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追跡!謎の“現金プレゼント”

2020年3月4日

今、謎の「現金プレゼント」の企画がSNSに次々と登場している。本当にお金はもらえるのか。企画者の身元がよくわからない約50の企画アカウントをフォロー、追跡した。(ネットワーク報道部 記者 田隈 佑紀・ディレクター 中松 謙介)

SNSで乱立“現金プレゼント企画”

「1億円をばらまきます」「100万円を50名様にプレゼント」

現金をプレゼントするとうたった企画が、ツイッターなどのSNSに数多く見られる。

山のように積まれた札束の動画と共に投稿されているものもある。その数は、確認できるだけでも150を超える。応募の条件は、多くがアカウントのフォローやリツイートのみだ。数万のフォロワーを集めているものもあり、多くの人が現金を求めて応募しているようだ。

若者は「デメリットない」

実際に街頭で若い人たちに聞いてみると、応募したことがあるという人はすぐに見つかり、多くが軽い気持ちで応募していると、話した。

「50回以上応募しました。お金ほしいし、簡単に応募できるから」(女性)

「フォローとリツイートだけなら、デメリットはないかなと思って」(男性)

応募してみた

こうした現金のプレゼント企画が、SNSに数多く出現しているのは、ファッション大手、ZOZOの前社長、前澤友作氏が去年とことしの正月に行った現金プレゼント企画の影響があるとみられる。実際に「前澤さんに便乗した」などと書いた投稿も散見される。前澤氏の企画では当選した人が相次ぎ、大きな話題となった。

しかし、ツイッター上に次々と登場している現金プレゼントの投稿には、前澤氏の企画と違い、企画者が誰なのか、アカウントのプロフィール欄や投稿を見てもその身元がはっきり分からないものが多い。本当に現金はもらえるのか。うそではないのか。試しにそうしたプレゼント企画に応募してみることにした。

フォロワーが増え、DMが届き始めた

応募したのは、約50のツイッターアカウントの企画。応募のためにアカウントをフォローしたところ、数日して、別の現金プレゼントや投資、副業の勧誘のアカウントから次々とフォローされるようになり、ダイレクトメッセージも届くようになった。

お金をだまし取られたという高校生

50のアカウントをフォローしてしばらくたったころ。ネット上で、あるツイートを見つけた。

私たちがフォローしていたある1つのアカウントに「お金をだまし取られた」と訴える投稿だった。この投稿者に会って話を聞くことができた。18歳で高校3年生のかんなさん(仮名)。

かんなさんは、4月から就職しひとり暮らしを始めるために生活費などのまとまったお金が必要で、アルバイトでは足りず、どうしてもお金が欲しくて応募したと話した。応募したのは「ダーウィン社長」というアカウントで、10万を超えるフォロワーがいた。

かんなさん
「周りの友だちもフォローしていたので大丈夫かなと思っていました」

応募してすぐ「当選した」という連絡が、ダイレクトメッセージで届いた。そして、当選金の振り込み手続きに必要だとして、アプリをダウンロードするように指示があった。クレジットカード決済の機能の付いた、事前審査や年齢制限がなく使えるアプリだった。

相手は振り込みのために必要だとして、カード番号とセキュリティーコードが載った写真を送るよう要求。これまでクレジットカードを持ったことのなかったかんなさんは、言われるままに従った。その後、手数料としてアプリ上に入金するよう言われ、1万円を入金。するとすぐに1万円は消え、その後、アカウントと連絡がつかなくなった。

かんなさん
「だまされたってわかったとき、状況が理解できなくて。涙でグチャグチャになるぐらい泣いちゃって。つらかったですね、お金1万円無くなったっていう大きさが」

同様に、「ダーウィン社長」から金銭を求められたと訴える声はツイッター上でいくつも上がっていた。私たちもフォローしていたこのアカウント。取材のためにダイレクトメッセージを送ろうとしたが、アカウントにアクセスできなくなり、接触することはできなかった。

Twitter社は、取材に対し「他者を欺いて金銭や金融情報を取得する目的で、Twitterのサービスを使用することは金融詐欺のポリシーにて禁じられています。確認されたアカウントの行為に応じて適切な措置を取っております」とコメントした。

LINE登録、情報商材ページに誘導された

フォローした50のアカウント。そのうち半数の20余りは、プレゼントの応募条件や当選発表の確認に、LINEでの友だち登録が必要だった。私たちは、それらのLINEアカウントに友だち登録してみた。

するとすぐにメッセージが届いた。メッセージには、リンクがついていた。そのリンクをクリックすると外部のサイトに飛び、表示されたのは当選の情報ではなく「簡単に○百万円稼げる」などと書かれたページだった。稼ぎ方のノウハウなどを売るいわゆる情報商材だ。メールアドレスの入力やセミナーへの参加予約を求めるものがほとんどだった。

情報商材業者を直撃

こうした情報商材を売る業者が、みずからの商材を買わせるため現金プレゼント企画を行っているのだろうか。真相を探るため、業者のページに載っている住所を訪ねることにした。確認できたのはおよそ10か所。行ってみたが、多くが架空の住所で、実際に会社の事務所があったところでも、ほとんどが取材拒否だった。そうした中、都内のある業者が取材に応じた。

記者:現金プレゼント企画から誘導されたのが、こちらの商材だったのですが。

業者:私たちは現金プレゼントはやってませんね。

業者は、現金プレゼントには全く関わっていないと答えた。説明によると、私たちが受け取ったLINEのメッセージのリンクは、業者自身が配信しているものではなく、ネット広告の仲介業者を介して、LINEアカウントの所有者が配信した広告だという。商品の購入などが成約した場合に、広告を貼った人に報酬を払う「アフィリエイト」という仕組みで、業者自身は直接関わっているわけではないと話した。

プレゼント企画の関係者か

では、私たちが応募したプレゼント企画から、登録を誘導されたLINEアカウントの所有者は誰なのか。私たちは20余りのアカウントのうち、ある1つのアカウントを運営している業者の情報を得た。その業者は、登記から、ネット広告やホームページ制作、アプリ開発などを手がけていることがわかった。

登記上の所在地になっている東京都内のアパートを訪ねた。呼び鈴を鳴らすと、出てきたのは30代から40代に見える男性。アフィリエイトについて話を聞きたい旨を伝えたが、「時間が無い」と話して、ドアを閉めた。日を改めて何度か訪ねたが、それきり出てくることはなく、結局、話を聞くことはできなかった。

現金プレゼントは“エサ”

現金プレゼント企画に応募して、見えてきた構図。それは、まず、企画の運営者は、ネットに幅広く拡散するツイッターで応募者の関心を引き、続いて個別にやり取りがしやすいLINEに誘導。そこで、情報商材の広告を送りつけ、業者から広告費として報酬を得る。現金プレゼント企画をいわばエサにして情報商材の勧誘へとつなぐ、「情報商材のアフィリエイトビジネス」だった。

LINEの配信だけで月に500万円稼ぐ

その実態はどうなっているのか。プレゼント企画と関係するアフィリエーター(アフィリエイトで稼ぐ人)からは、これ以上、取材ができなかったが、同じような情報商材のアフィリエイトで、多額の報酬を稼いでいたという30代の女性に話を聞くことができた。

女性は、現金プレゼント企画ではなく、「短時間で○○万円稼ぐ」などといったツイッターやインスタグラムなどの投稿を通じて1万人のLINEの友だち登録者を集めていた。

1万人に流す広告は、投資ノウハウなどの情報商材。広告を受け取ってクリックした人が、リンク先のページで無料のメールや会員の登録をすれば、女性に報酬が入る。例えば、メールの登録では、報酬が1件3000円になると言い、多いときには月に500万円の収入を得ていると話した。

女性
「メール登録だと、1万人のうち100人が登録すると、1回広告を配信しただけで30万円。10回流せば300万になります。正直、非常に楽ですね」

そして女性は、SNSで集めた「楽してお金を稼ぎたい」などと考えている人の「リスト」を持つことが、ネットビジネスでは大きな価値を持つと語った。

女性
「インターネットビジネス業界は、“リストが命”と言われるほど、リストは価値を生み出し続けるものなんです。お金に興味がある方を集めることができたら、商材をかなり売りやすいですね」

リストというのは、まさにアカウントについている友だちのこと。続いて女性が口にしたのが、多くの友だちがいるアカウントの売買についてだった。

女性
「アカウントのリストを使えば、他の人の商品や自分の商品を販売できますが、最近、悪質な方が増えてきていて、アカウント自体を転売する方がいるようです」

情報弱者のリスト=アカウントが売買されていた

フォロワーや友だち登録がついた、SNSアカウントが転売されているーー 調べてみると、ネット上では、複数のサイトやSNSで、アカウントが販売されていることがわかった。

驚くのはその値段だ。「友達数2200人のLINEアカウント」が2000万円、「友達数1800人のLINEアカウント」が150万円。
値段は属性などによって異なるようだ。

2000万円のアカウントの説明欄には、「仮想通貨やFX投資系の情報を流していたアカウント。数億円稼げる」との記載があった。また、150万円のアカウントは「都内の有名私立大学の学生」とあり、「大学生にアプローチしたい方、高学歴の学生をターゲットとしたビジネスを始めたい方などにおすすめです」とあった。

明らかに現金プレゼント企画で集めたと書かれているアカウントは見つからなかったが、さまざまな属性のアカウントが「リスト」として売られていた。

今回、私たちは、「お金に困っている人の相談に乗る」というアカウントを入手した。

そのアカウントには、1000人が、リストとしてぶら下がっていた。そして、そのアカウント主と、お金に困っている人との切実なやり取りが残されていた。

アカウント主
「いくら必要ですか?」

「最低2万5000円、最高3万円。15歳の女子、会いたい人が遠くに住んでいて急きょ会うことになったからです」

「58歳 男 働き方改革で残業ができなくなって、息子の病院代が払えなくて困っている」

このほか、「生活保護を受給している」「ヤミ金に手を出しブラックリストに載っている」「離婚して、子供は○歳」などと極めてプライベートな情報も含まれていた。こうしたアカウントが売買されることは、アカウント名などの情報だけでなく、個人的なやり取りそのものの流出にもつながる。悪用されれば、深刻な被害を生みかねない。

アカウント売買は規約で禁止

LINEは、こうしたアカウントの売買や情報商材のアフィリエイトを、規約やガイドラインで禁止している。

LINE社は私たちの取材に対し「LINE公式アカウントでは、投稿をモニタリングしていて、規約違反の行為が認められた場合はアカウント停止などの措置を取る場合があります。一部の利用者によるさまざまな不正行為に対しては、非常に遺憾に思っており、日々変化する不正行為への対応を進めることで、一般利用者の利便性を下げず、健全なコミュニケーションサービスの継続的な改善のための努力を続けて参ります」と回答した。

SNSを使った情報商材のトラブルが増加

一方、国民生活センターによると、情報商材のトラブルの相談件数のうち、SNSが関わるものは増え続け、その割合は3割を超えている。担当者によると、実際に、現金プレゼント企画への応募をきっかけに、投資用の商材の購入を勧められ50万円で購入してしまったなどの相談が寄せられており、「SNSを使った勧誘が増加し、一見投資話に見えない形を装うなど巧妙さを増しているので注意してほしい」と話している。

見えてきたのは

SNSに次々と現れる「謎の現金プレゼント企画」を追って見えてきたのは、SNSが特性に応じて使い分けられ、情報商材の勧誘や不正なアフィリエイト広告の温床になっていた実態だった。さらに、お金を必要とする人のフォローや友達登録が集められたアカウントは、金を生むリストとしてときに売買までされていた。

こうした実態については、3月4日(水)午後10時からのクローズアップ現代+「追跡!謎の現金プレゼント 気づかぬうちに個人情報が売られる!?」でも詳しくお伝えします。

ネットワーク報道部記者
田隈 佑紀
ディレクター
中松 謙介

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