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潜入取材!中国やらせレビュー工場

2019年10月2日

ネット通販で消費者が商品購入のよりどころにしている「レビュー」が不正に操作されている実態を追ってきた。ネット通販サイトにあふれる「やらせレビュー」はどこで生まれ、どこからやってくるのか。取材を進めていくと見えてきたのは中国の出品者の影。その影を追って海を渡った。
(ネット広告の闇 やらせレビュー取材班)

「やらせレビュー」についてはこちらも

“やらせレビュー”のリアル

レビュー募集商品 買ってみた

やらせレビューの募集はフェイスブック上で堂々と行われていた。

募集に応じて指定された商品を購入し、高評価のレビューを書き込めば、購入の代金が返金され、商品がタダで手に入るという仕組みだ。商品を転売すれば、利益を上げることもできる。

どんな人が募集しているのか。中国人のような名前が散見される。連絡先を公開している人に電話取材を試みた。

「もしもし、日本のテレビ局ですけど」

取材であることを伝えると、皆、口を閉ざす。正面から取材を尽くしたが、話を聞くことはできない。

そこでレビューを書いてみたいと連絡をとってみた。

Q「もしもし、レビューを書いたらお金をもらえると聞いて…」

A「レビューを書いて、スクリーンショットを撮って画像を送ってくれれば2日以内に返金する。私はレビューを集める“仲介業者”だ。たくさんの出品者とつながっている」

電話に出た女性は中国にはこうした仲介業者が多くいると話した。レビューを募集しているのは12の商品。どんなものなのか、購入してみることにした。

3日後、商品が届いた。中国製のUSBケーブル、イヤホン、モバイルバッテリー。見た目はいたって普通のようだ。

届いた商品をチェックすると…

商品を詳細にチェックしてみると、イヤホンは接続がやや甘いものの問題なく使えるようだった。モバイルバッテリーはいくら充電しても満タンにならなかった。

正直にレビューを書いていいのか、仲介業者に聞いた。

“仲介業者”を直撃

Q「もし星3つを付けたら、それでも報酬をもらえるか?」

A「それはできない。星5つをつけてくれなければ報酬もあげられない。評価と性能に関しては全く別の話だ。アナタはわれわれの仕事に協力するだけだ」

Q「質のよくない商品を褒めるのは罪悪感を感じる」

A「この製品がよくないと思うなら、返品して。それについて評価を書かないで、直接返品して」

よくないレビューを書くことは許されず、それなら返品しろという。いったい仲介業者と出品者の関係はどうなっているのか、聞いてみた。

Q「その製品が売れてよい評価がつくと、あなたは出品者からいくらもらえるのか?」

商品の評価と何の関係があるのか?といぶかられたが、繰り返し聞くうちにしぶしぶ答えた。

A「製品が売れた数に応じて報酬があり、1つにつき10元(=150円)もらえる。私は以前、アマゾンに勤めていたが、子どもを作りたいと思い、アマゾンを辞め、家で仕事をしている」

どういう立場かはわからないが、女性は以前アマゾンに勤めていたと話した。最後にレビューの売買に携わることに罪悪感は無いのか聞いた。

Q「アマゾンに出る商品の信用性が無くなる影響について考えないのか?」

A「アマゾンの評価を信用するのはおかしいことだ。激しい競争の中で皆、商売のよい方法を考えている。はっきり言って、今私がいる中国ではあなたのような考えを持っている人はいない。皆、過酷な競争の中に生きているから」

中国のシリコンバレーを直撃

仲介業者への電話取材で聞けたのはここまで。しかし出品者が仲介業者に報酬を払い、偽レビューを募集している構図の一端は見えた。

さらに全貌をさぐるべく、追跡を続ける。手がかりになったのはサイト上の出品者の情報。ほとんどが中国だった。

中でも、やはり「深※セン」(※「土」へんに川)の住所が目立った。中国の深セン市は、“紅いシリコンバレー”とも呼ばれ、先端企業や工場が集積する一大ハイテク都市だ。

取材班は深センに向かった。出品者の住所の情報を頼りに、まずはイヤホンのメーカーを訪ねる。出ている看板は出品者の会社名とは異なるようだ。

事務所の中にいたのは2人の男性。ソファーに座ってキウイを食べている。休憩中のようだ。

Q「お聞きしたいのですが、(イヤホンの会社名)ですか?」

A「違います」

Q「日本のアマゾンで商売していない?」

A「知らないよ。住所が盗まれたのかな」

この会社はイヤホンと全く関係ない中古の電化製品を販売する会社であることがわかった。

その後も出品者の住所を訪ねたが、架空の住所ばかりだった。訪ねること5件、ようやく出品者に会うことができた。

Q「やらせレビューをしていますか?」

A「実際のところ、私たちは少しだけしかやっていない。仲介業者を使っているような大企業もあるかもしれないが、私たちは小規模にやっているだけ。もっと大きい企業を回ってください」

やらせレビューをやっていることは認めたが、詳細を聞くことはできなかった。

“日本人は判断する意識低い”

行き詰まりを見せていた深センでの出品者への取材。ところが9月上旬、日本にいる取材班に突然、情報がもたらされた。深センのある家電メーカーの日本支社に勤めているという女性が取材に応じると言うのだ。

女性が話したのは電話で話が聞けたような仲介業者を使わずにレビューを操作する方法だった。女性の会社では日本にいる中国人留学生や日本人170人を使って、これまで数百件のレビューを書き込ませてきたと明かした。

この会社がレビュー募集の舞台に使っていたのは利用者10億人とも言われる中国の最大のSNS「ウィーチャット」だった。

「まず、ウィーチャットでグループを作る。日本で知り合った留学生にグループのメンバーになってもらう。彼らはまた、自分の友達を誘う。グループの人数がどんどん増えるようになる。グループには中国人も日本人もいる」

日本に拠点のない中国企業にとって直接日本人を募集するルートにはかぎりがある。このため中国人留学生を中心にグループを作り、日本人へも人脈を広げているようだ。

中国企業から見て、そこまでレビューは必要なものなのか。

「商品にレビューをつけるのは欠かせない。これは形を変えた広告費だ。日本人はレビューがないと、まずその商品を買わない。2つの同じ商品がある場合、見比べてレビューがたくさん付いているほうを選ぶ。これは日本人の習慣。食事といい、宝くじといい、長い列のところに行きたがる。列が長ければ長いほど、そこに行きたがる。自分で判断するという意識が低い」

「やらせレビュー」は広告だと話す女性。中国からの出店が相次ぐようになった今では日本の通販市場における中国企業どうしの競争も激しいという。

「アマゾンの日本市場は数年前から多くの中国企業が進出しています。アメリカでの競争が激化するなかで私たちも日本に進出してきました。ただ日本市場に進出した出品者で利益を上げたのは10社のうちおそらく1社しかないと思います。赤字になったら撤退、また新しい出品者が入ってきて、赤字になったらまた撤退するといった状況です」

世界中の商品が手軽に手に入るようになった今、国境を超えたしれつな競争がやらせレビューに拍車をかけている。

“大規模レビュー工場”

しれつさを増しているように見えるやらせレビュー。取材を続ける中で、それを物語るような動画を入手した。

スマートフォンが大量に並ぶ“レビュー工場”(動画26秒)

中国のとある場所のビルの一室。ざっと数十台、大量のスマートフォンが並べられ、それぞれが人の手を使うことなく、ひとりでにアマゾンの商品ページを操作している。

映像の提供者によると一台一台がプログラムに従ってアマゾンで商品を注文し、レビューを付けているという。大量にレビューを生み出すことができるシステムだ。

こうしたシステムを駆使して世界中のレビューを操作する中国の“大規模レビュー工場”の担当者から話を聞くことができた。

訪れたのは中国中部のある大都市のオフィスビル。対応した女性は、会社は設立5年で特にデジタル製品へのレビューを多く扱っていて、アメリカ、日本、ヨーロッパのアマゾンでレビューの操作が可能だと話した。

出品者を装い、レビュー操作について詳しく知りたいと持ちかけた。

Q「費用はどれくらいかかりますか」

A「1つのレビューで40元(=約600円)。あなたたちは遠くから来たので優待もある。多くのレビューが必要でランキングやキーワードをトップに載せたいのなら、コンピューターが比較的安く仕上がるのでお勧めだ。もし商品の価格が高いんだったら、実際の人が書くレビューもある。こちらは1年以内の削除率は1%にも満たない」

人が書くほうがアマゾンから削除されにくいが、コンピューターのほうが安く大量にできるようだ。

Q「1日に数百件ものレビューがついている商品がありますよね」

A「それは“合併”というやり方。アマゾンの仕組みで、いくつかの商品に付けられたレビューを統合して、一つの商品のレビューに見せかけることができる。ただ“合併”はリスクもある。たとえば洋服とかばんのレビューを合併した場合、ほかの商品のレビューも付くことになるので、アマゾンに見つかるリスクも高く、すぐ店を閉められることにもなる。アカウントも停止され、会社も運営できなくなることもある。“合併”は同じ種類の商品でしたほうがいい」

女性は大きな売り上げを望むなら、アマゾンからの削除も織り込んで大胆にやれと話した。

「ビクビクしないで大規模にやらないと何もできない。レビューが消されるのなんて普通。その分新しく書けばいいだけ。何の役にも立たないものでもレビューが多ければ売れる。消費者はそういうものだ」

コンピューターを使って一気に数百件のレビューを付け、人気商品に見せれば売り上げは急増する。やらせレビューはもはや、個人のレベルを超えていた。

世界に広がるやらせレビュー

アメリカやヨーロッパでもレビュー操作をしていると語った中国の業者のことばどおり、私たち取材班の調べでも、やらせレビューと見られる書き込みは世界各国のアマゾンで見つかった。

現在、アマゾンは世界16か国でサイトを展開している。このうち日本含めて7か国のアマゾンでも販売されていたあるイヤホンのレビュー、約5000件についてすべて分析したところ、このうち5か国で、別のアカウントで全く同じ文章のレビューが書き込まれていることが確認できた。

世界で大規模にはびこる「やらせレビュー」。当のアマゾンはどう対応しようとしているのか。私たちの取材に対し、アマゾンジャパンが文書で回答した。

「Amazonは、お客様がご自身の経験や意見を書き込まれるレビューが他のお客様のお買い物に役に立つ価値ある情報であると考えており、カスタマーレビューの信頼性を守るために多大な投資をしています。いかなる不正なカスタマーレビューも容認しません」

「Amazonは不正なレビューを防止し幅広く検知するため、スタッフによる調査とオートメーション化されたテクノロジーを組み合わせて運用しています。マシーンラーニングテクノロジーを利用して、新規および既存のレビューのすべてを24時間365日体制で分析し、不正レビューのブロックや削除をしています。さらに新しい情報を自動化システムに取り入れ、不正検知の仕組みを改善し、より効果的なものとなるよう、継続して引き続き取り組んでいます」

「やらせレビュー」はもはやテクノロジー競争の様相を呈してきたようにも見える。SNS時代、あらゆる口コミや評判は商品の売り上げを伸ばすための広告や宣伝として活用され、消費行動をあおるマーケティングの道具になっていく。

国内で10兆円に迫り、拡大を続けるネット通販市場に漂う私たち消費者のよすがの一つになってきた「商品レビュー」。その信頼性が今、失われようとしている。

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