ネット公告の闇 ネット公告の闇

新型ウイルスでもネットに拡散 トレンドブログを追跡した

2020年3月12日

「○○容疑者のSNSを特定!!」「タレント○○の不倫相手は誰?」。
事件や事故、それに芸能人の不祥事などが起きた時、こんなタイトルのネット記事を見たことはありませんか?最近だと「新型コロナウイルス 感染者誰?」といった記事も目にするようになりました。
それらはきっと「トレンドブログ」と呼ばれるサイトです。広告の収入で月に100万円以上を稼ぎ出す人もいて、ビジネスとして注目を集める一方、掲載した記事が人権侵害につながるケースもあり、さまざまなトラブルも起きています。
一体、誰がどのように記事をつくっているのか、その実態を取材しました。
(ネットワーク報道部記者 管野彰彦)

匿名で書かれたブログ

トレンドブログと一口に言ってもそのジャンルは多岐にわたっています。事件や事故にかぎらず、芸能系のエンタメ情報やドラマにマンガの感想など、世の中で関心を集める出来事、つまり「トレンド」を扱っていることからトレンドブログと呼ばれています。

ここ数年で急激に広がり、何かをネットで検索すると、こうしたブログが上位に表示されることも珍しくありません。一度は見た事があるという人も少なくないと思います。

ですが、その多くはブログを隅々まで見ても、どういった人が作っているのか確認することはできません。つまり匿名で書かれています。

今回、私たちは複数のトレンドブログの関係者に接触し、その知られざる実態に迫りました。

誰でも気軽に ビジネスとして注目

そもそもなぜ、トレンドブログの運営に乗り出す人が多いのか?

アクセスを集めれば、大きな収入を得られる可能性があるからです。ブログには広告が貼られています。広告の種類はさまざまで、クリックの回数に応じて収入が入るものや、クリックした広告を通じて買い物をした場合に報酬が得られるものなどがあります。

ブログを簡単に作成できるサービスも登場し、場所や時間を選ばずに取り組めることから、最近では専業のネットビジネスとして、あるいは副業として多くの人が手がけるようになっています。

育児の合間に2500万円

中国地方に住む30代の女性もそうした1人です。結婚を機に派遣社員として勤めていた会社を退職。幼い子ども2人を育てながら、自宅でできる仕事を探していたところ、6年前、ブログの運営にたどりついたといいます。

今、女性が力を入れているのが、新商品や話題の家電を紹介するブログです。

運営者の女性
「これまでさまざまなジャンルのブログを書いてきましたが、主婦の視点で考えた時に、調理家電や美容家電などの情報は需要が高いと思い、このジャンルを選びました」

ブログの作成や運営の方法は独学です。家電の商品名とともに、ネットで検索されているキーワードを記事の中にちりばめることで、検索からのアクセスを集めやすくしているといいます。

ネット上の口コミを集めて商品のよしあしを紹介。反応がいいものは、みずから商品を購入し、実際に試した感想も追加します。

記事には商品を販売しているサイトの広告リンクなどが貼られ、閲覧した人が実際に商品を購入すると、一定の金額が女性の収入として入る仕組みです。

最高で年収約2500万円。今も多い時で月に100万円ほどの収入があるといいます。

運営者の女性
「今では子どもが1人増えて3人になりました。自由が利くので、子どもの授業参観に参加したり、病気をした時にも対応できたりと、この仕事を選んで本当によかったと思っています。世の中の需要に応えるジャンルを選べば、まだまだ稼ぐ余地は大きいと思います」

ブログ売買も活況

トレンドブログをめぐるビジネス。運営して収入を上げるだけでなく、実はブログそのものが取り引きの対象にもなっています。

東京 港区の企業が手がけるインターネットのサイト売買を仲介するサービス「サイトマ」。

サービス開始から4年間で成立した売買は100件を超え、トレンドブログがその約4割を占めるといいいます。トレンドブログの売買金額は平均で約300万円、なかには1000万円を超えるものもあるといいます。

売り出し中のサイトが紹介されたホームページを見ると、売り主側の希望価格に加え、月の売上金額や営業利益、それにPV数といった実績が並んでいます。

購入希望者はこうした情報を基に買いたいサイトを選びますが、最近は主婦や70代の高齢者が買っていくケースもあるといいます。

この会社では弁護士に依頼して、サイトの内容をチェックしたうえで、売買されるサイトを選別しているといいます。

運営会社 中島優太社長
中島社長
「副業を考えている会社員や主婦など、さまざまな人がビジネスとしてのブログ運営に興味を持つようになってきました。ただ、一からブログを作り上げるのは大変ですし、ある程度の収益を確保するには、半年から1年くらいはかかります。そのため、すでに高い収益を上げているブログは需要が高く、高値で取り引きされています」

深刻な人権侵害も

元手がほとんどかからずに始められる手軽さも受け、多くの人が始めるようになったトレンドブログ。

最近では新型コロナウイルスに関する情報を取り上げたブログが数多く登場しています。しかし、なかには感染者を特定しようとする記事や、不確かな情報を拡散するなど、問題点があると考えられるものも含まれています。

実はトレンドブログの一部では、以前から法律違反や深刻な人権侵害を引き起こすケースが少なくありませんでした。

象徴的な出来事が去年8月、茨城県の常磐自動車道で、あおり運転をしたうえ男性を殴ってけがをさせたとして、男が逮捕された事件です。

事件の映像が報道されると、男と一緒にいた女に関する情報がネット上を駆け巡りました。女だとする人物の名前や会社名が次々とトレンドブログに掲載され、SNSを通じて拡散していきました。

ところが掲載された女性は、事件と全く関わりのない別人だったのです。一度、ネットに流れた情報を止めることはできません。女性のもとには無言電話や1000件を超えるダイレクトメッセージが殺到しました。

間違われた女性
「朝起きると、私の実名と顔写真がネット上に流れていて、何が起きたのか分かりませんでした。なぜこうなったのかも分からず、ただ恐怖でした」

女性は記者会見を開いて、情報はデマだと主張。悪質なサイトやSNSで拡散した個人を裁判で訴えることを検討するなど、生活は一変しました。

なぜやった?

今回、私たちが取材したなかにも、女性の実名をブログの記事に掲載し、拡散に関わった人物がいました。

東海地方に住む30代の男性です。5年前からトレンドブログを運営しているという男性。男性が運営しているのは、事件や事故の情報をいち早くネット上から集めて記事にする速報系のブログでした。

事件を取り上げた記事には、女性の実名とともに「人違いの可能性も」と書かれています。

しかし、人違いであれば、名前を伏せるべきではないのか。そう男性を問いただしました。

すると、男性は「そうかもしれませんが、その時はアクセスほしさに名前を出してしまいました。やり方としては汚い部類になるとは思います」と当時を振り返りました。

男性のブログにも広告が貼られています。広告がクリックされた回数に応じて収入が入る仕組みです。一般的にこうした広告をクリックする人の割合は、記事を閲覧した100人に1人程度。そのため、収入を上げるにはアクセス数を増やすことが欠かせません。

男性は以前、勤めていた会社で仕事中に脳梗塞を発症。退職後、自宅でできる仕事としてブログ運営の道を選んだと言います。

しかし、アクセスは伸び悩み、かつて月に10万円近かった広告収入も最近では3万円ほどに低迷。そうした焦りもあり、実名を出してしまったと、話しました。

運営者の男性
「ネットで検索されているキーワードをタイトルに入れないとアクセスは望めません。どうしても稼ぎたいという気持ちが先行してしまって、相手のことを考えずに書いてしまいました」。

名誉毀損などで賠償責任も

トレンドブログのなかには、この事件にかぎらず、容疑者のSNSだとするアカウントを割り出して、顔写真や勤務先を掲載している記事や、過激な言葉で興味をかき立てるような記事も多く存在します。

ネットトラブルに詳しい深澤諭史弁護士は、こうした記事には法的に問題があるものも多くあるとして、名誉毀損に該当する可能性について次のように指摘しています。

深澤諭史弁護士
「無関係の人をひぼう中傷するなどして、相手の社会的地位を低下させた場合、名誉毀損として賠償責任を問われるケースがあります。また、仮に本当のことだったとしても公共性や公益性などがないと判断されれば、名誉毀損と判断されることがあります。これは記事を書いた人だけでなく、その記事をSNSでシェアしたりリツイートした場合も同じです。また、個人の情報をむやみに記事で公開するとプライバシー権侵害と判断されることもあります」

どう向き合う?

取材をしていくと、こうした法的な問題に対する正しい知識がないままアクセスを稼ごうと、より刺激的な内容に手を出していくトレンドブログの運営者がいる実態が見えてきました。

トレンドブログの中には正しい知識や経験を基に書かれ、読んで参考になるものもある一方で、誤った情報を拡散し、深刻な被害を生み出してもいます。

ネットにあふれるさまざまな情報にどう向き合っていくのか。わたしたち一人一人が、情報を見極める力を養っていくことも求められています。

ネットワーク報道部記者
管野彰彦

情報・ご意見をお寄せください >>