ミガケ、好奇心!時事もんドリル

星

“チョウの楽園”を私たちがつくっていた!?

夏休みに自由研究に取り組んだという人もいるのではないでしょうか。昆虫に関する研究は定番の1つですよね。なかでもよく見かけるのはチョウです。そのチョウの暮らす環境を詳しく調べてみると、実は人間の活動が生息の大きなカギを握っていることが分かったのです。

すむ場所で3つに分類

チョウは中学入試の理科の問題でも取り上げられてきました。
例えばこちらの問題。

問題

チョウに関する観察記録の一部です。
『モンシロチョウは畑のそばに多く、住宅地では少ないようでした』
その理由を下記から答えなさい。

畑にあるキャベツなどの野菜に産卵するから。
畑では天敵になる鳥が少ないから。
住宅地では人間が多く、捕まえられてしまうから。
住宅地ではアゲハが多く、アゲハに追い払われてしまうから。

(多摩大学付属聖ヶ丘中学校 2019年 改題)

答えは、「ア」
モンシロチョウの幼虫はキャベツなどの葉を食べて成長するので、そこに産卵するんです。
このように、チョウは幼虫の時期の“食べるもの”によってすむ場所が決まるのです。

そして、このすむ場所で、チョウは大きく3つに分類できます。
草原で暮らす「草原性」、人の住む場所の近くに暮らす「荒地性」、そして森の中で暮らす「森林性」のチョウです。

失われていくチョウの生息地

チョウの生息地の1つである草原。
花が多く咲くため、エサとなる蜜を得ることができる貴重なすみかです。
この草原、実は日本では長い間、人の手で守られてきたといいます。
生態学が専門で、子どもの頃からチョウが大好きだという東京農工大学教授の小池伸介さんに話を聞きました。

小池さん
「日本は非常に雨も多いですし、あたたかい場所ですので、放っておくと基本的には全部森になっていくんですよね。草原が自然には出来にくい場所なのです。例えば、燃料をとるために木を切るなど、森にならないように人間が手を入れていた場所というのが、人間がつくる草原でした」

しかし、草原はどんどん減ってきているといいます。
かつては木材を得るために定期的に行われていた木の伐採が、化石燃料などの利用で減ったためです。
100年前には国土の10%以上を占めていた草地は、現在では1%にまで減少しています。

チョウにとっては大きな打撃です。
絶滅のおそれがある野生生物をまとめた環境省の「レッドリスト」に記載されているチョウは、日本に生息する種類のおよそ30%にのぼります。

送電線の下はチョウの楽園

では今、チョウはどんな場所に多く生息しているのでしょうか。
小池さんは、チョウ好きの人たちの間ではよく知られたある場所を調査することにしました。
それは、送電線の下です。

小池さん
「チョウの愛好家の間では、送電線の辺りにいくと、いろんなチョウがいることは経験的に分かっていました。送電線の下や周りは、定期的に木を切っているので、草原のような場所が常にあって、チョウにとって実はいい場所なんじゃないかと思いました」

調査を行ったのは、ある地域の送電線の下のほか、周辺の森、林道など77か所。
直進50メートルを5分かけて歩き、前方、半径5メートルの範囲にいるチョウを目視で数えました。
その結果、日本で見られる種類のおよそ4分の1にあたる62種、のべ2123の個体が観測されました。

その平均値を示したグラフです。
「草原性(草地性)」「荒地性」「森林性」、いずれも緑色で示した「送電線の下」が最も多くなっています。
この理由について小池さんは、こう話していました。

小池さん
「成虫が蜜を吸う花がたくさんあって、幼虫の時にも成虫の時にも食べる物があるという意味で、いろんなチョウのニーズを満たす場所であるという言い方ができます」

つまり、人の手が適度に入ることで、成虫だけでなく、幼虫にとってもエサが豊富に存在する環境になるのです。
人間の活動が、チョウの暮らしやすさに一役かっているのですね。

閉鎖されたスキー場では…

小池さんは、さらにスキー場でも調査を行いました。
適度に管理されるゲレンデも、チョウの生息地として知られているそうです。
調査では、“閉鎖されたスキー場”も対象にしました。
管理されなくなると、どんどん草木が伸び、最終的に森に戻っていくため、それがチョウの生息にどう影響しているかを調べました。

小池さん
「当初は、草原性のチョウはだんだんすみにくくなっていって、反対に、森にすむようなチョウがどんどん増えていくのだろうと想定していました」

調査の結果、閉鎖から長い時間がたったスキー場ほど、チョウの数が全体的に減っていました。
しかも、森に戻っているにもかかわらず、森に暮らす「森林性」のチョウの数も減少していたのです。

小池さん
「スキー場をつくるときに、ゲレンデをなだらかにするので、他の土を持ってきたり、掘ったり埋めたりを繰り返すことで、土の中にあるような種がなくなってしまうなどして、本来の森に戻らなかったというのが、森林性のチョウの数も少ないことに影響していると考えられます」

一見、森に戻ったように見えても、幼虫が食べる植物が育っていなければ、チョウは暮らしていけなくなるのです。

人の手で保たれる多様性

最後に、2つの研究から私たちはどんなことが学べるのか聞いてみました。

小池さん
「共通しているのは、人間が手を入れ続けないと生活できない生き物が結構いることです。(自然と)どういう距離感で、どうつきあっていくかを考えていかないといけないと思います」

最近は生物多様性を守ることの大事さを考える機会が多いですが、見方によっては、人の手が入ることで保たれる多様性もあるということですね。

「週刊まるわかりニュース」(日曜日午前8時25分放送)の「ミガケ、好奇心!」では、毎週、入学試験で出された時事問題などを題材にニュースを掘り下げます。
「なぜ?」、実は知りたい「そもそも」を一緒に考えていきましょう。

ミガケちゃん
なるほど