突然ですがこの音、聞こえますか?
まずは周波数が「11kHz」の音です。
続いてこちら、「13kHz」の音です。
そしてこちらが「16kHz」、いわゆる「モスキート音」などと呼ばれる高い周波数の音です。
※お使いのパソコンやスマートフォンのスピーカーやヘッドフォンの性能や再生に使うソフト、そして周囲の環境などさまざまな条件によって聞こえ方は違ってきます。聞こえないからと音量を上げた場合は、もとに戻しておくことを忘れないようにしてください。
「モスキート音」のような高い音は、年齢を重ねれば重ねるほど、聞こえなくなってきます。
聞こえる人、聞こえない人がいるこの音に、悩んでいる人が多いことがわかってきました。
耳が痛いー!これなんの音?
都内で暮らす、「るい」さん。聞こえる人、聞こえない人がいる高周波の音に戸惑った経験があるひとりです。
おととしの夏の終わりのこと、当時5歳だった娘が自宅で突然、耳の痛みを訴えました。

イラスト・有田リリコ
最初は何のことを言っているのか、全くわかりませんでした。
自分にはまったく聞こえないけど、娘には何かが聞こえている…。
娘が耳を痛がったのは、窓を開けていた時でした。
「あれかも・・・」
るいさんは数日前に、庭にあるものを設置したことを思い出しました。
モスキート音のような高い音を出して、野良猫を追い払う機械です。野良猫のフンに悩んで設置しました。

イラスト・有田リリコ
試しに電源を切ると「聞こえなくなった!」と娘。やっぱりこれが原因でした。
それからも娘と歩いて外出をすると、住宅地で「あ!また猫ちゃんの音がする!」と訴えてくるようになったそうです。

るいさん
るいさん
自分は聞こえないので、驚きというか、そんなところが問題だったのかと感じました。まさか猫だけではなく子どもにも影響があるとは思ってなかったので、よかれと思ってやってたことが自分の子を逆に苦しめたのかと思ってびっくりしました。
「耐えがたい」苦痛
都内に住む「りら」さんも、「自分には聞こえない音」が悩みでした。
5年前に中学生の息子と、買い物でスーパーに向かう途中の事。
中学生の息子が声を上げてよろめきました。
息子が指さす方向には、住宅の前に設置されていた猫よけの機械が。
「音を発している!」というのですが、りらさんには何も聞こえません。
りらさんには理解できませんでした。
それからは機械が設置されている道は息子が嫌がって通れなくなり、遠回りして別の道を選びました。
でもそのころ猫よけの機械を設置する住宅が増えて「ここもやだ」「あそこもやだ」と、通ることができる道がどんどんなくなってしまったのです。
息子は音を聞くと耳から頭にかけて痛がるようになって、しばらく頭痛がひかない時期もあり、日常生活に支障もきたしました。
息子の友だちの若い母親の中に聞こえる人もいたことで、「本当に音が出ているんだ」と理解しました。
しかし機械を設置している家庭は知り合いではなかったので、「猫よけの機械を外してください」とも言えず、警察に言ったりすると近所問題に発展すると思い、通る道を変える方法をとっていました。
息子におつかいをお願いしても「コンビニなら大丈夫」ですが、ホームセンターは入り口とレジで音がひどいところがあるらしく「ムリムリムリ!」などと言われてしまいます。
息子にとっては「耐えがたい苦痛」だといい、時にはテレビで放送しているドラマからも聞こえるということです。
寄せられた声 聞こえる人は…モヤモヤ
モスキート音のような高い音が住宅街でも聞こえることについて、このサイトに記事を掲載したところ、「私もモヤモヤしている」という声が多く寄せられました。
どうやら同じような思いをもっている人はたくさんいるようです。
大人は聞こえないけど、子どもは聞こえる「音」。
なぜ聞こえる人と聞こえない人とがいるのでしょうか?
年齢を重ねるにつれて聞こえなくなる
私がよく観測するのは1万9000ヘルツぐらいの音ですね
音を研究している神奈川工科大学の上田麻理 准教授。

上田准教授
ネコよけやネズミよけとして高い音をだす機械は、最近、住宅街や商業施設に増え始めているといいます。
上田准教授によると、人間が聞こえる音の高さは20ヘルツから2万ヘルツぐらいと言われ、個人差が大きいのですが、歳を取るに従って高い音から聞こえなっていくということです。
※詳しく!
人間は耳の中の鼓膜で空気の振動を捉えて、それを「かぎゅう(蝸牛)」と呼ばれるカタツムリの殻のような形をした器官に伝えます。
この「かぎゅう」が音の高さを聞き分けるのですが、なぜ年をとると高い音が分からなくなるのか?
「かぎゅう」に音を感知する「毛(有毛細胞)」があり、耳の入り口に近いほうが高い音を感知し、奥にいくほど低い音を感知します。この「毛」は入り口に近いところから抜けていくと考えられ、そのため年をとると高い音のほうから聞こえなくなると考えられています。

耳の模型 「かぎゅう」はどこ?
子どもは高い音がどこまで聞こえるのか上田准教授が調べたところ、最大で3万2000ヘルツの高音まで聞こえる子どももいることがわかりました。
生活の中で音を観測してみると、自動車が走っている場所や鉄道、一部の照明器具やIHの調理器具といった家電などからも高い音が観測されたということです。
こうした音について、聞こえない人に「聞こえる」と説明するのはとても難しいことです。
上田准教授
私が学会で発表しても聞こえない人には結構信じてもらえなかったり、データを見せても違う音を聞いているんじゃないか、という話もすごくあったりしたので。
やっぱり自分が聞こえないと聞こえない、と思ってしまう状況は誰でも起きると思っています。

カタツムリの殻のようなものが「かぎゅう」です
聞こえる人の声に耳を傾ける
かつては若者たちが深夜に騒ぐ公園で、若い世代にしか聞こえない高周波の不快な音を発生させる装置を、「治安対策」として設置した自治体もありました。
現在は動物よけの機械として、商業施設や住宅地などで使用されることが増えています。
知らないところで苦しんでいる人はいるかもしれませんが、聞こえる人と聞こえない人とで理解が難しいことが、この問題を複雑にしています。

あなたは聞こえる?聞こえない?
悩んだときにどう解決すればいいのか。
上田准教授によると、都内では関係者で話し合い対策を行うことで解決した商業施設があるということです。
上田准教授
ネズミがものすごく多く、飲食店や土産店があるので仕方なくネズミ撃退のために高い音がでる機械をつけていた商業施設があったんです。でも小さい子や若い人からうるさいって苦情がありました。
このときすぐに機械を外してしまうのではなく、どうしたら聞こえる人にとって音を回避できるかを考えて、できるだけ人に触れないところに機械を移設する対策をしたところ、苦情の件数が減りました。
大切なのは聞こえる人の意見に耳を傾けること、耳を傾けて、適切に測定して、データを研究していくことだと思います。
「こんな悩みが」「こんな解決方法が」お寄せください!
身近で聞こえる高い音についてのモヤモヤ、悩みや、「うちの近所ではこんな方法で改善した」といった体験、アイデアなど、下のフォームから、引き続きお寄せください。
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