「私が全部、自分のダメな部分とか本音で話すから、この場所は言いづらいことも話して大丈夫なんだって思ってもらえると思うんですね。全然『みんなを率いていくぞ』みたいな感じじゃないんですよね。『できない、どうしよう』と言うと、それを見て周りが動いて助けてくれる。自分を『リーダー』とは思ってません」
本音をさらけ出せる空気を作って交流が活発になり、できないことを伝えるとメンバーが自主的に動いていく。
メンバーがサロン内の活動を通じて自分に自信を得たことで、婚活がうまくいく実例も出ているという。
宗教では?の問いに…
その一方、オンラインサロンの特性として、ごく少数の人だとしながら、ハマりすぎる危うさもあるという。
サロンオーナー 吉乃菜穂さん
「結構簡単に承認欲求とかも得られて、のめり込みすぎちゃう人もいるんですよね。日常生活がおろそかになるくらい、サロンに参加することがいいことだって思う人がいて、生活が破綻しちゃうんですよ。入り込みすぎちゃうのは危険かなと思います」
ハマりすぎて一つの価値観が絶対的になるのではないかとして、世の中ではオンラインサロンを「宗教」のようだという見方もある。
吉乃さんはその見方自体は否定しない。
サロンオーナー 吉乃菜穂さん
「目的は、その人が生きやすくなったり、人生がよくなることだから、宗教って言われても、それぐらい影響したんだって思うようにしています。昔は宗教って言われると嫌だったんですけど、今は逆にそれぐらい活用してくれてうれしいなって思ってます」
「オンラインとリアルの両軸」
コロナ禍の居場所、コミュニティーの選択肢を広げているオンラインサロン。どのように向き合っていけばいいのかも聞いた。
サロンオーナー 吉乃菜穂さん
「オンラインサロンの中だけでは幸せになれない。サロンに入って行動変容して、実生活に生かせて、価値観が違う人にもちゃんと自己主張をできるようになっていかないと。だから両軸ですよね、オンラインとリアルと。サロンメンバーには閉じた世界でしか存在価値が得られないという風にはなってほしくないし、そうならないように気を付けてはいるんですけど」
急拡大の裏でトラブル相談増加
オンラインサロンの利用が広がる一方、トラブルの相談も増えている。
全国の消費生活センターなどに寄せられた相談は、今年度少なくとも180件ほどにのぼり、前の年から急増している。
SNSなどで表示された広告をきっかけにオンラインサロンに参加している人も目立つという。
トラブルの中には、
▽月額2万円で資産形成について学べると聞いて入会したが、思った内容ではなかったため、途中退会を申し出たところ「1年契約だ」と言われてやめられなかった。
▽有名企業の元社員から経営術を学べると聞いて入会したところ経歴がウソだと分かり、返金を求めたが一部しか応じてくれなかった、などのケースがあったという。
投稿フォームに情報相次ぐ
トラブルの相談が増加していることを知り、私たちはホームページで具体的な体験談について情報を募集。
すると次々に投稿が寄せられた。
・「サロン内で講演会のボランティア募集に応じたら参加費を取られた」
・「動画編集の無料労働をさせられた」
・「コロナ禍の不安に便乗して『金融危機が起きる』などと真偽不明の話を繰り返して詐欺まがいの行為を行っている」
また、サロン運営者が会員に対して暗号資産を使った投資を積極的に勧めてきたにもかかわらず、出資金がほとんど戻ってこないことが分かると「投資は自己責任」などと説明したという投稿もあった。
「洗脳状態だった」悪用されるオンラインサロン
私たちは、投稿してくれた人に連絡を取り、ひとつひとつ情報を確認していった。
その中でオンラインサロンを入り口に「洗脳状態だった」と話す20代の女性に会い、詳しく話を聞くことができた。
20代の女性、田中さん(仮名)は、上京した社会人1年目のとき街コンをきっかけに出会った人物から「起業について学べる」と、オンラインサロンに勧誘された。
毎月1万1000円の会費がかかると聞いてちゅうちょしたが、著名人の名前を挙げて説得されたという。
『○○○や×××など、ビジネスで成功している人たちもオンラインサロンを開設していて、考え方を共有できる』実際に入ってみると、サロンの活動は「起業する際の協力者を増やす」という名目で、新しい会員を勧誘することが中心だったという。
サロンで求められる行動をとると、会員どうしのチャットやメールで称賛され、居心地のよさを感じるようになった。
さらに活動に専念するため職場や住む場所も変えるよう繰り返し勧められ、田中さんは転職もしたという。
田中さん(仮名)
「サロンでは少しのことでも他の会員が称賛してくれるので、承認欲求を満たしてくれた。気付いたら洗脳状態みたいになっていた」
そして、入会から3か月後、サロンを紹介した人物が経営する店で、15万円分の化粧品などを「自己投資」として購入するよう持ちかけられるようになった。
指定された商品以外のものを購入したいと田中さんが訴えても認めらなかったという。
サロンの在り方が当初の説明とは大きく違うことに不信感を抱き、その後、田中さんは退会した。
田中さん(仮名)
「そのとき初めて、いわゆるマルチ商法みたいなものなのかなっていう疑問が初めて湧きました」
事前説明と異なる実態か
田中さんが入っていたこのサロンに関わっていたという別の元会員の男性からも話を聞くことができた。
上野さん(30代男性・仮名)は、サロンは、以前は、大阪と東京を中心にマルチ商法を行っていたグループの一部が関わっていると、証言した。
そのグループには「大師匠」や「リーダー」などと呼ばれる複数の人物がいて、会員は数千人規模にのぼり、2年ほど前にオンラインサロンを立ち上げたと話した。
上野さん(仮名)
「今いろいろな著名人がオンラインサロンをやっているので、それに乗っかっていく形。オンラインサロンが『学べるコミュニティー』というイメージがあるので、入会のハードルが低くなる」
上野さんは、自己投資の名目で求められた月15万円の物品の購入などで200万円の借金を抱え、いまも返済が続いているという。
活動に違和感を感じ、現在はサロンを退会している上野さん。
まるで「マインドコントロール」のようだったと当時を振り返り、自分と同じような目に遭わないよう、グループの実態を多くの人に知ってもらいたいと話した。
このサロンについて投稿を寄せてくれた人たちへの取材で共通したのが「高額商品の購入」など当初説明と内容が大きく違ったという証言だ。
複数の元会員が、サロンに関係していると名前をあげた会社は、NHKの取材に対し、自分たちはシステムを提供しているプラットフォーマーであるとしたうえで、「登録されているサロンにおいて、ご指摘のような行為がなされているとすれば、利用規約に違反している可能性があり、違反の事実が確認された場合はしかるべき措置をとりたい」などと回答した。
抜け出せなくなる心理とは
なぜオンラインサロンから抜け出せなくなってしまうことがあるのか。
社会心理学が専門で悪質商法などにも詳しい立正大学の西田公昭教授は、入会するまで内部の情報が分からず、互いを肯定する傾向のあるオンラインサロンの特徴が悪用されているのではないかと指摘する。
立正大学 西田公昭教授
「参加者側からすると、オンラインサロンは、お互いを肯定し合う雰囲気がある中で批判的なことを言いだしづらい。たとえば、もうかると言われて会員になったけれど、『もうからないのは自分の努力が足りないせいだ』と思い込むようになってしまう。閉鎖空間なので外からもそういう状況が見えにくく、危険な側面もあることは知っておいたほうがいい」
トラブルに巻き込まれないために
取材したトラブルで共通していたのは以下の点だ。
<トラブル事例>
・事前の説明が十分に行われていなかった
・サロンの会費以外にも、さまざまな名目で追加の負担や投資などを求められた。
トラブルに巻き込まれないためにはどうすればいいのか、国民生活センターに聞いた。
<対策のポイント>
・トラブルに備えて電話番号や連絡先などの運営者情報、解約条件を確認しておく
・勧誘などを受けた際には文章など記録を残しておく
不安に感じたら、一人で抱え込まず、最寄りの消費生活センターなどに相談してもらいたいとしている。
オンラインサロンの可能性は
オンラインサロンを始めること自体は誰でも手軽にできる。つくることもできるし、参加することもできる。
家族や学校、職場だけでなく地域や世代をこえてつながる新しいコミュニティーが次々と誕生し、人と人とつなぐというサロンの役割はコロナ禍で大きく増している。
オンラインサロンとうまくつきあい、生かしていくにはどうすべきなのか。私たちが人とどんな関係を結び、どのような社会を作っていくか、オンラインサロンの可能性はまさにその姿勢にかかっている。