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新聞社のニュースサイトに「フェイク広告」

2019年1月22日

芸能人の写真などを無断で加工・使用し、ウソの体験談などをまじえて商品を紹介し、消費者をだまそうとする、いわゆる「フェイク広告」が、少なくとも12の新聞社のニュースサイトに掲載されていたことが、NHKの調べでわかった。

新聞社のサイトにフェイク広告

フェイク広告が掲載されていたのは、▼福島民報、▼茨城新聞、▼埼玉新聞、▼神奈川新聞、▼信濃毎日新聞、▼福井新聞、▼伊勢新聞、▼徳島新聞、▼佐賀新聞、▼大分合同新聞、▼宮崎日日新聞、▼沖縄タイムスの、あわせて12の地方新聞のニュースサイト。少なくとも去年の12月から今年1月上旬の間、表示される状態になっていた。
これらのサイトでは、ニュース記事の下にある「あなたにおすすめ」の部分に、関連する記事とあわせて広告が表示されているが、うその情報は、広告のバナー画像をクリックしたときに開く商品の広告サイトに載っていた。
フェイク広告は2種類、見つかった。

そのうちの1つ、ダイエットサプリメントのフェイク広告では、女優・土屋太鳳さんが、あたかも商品を手に持っているように加工された画像が掲載されていた。
取材班が調べたところ、元になった写真は、土屋太鳳さんのインスタグラムに、去年、投稿されたもので、元の写真に写っていたコップが、サプリのパッケージにすり替えられていた。

もう1つは、レギンスの広告だった。

女性雑誌の「anan」に掲載された人気アイドルグループ「欅坂46」のメンバーが登場する記事が使われ、レギンスの商品が紹介されたかのように見せかける、ウソの内容になっていた。
元の記事は、2016年に発売された号に載ったもので、元の記事にはレギンスの写真は無く、その部分には、グループのメンバーを紹介した文章が載っていた。
タレント事務所や出版社は、いずれも、NHKの取材に対し、商品を紹介した事実はなく、画像の加工や使用も、当然、許可していないと答えた。
私たちは、画像を無断で改ざんするなどして、あたかも商品が紹介されたかのようなうその内容を捏造して消費者をだまそうとする広告を「フェイク広告」と名付け、その実態を明らかにする取材を始めた。

サイトの「運営会社」を追跡

フェイク広告を作ったのは一体、何者なのか。まず、フェイク広告が載っているサイトに書かれていた「運営者」の情報を手がかりに追跡することにした。
フェイクが掲載されていた2つの広告サイトには、それぞれサイト運営会社の名前と住所、それにサイト運営責任者の氏名と電話番号が記載されていた。

住所は、神奈川県川崎市と東京都江戸川区だった。会社の登記簿を探したが、いずれも、該当する会社は、見つからなかった。そこで、その住所を直接、訪ねてみることにした。

「そんな人、いない」

川崎市の住所にあったのは、5階建ての、古い小さなマンションだった。サイト運営責任者の住所欄には部屋番号が書かれておらず、20ほどある部屋を一軒ずつあたる必要があった。
このマンションの1階部分は店舗になっていた。
話を聞くと、サイトの運営会社に心当たりはないが、建物を管理している不動産会社を教えてくれた。
不動産会社を訪ねて事情を説明、「できる範囲で」と取材協力を依頼し、サイト運営者の名前を伝えると、こう答えた。
「そんな名前の人は聞いたことありませんね。いま住んでいる方にはいらっしゃいませんし、さかのぼって10年くらいは、その名前の方は記憶にないですね。このマンションは高齢で単身世帯の方がほとんどですし、会社が入っているなんて話も、聞いたことはありません」
また、サイトには、「責任者の電話番号」が記載されていたが、その番号には何度電話をかけても「電源が入っていません」を繰り返すばかりだった。

もう一つ、江戸川区の住所も、建物は古いアパートで、似たような状況だった。こちらは、責任者とされる人物の電話番号にかけると、若い男性が出た。
サイトのことを訪ねると、男性は、非常に驚いた様子で、「まったく心当たりがない」と言い、次のように話した。
「この電話は、親とのホットライン用にと思って去年、契約した専用の番号なので、私か両親ぐらいしか知らないです。会社なんて全然知りませんし、気味が悪いですね」
取材を進めると、この江戸川区の建物にも、該当する会社は存在せず、運営責任者も住んでいないことが確認できた。

「しつこいから、取材は断る」

追跡の手がかりを見つけようと、ニュースサイトに掲載されていたフェイク広告を調べていくと、新たなことがわかった。
フェイク広告で紹介されたダイエットサプリと「やせる」レギンスの販売会社のサイトにアクセスすると、そこにも広告サイトと同じ、捏造された「フェイク画像」が使われていたのだ。

この販売会社の本社は、大阪市内に登記されていたが、さらに取材を進めると都内にある雑居ビルに運営の実態があるとみられることがわかった。
詳しい事情を尋ねようと、私たちはこの会社を直接、訪れた。
その会社は、JR総武線のある駅から歩いて5分ほどにある、飲食店が立ち並ぶ一角にあった。

階段を上って該当するフロアに行くと、ドアは透明のガラスで、事務所内の様子が見えた。がらんとしたフロアの一角にはパソコンと事務机が数十台並べられた「島」があり、そこで10人ほどの若者がモニターに向かって作業をしていた。
何をしているかはわからない。
パソコンの「島」から離れたところには、独立した広めの机があり、50歳前後の男性が1人、目の前に並べたモニターに向かってキーボードをたたいていた。私たちは、事務所のドアをノックし、この男性に話を聞くことにした。
「NHKの取材班ですが、○○(代表の名前)さんですか?」
男性は「そうですが」と答えたが、「忙しい」と言って取材には応じなかった。
「御社のサイトで、有名人の写真が無断で掲載されていますが?」と尋ねると、男性はいらだった様子で、「わからない。自分は知らない」と答えた。
私たちは、この男性が事務所を出てくるまで待って、再度、取材を試みたが、代表は名刺交換も拒み、「しつこいから、取材は断る」と言って、足早に駅の方向へと歩き去った。
詳しい事情は聞けなかったが、この取材の2日後、新聞社のニュースサイトから誘導される広告用サイトから、土屋太鳳さんと「anan」の画像は消えた。
しかし、この販売会社のサイトには、いまだ、この2つの画像が掲載されている。(1月22日現在)

原因は「レコメンド」システム

フェイク広告が掲載されていた新聞社から事情を聞くと、こうしたフェイク広告は、ニュースサイトに使われている「レコメンド・ウィジェット」と呼ばれるシステムを通じて配信されていたことがわかった。
レコメンド・ウィジェットは、それぞれの記事に関連する他の記事を自動的に選び「あなたにオススメの記事」としてサイトにアクセスした人の画面に表示するシステムで、オススメのニュース記事と一緒にネット広告も配信される。
ニュースサイトの多くが、自社のサイトに長く滞在してもらおうと、このシステムを導入している。このレコメンド・ウィジェットのシステムは、新聞社とは別のネット広告配信会社が作っていて、そこにフェイク広告が紛れ込んでいたという。
今回、問題となったフェイク広告は、都内のネット広告配信会社、「Speee」の提供する「UZOU」というサービスで配信されていた。

Speee社は、NHKの取材に対して、「一部の代理店・広告主から不適切な広告が出ている可能性があり、弊社としても提供サービスの改善に務めるため、今後の対応を検討中」としたが、一体、どこの代理店や広告主と契約していてこういうことになったのか、それ以上の詳しい説明はなかった。

困惑する新聞社

フェイク広告がサイトに掲載されていた新聞社は、この事態をどのように捉えているのか。
私たちが、フェイク広告を確認した12の新聞社に取材を申し入れた。回答を寄せた社の中で、自社のサイトにフェイク広告が掲載されていた事実をはっきりと認識していた社は一つもなかった。
ある地方新聞社の幹部は、「広告の内容は広告配信会社に任せていて、私たちの責任ではない」と言い張り、取材には応じられないとした。
また他の新聞社の担当者は、「チェックしようにも数が膨大で、正直、無理。まずい広告は見つけ次第、配信されないように広告の管理画面でブロックするが100%は防げない」とした。
また、ある地方新聞社の担当者は、匿名を条件に苦しい実情を明かした。
「私たちのニュースサイトは県内で起きたことを全国のより多くの人に発信するため、無料で公開しているが、それにはやはりサイト内での広告配信が必要。こうしたシステムを自社開発するにはお金も時間も人数もかけないとできないが、一地方新聞社にはそんなこと到底不可能で、外部のサービスに頼らざるを得ない」
そして、次のように付け加えた。
「このサービスは他の新聞社も使っているので安心できると思いこんでいた。広告の内容についても信頼して任せていたのに、このようなことになったのは本当に残念だ」
日本新聞協会は、「新聞広告倫理綱領」の中で「新聞広告は、真実を伝えるものでなければならない」と、まず最初に掲げている。
一方、どの広告の掲載を認め、どの広告を「アウト」とするのか、個別の判断は、各新聞社に委ねられているという。
私たちを巧みに騙そうとうするネットの「フェイク広告」が、新聞というメディアのチェックをもかいくぐり、私たちの手元に届けられている。

新聞各社の回答全文

NHKは、フェイク広告を掲載していたことが確認できた12の新聞社に対して取材を申し込み、次の4点について尋ねた。

  • 1.フェイク広告が、掲載された理由や背景は?
  • 2.フェイク広告が掲載されたことへの受け止めは?
  • 3.フェイク広告の掲載を把握していたか?今後の再発の防止策は?
  • 4.フェイク広告の掲載を自ら公表し、説明する予定は?各新聞社からの回答は、次のようになった。

福島民報

不適切なネット広告が表示されているとの指摘を受け、配信元に対して改善を申し入れ、すでに対策は講じました。今後、不適切なネット広告が流れないようブロック対策を強化しました。このたびの配信元の不適切な広告についてユーザー皆様には深くおわび申し上げます。

茨城新聞

コメントできない。

埼玉新聞

コメントできない。

神奈川新聞

(理由や背景)
弊社では昨春から、Speee社の提供するレコメンド機能付き広告の配信プラットフォームUZOUを積極的に活用しております。弊社ニュースサイト「カナロコ」のユーザーが、それぞれ読んだ記事に関連して広告が出る機能ですので、ユーザーによっては「今、あなたにオススメ」という枠内でこの広告が掲載されていたことになります。
(受け止め)
広告代理店やSpeee社の広告審査をすり抜けて、不適切な広告が掲載されていたのであれば、ユーザーに対して大変申し訳なく思っております。
(フェイク広告掲載の把握と再発防止策)
掲載については把握しておりませんでした。弊社ではネットワーク型の広告を他にも活用しており、日々の膨大な広告在庫の適切性をチェックするのは物理的に難しくはありますが、可能な範囲でその内容を確認し、弊社サイトにふさわしくないと判断した場合は、配信停止の措置を執ってまいります。
(公表の予定)
現在のところ説明する予定はありません。

信濃毎日新聞

誤解を招くような広告が当社のウェブサイトに掲載されたことは誠に遺憾であり、ただちにネット広告配信会社に対応を申し入れるとともに、当社としても当該広告が再び掲載されないようブロックしました。アド・ネットワークの仕組み上、掲載される広告の内容を一つ一つ事前にチェックすることはできず、掲載可能な広告の分野を指定するなどの措置を講じてきましたが、ネット広告配信会社とさらに協議し、適正な広告掲載に努めてまいります。

福井新聞

ネット上の広告について弊社では、他の多くの新聞社でも採用されている大手の代理店、広告配信会社から配信されたものを掲載しています。個別の広告について、問題があるといった指摘を外部から受けた場合には、弊社で確認した後に、必要があれば配信会社などに連絡して掲載を停止する措置をとっています。なお、個別のケースにおける広告運用などに関しては、回答を差し控えさせていただきます。

伊勢新聞

コメントできない。

徳島新聞

ご指摘いただきました“ネット広告”に関しましては、現在詳しい状況を確認中です。

佐賀新聞

詳細については調査中であり、取材を受けられる段階ではありません。

大分合同新聞

弊社では、現在Speee社に対し、ご指摘いただきました広告が虚偽のものであったのかどうか、またそうであれば、どういった経緯でSpeee社のコンテンツガイドラインを掻い潜って配信されることになったのか、また弊社サイトに掲載された日時や期間、PV数などについて裏付けを取るべく調査を依頼している状況でございます。同調査に対するSpeee社からの回答を受け、事実確認を行った上で、あらためてご質問に回答させていただきたく存じます。

(1月25日にコメント)
ご指摘を受けました配信広告について、調査の結果、虚偽の内容であると認定いたしました。弊社はリコメンドウィジェットを導入するにあたり、あらかじめ決められたコンテンツガイドラインに準拠した審査を行った上で、システム提供社が広告を配信することを確認しておりましたが、今回このガイドラインにそぐわない広告が配信されておりました。

また弊社では同コンテンツガイドラインとは別の観点で、疑わしいと思われる表現などを含むものについて、現在配信されている広告を管理できる画面上で定期的にチェックを行い、掲載を不可にする作業を行っています。結果的にチェックができていなかった期間、ご指摘を受けた配信広告を表示する状況となってしまいました。

今回の事案を受け、ネット広告の取り扱いについてあらためて厳しく監視していくとともに、広告配信を行うシステム提供社に対し、審査を厳格に行い、コンテンツガイドラインに準拠した広告の配信を徹底するよう申し入れ、新機能を追加するなどの再発防止策を講じてまいります。今後、弊社サイトに掲出される広告の信頼性を毀損することがないよう心がけ、ユーザーの皆さまに安心してご閲覧いただけるよう取り組んでいきたいと考えております。

宮崎日日新聞

ネット広告に関する取材につきまして、社内で検討した結果、今回は誠に申し訳ありませんが、お受けすることができない結論に至りました。

沖縄タイムス

昨年末、広告配信事業者から配信された広告について、当該広告のリンク先に虚偽の内容があるとの指摘を受け、調査した結果、虚偽の内容であることを確認しました。確認した翌日に同広告の掲載を中止しました。同広告配信事業者に対してはチェック体制の強化と不適切な広告が配信されないよう強く申し入れるとともに、弊社としても広告の掲載基準に適合しないと判断した場合、広告掲載を中止するなど引き続き厳正に対処する所存です。

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